異世界カボ屋の覚え書き

tamamushi_k

文字の大きさ
63 / 66
魔酔いの森

第六十三話

しおりを挟む
 煙突のような塔を出ると、雨が降ってる事に気付いた。
 闘技場では、戦いを終えたケラニとケウナが、興奮冷めやらぬ感じで戦果を改め、アイギスさんは台座の上に置かれていた。

「見よ、ノボル。この厳かなる『冥導の見上げ』を!」
「『冥土の土産』じゃなくて、見上げですか?」

 沢山の命が冥界に導かれると、その不足を補うために、神界が慈雨を降らせ、新たな命を育もうとするのだとか。
 闇の陣営は、この雨を見上げて勝利を噛み締め、冥導の正しさを実感する事から、「冥導の見上げ」と呼ぶそうだ。

「……すると、光の陣営には、損害になりますか?」
「そうとぞ限らぬ。そも、戦いとは、さがにして定め」

 安寧を求めて都市や村に籠もる両陣営の眷属こそが不自然で、討伐班はその尻拭いをしているという。
 どうやら、魔の存在があろうと無かろうと、戦いによって命を冥界に送るのが道理らしい。

「ひょっとして、光の眷属は、戦わないんじゃなくて、戦えなくなった……?」
「うむ。嘆かしこと。故に、他の世界の若人ぞ唆しける」

 カリーナさんの話から、僕はバール領の召喚の儀式に割り込んで、この世界に来たと知った。
 その目的が、光の眷属に代わって、猛獣や怪物と戦わせる事なら、また儀式をするか、既に来てる……?

「私は既に来たると見ゆ」
「その結果、森の猛獣が活発になったすると、あまり良い状態とは思えませんが……」

 それ以上の懸念があるとすれば、召喚された人が、討伐班と交戦してしまう事だ。
 アイギスさんの庇護下にある第三方面隊は問題なくても、そう遠くない未来に起こりうる気がする。

「なればノボルよ。魔鏡をぞ奉れ」
「それは良いアイディアです! アイギス軍を作りましょう!」

 討伐班には、三、四人編成の隊が十組あって、合計三十八名いるそうだ。
 それなら、前回作った長さの板を十枚作れば足りそうかな。

「じゃあ早速、闇石から取り出して……」
「待て、そこな血の溜まりを使うによし」

 そうか! 猛獣の血には、冥闇物質が含まれるからだ。
 それなら、狼の毛皮を剥いでるケラニとケウナにも協力して貰おう。

「ラニ、ウナ……」
「やるです!」
「うむ!」

 どうやら、魔鏡を使った情報伝達は、相当早いらしい……。
 あとで、使い方を聞いてみよう。

「血溜まりを使いたいから、少し場所を開けたいんだけど、どうすれば良いだろう?」
「それなら、自分の魔鏡にしまうです! あっ! 重い! ノル、持ち上げるの手伝って欲しいです……」

 あれー……? さっきは片手で放り投げてたような……?
 それにしても、おびただしい血……、服に付いたら落ちるかな……。

「血が付くといけないので、ノルは先に服を脱いだ方が良いです!」
「そうだね。そうしよう」

 またケレンに裸の王様って言われるだろうけど、何もせずにブラブラしてる訳じゃないから、落ち込まない!
 二人掛かりの場合、それぞれ前後の足を持つのかと思ったけど、ケラニは僕に密着して一緒に持ち上げ、地面近くの魔鏡に、縦にして下ろすようだ。

「ラ、ラニ……。もう少し……、こ、腰を引いて……貰えるかな……?」
「この程度は不可抗力なので大丈夫です! レンの残り香がするノルなら問題はないはずですっ!」

 ええ……、怒ってる? もうスッキリしたんだから耐えられるはずって……?
 そんなことはない! ケレンの「活性化」は、かなり長時間持続するし、先に満足したケレンは仮眠を取ると言って僕を追い出したから……っ!

「ご、ごめんラニ……。太ももに挟まれると、ほ、本当に……!」
「一緒にシャワー浴びるなら許すです!」

 応諾して解放されると、腰が抜ける感じにガクガクした。
 目を皿にしてたケウナは、ヘビと一緒に可愛らしく舌先を見せるアイギスさんを掴んで、バスルームを掘りに行くようだ。

「血溜まりに手を付くのは気が引けるから、立ったままやってみようかな……」
「み、見てても良いです……?」

 僕の横にしゃがんで一点を凝視するケラニに意識が向かないように、足下に集中しよう。
 あ、そうか、この辺り一帯は、既にケレンの痕跡だ。
 それなら、あとは、正面の方向に、密度を上げながら地表を満たしてみよう。
 腹筋を絞ると同時に、足先に力を逃すように、気持ち重心を落とす!
 全身の力を抜いて、目を閉じて、集中して、連続して繰り返す!

「うむ! めでたき滴り! にあらで、めでたき黒き鏡!」
「え? 滴りって……? ええ!?」

 気付いたら、僕の先端から透明な糸が引いてたようだ。
 いつの間にか、にじり寄ってた上目遣いのケラニが、チュッと舐め取った事にも驚いたけど、それ以上に、僕の前に、背丈を超えた黒い直方体が出来てて仰け反った。

「こんなに大きくて大丈夫ですか……?」
「差し支へぞなし!」

 どうしてこうなった……!?
 僕のイメージでは、薄く遠くまで延びるはずだったんだけど……。

「先に範囲を満たして厚みを確定せず、密度を上げる時に、連続して衝撃を与えたから隆起したのよ」
「あ……! そういうことか! さすがレン!」

 参考にすべきは、ケレンが作ったスケートリンクだったか……。
 ああ……、でも、周囲に何も無い所じゃないと、巻き込んじゃうか……。

「で!? 裸の王様は、ラニを跪かせて、何をやってるのかしら!?」
「ええ……っと、討伐班をアイギス軍にするのに魔鏡が必要で……、作るのに血溜まりを使うから、服を脱いで……」

 僕が全てを話さずとも、ケレンは理解できたらしい。
 魔鏡を作るのは良いとしても、僕がケレンの痕跡を使うなら、最初に深さを確認しろとの事だった。

「時間に作用するには、どの位の深さが必要になると思う?」
「うーん、想像を絶する深さ……?」

 正解だったらしい。
 災害を引き起こし兼ねない規模だと言うけど、「え? 時間稼ぎの為にそんな事を!?」と聞くのは危険そう……。

「さっきの戦いで、全部、手に取るように見えて、よく考えて動けたのは、レンのおかげだったですね!?」
「そうよ! 物凄く負荷が掛かるから、ノルにエネルギーを注入して貰わないと出来ない作業だけどね!」

 複雑顔のケラニは言い包められてしまったようだ。
 「え? 『ちょっと思い付いた』くらいの感じだったよね!?」と聞くのは危険そう……。

「ノボルよ。かたじけない。残りぞ、姉に与えても差し支へなきや?」
「はい。勿論です。追加は何時でも作りますね」

 アイギスさんは、この借りは姉妹の体で返すと言ってくれたけど、僕はベニトアイトを幾つか貰えれば十分だ。
 例え、アイギスさんの故郷で採れる石がベニトアイトじゃなかったとしても、探しに行くだけで楽しそうだから、それで十分。

「ノボルの欲の少きことよ……」
「ノルの中身は、アイギス様よりも年寄りと思うです!」

 「クククッ」って感じで、控えめに笑うケラニの笑顔を初めて見た。
 年長者の勤めは、若い人達が年齢相応に無邪気でいられる様にする事かなと感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冴えない建築家いずれ巨匠へと至る

木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」 かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。 安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。 現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。 異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

私の作るおにぎりが、騎士団の士気を異常に上げています(犯人は副団長)

星乃和花
恋愛
おにぎりを配っただけで、騎士団の士気が異常値になりました。 団長は警戒、監察部は呪術検査、国まで動きかけるのに――副団長だけが平然と断言。 副団長「彼女のご飯は軍事物資です」 私「えっ重い」 胃袋で落ちた策略家副団長の“最適化溺愛”に巻き込まれ、気づけば専属補給係(=婚約)寸前!? ほのぼの爆笑&甘々の騎士団ラブコメです。 (月水金21:00更新ー本編16話+後日談6話)

学年一可愛いS級の美少女の令嬢三姉妹が、何故かやたらと俺の部屋に入り浸ってくる件について

沢田美
恋愛
名門・雄幸高校で目立たず生きる一年生、神谷悠真。 クラスでは影が薄く、青春とは無縁の平凡な日々を送っていた。だがある放課後、街で不良に絡まれていた女子生徒を助けたことで、その日常は一変する。救った相手は、学年一の美少女三姉妹として知られる西園寺家の次女・優里だった。さらに家に帰れば、三姉妹の長女・龍華がなぜか当然のように悠真の部屋に入り浸っている。名門令嬢三姉妹に振り回されながら、静かだったはずの悠真の青春は少しずつ騒がしく揺れ始める。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】魔王を殺された黒竜は勇者を許さない

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
幼い竜は何もかも奪われた。勇者を名乗る人族に、ただ一人の肉親である父を殺される。慈しみ大切にしてくれた魔王も……すべてを奪われた黒竜は次の魔王となった。神の名づけにより力を得た彼は、魔族を従えて人間への復讐を始める。奪われた痛みを乗り越えるために。 だが、人族にも魔族を攻撃した理由があった。滅ぼされた村や町、殺された家族、奪われる数多の命。復讐は連鎖する。 互いの譲れない正義と復讐がぶつかり合う世界で、神は何を望み、幼竜に力と名を与えたのか。復讐を終えるとき、ガブリエルは何を思うだろうか。 ハッピーエンド 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/03/02……完結 2023/12/21……エブリスタ、トレンド#ファンタジー 1位 2023/12/20……アルファポリス、男性向けHOT 20位 2023/12/19……連載開始

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...