異世界カボ屋の覚え書き

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魔酔いの森

第六十四話

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 ケラニは薪を拾いに行き、ケレンとアイギスさんは、入口が闘技場側になった塔の中で何かをするらしい。
 意外にも、アイギスさんの移動方法は、複数のヘビが御輿のように担いで行く感じだった。

 闘技場に残った僕とケウナは、後片付けというか、血抜きをする事になった。
 樹液を革袋に汲んで、血溜まりの場所に掛ける作業だ。

「ウナは戦いを頑張ったんだから、休んでて良いんだよ?」
「ノ、ノルと一緒にしたい!」

 相変わらず僕が全裸でいるからか、ケウナの動作がぎこちない。
 その反対に僕は、寒さと恥ずかしさを感じ難くなったようだ。
 アイギスさんによれば、アイリスさんの祝福が定着しつつあるからだとか。

「……裸の王様の次は、英雄か……」
「む……?」

 アイギスさんは他にも、過去に「着られず」の呪いを掛けられた「好色の英雄」がいた事を聞かせてくれた。
 通称、「裸の英雄」と呼ばれるその人は、衣服以外なら着用できると気付いて、裸の上に防具を装備し、矜持を保ったらしい。
 当時、「それが却って卑猥だ」と話題になり、今でも各地に「兜のみの英雄」などの絵画や彫像として残ってるそうだ。

「さっきのアイギスさんの話は興味深かったけど、僕は好色でも、英雄でもないよね……?」
「う、うむ。ノ、ノルは、い、異界の神だ!」

 どうやら、ケウナはそう認識してしまったらしい。
 寝物語で、僕の住んでた日本が、「神の国」って呼ばれてる事を話したのが、失敗だったかも……。
 肯定は出来ないけど、安易な否定も、ケウナを傷付けてしまいそうだから、話題を変えよう。

「ねえ、ウナ。魔鏡で連絡を取り合うのは、どうやってるの?」
「そ、そ、そ、それは……! わ、わ、わたしは……、いい、言えない……!」

 ん? なんで動揺するんだろう……?
 ひょっとしたら、あれかな? オーグ語の会話と一緒で、明け透けな内容だから……?

「じゃあ、他には何ができる? さっきラニは狼を入れてたけど……」
「あ、あとは、め、冥界の地図と図鑑だ!」

 図鑑は良いな! 面白そう!
 他にも個室があるそうだけど、使用条件が冥界の居住地域を解放する事だとか。

「それは、帰還に向けた大規模な作戦になりそうだね」
「うむ! 複数班で連携するとレンが、い、言ってた!」

 すると、ケレンとアイギスさんは、他の遠征組との調整をしてるんだろうな。
 僕も、僕の出来る事を頑張らないと……。

「みんな凄いね。目的に向かって、出来る事をしてる……」
「ノ、ノルは、わたしが守るし、わたしが、き、鍛える!」

 そうだった! 「僕が足手まといにならない」は最優先だ!
 それなら、分かりやすくて具体的に出来ることだ。

「うん! それじゃあ、片付け終わったら、早速、ウナに稽古を付けて貰おう!」
「うむっ!」

 どうやらケウナは、僕の速度に合わせて作業してたようだ。
 三倍速かという速さで地面の血抜きを終えると、足で砂地を掻いて土俵らしきものを作った。

「わ、わたしを全力で押すんだ!」
「この円の中から押し出すか、ウナを倒せば良いんだね?」

 ケウナが「フッ」と笑った。
 滅多に笑わない端正なケウナが、そんな風に笑うと、ちょっと胸がときめく……!

「も、もちろん、出来るとは思ってないけど、僕の国にも似たような……」
「さあ、来い!」

 大きく両手を広げるケウナの胸に飛び込み、体をつっかえ棒のように斜めにして押しても、びくともしない。
 弾力のある大木を押し続けるような感じで、足が空滑りする。

「足腰に力が入らなくなるまで続ける!」
「うん! やってみる!」

 ケウナは、体の成長に合わせた太さの木を相手に、幼少期からずっと続けてたそうだ。
 このシンプルにして、絶大な効果のあるトレーニングが、一歩も引かないケウナを作り出したようだ。

「はぁ、はぁ、これは堪えるね……。ウナを心から尊敬するよ」
「も、もっと強く! 体を密着させる!」

 ずいぶん長い時間、押し続けてる感じがするけど、実はそうでもないんだろうな……。
 足腰がガクガクして、息も上がって、もうしがみついてるだけな感じだ。
 体中が火照った所為か、下半身もかなりの熱を帯びて膨張してる……。

「あっ! 倒れる!?」
「こっ、これは事故だっ!」

 ケウナに抱き寄せられながら、その上に倒れ込むと、僕の下半身が僕以上の熱に包まれた。
 革の腰巻きしか着用してなかったケウナの中に入ってしまった様だ。

「ごめんウナ! 痛くなかった!? 今退くから……」
「こ……、これは、し、色欲じゃなくて……! が、我慢できなかった訳じゃなくて……!」

 足を絡め、更に深くまで迎え入れるケウナは、僕を離さないつもりらしい。
 偶然を装ったにせよ、ケウナに自己弁護させてしまうと、自責の念から「禁欲の行」に影響が出てしまいそう。

「ううん。違うよウナ。この勝負は、ウナを押し倒した僕の勝ち! だから勝者の権利として、ウナの体を好きにさせて貰います!」
「……う、うむ……! うむ!」

 と言っても、情けないほど全身が疲労して、はち切れそうな場所の抑えが利かず、呆気なくケウナの上に倒れ込んでしまった。
 それでも、ケウナは体を小刻みに震わせ、時折、労うように締め付けてくれるので、多少は満足してくれたと思いたい。

「ノ……ノル……!」
「ウナ、分かってる。何も言わなくて大丈夫だよ」

 愛情深く接してくれるケウナに、愛で応えるのは当然だし、それを色欲というのは違うと思う。
 上半身を起こして窮屈そうに体を丸め、辛うじて届いたケウナの口付けに、僕も精一杯応えた。
 
「僕の国の神話にね、こういう行為は、『男神から女神に声を掛けて始めなければならない』だったかな? そんな話があるんだよ」
「ノルは、わ、わたしの男神だ……!」

 うーん……? 却って、ケウナの誤解が深まってしまった?
 僕からすれば、ケウナの方が女神そのものに見えるのに……。

 塔の上から、もう一人の女神候補と一柱の女神の視線を感じながら、僕は重い体を起こす事にした。
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