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第3章 竜と迷宮
海霊馬
しおりを挟む「そういえばさっきの魔術って古代魔術か?」
俺はナタリアへ問いかける。
さっきの魔術というのは古代百足に追いかけられていた時にナタリアが使った魔術だ。
「あー、あれは炎塊という古代魔術を使用しようとしたんですが、やっぱりまだ習得できてないんですよね。」
「通りで魔力が火の性質を帯びているんだな。」
「逆に火の性質をおびちゃって困ったことばかりで…」
「困ったこと?」
「風の渦が温風を出すようになって余分な魔力が吸い取られちゃうんです!」
なるほど。ちょっと面白い。
「そういえばローランさんって、火の魔術である油の生成と光の魔術である閃光を使えるのに全然魔力が混じってないですね。どうしてですか?」
ナタリアが首を傾げてくる。
「…俺は魔力が少ないから魔力が属性を持ってはいない。他の属性に染まり切れるほど力がないんだ。よくいえば無属性の魔力。闇の魔術とその派生以外は、大体使える。威力はお粗末なモノだがな」
「へぇっ、すごいんですね!」
「ものは言いようだ。」
その後、俺たちは時折会話をしながら地底湖の淵に沿うようにして歩いていた。
しばらく経って水面からピチャピチャと水が滴る音が鳴った。
海霊馬だ。俺は手を出し制止の合図を送る。
ナタリアとペンタクールは武器を構えて立っている。俺はまだ剣を抜かなかった。
「海霊馬は狡猾な魔物で自分より非力と感じたモノしか襲わない。自分が敵わないと知ると目にも止まらぬ速さで湖の奥へ消えて行く。まずは俺たちが弱いと思わせるのが大切だ。」
水面に波紋が現れる。波紋はどんどんと大きくなって数も増えて行くやがて、水泡がその場に現れ青白い馬の頭が出てきた。前足は有蹄類のソレだが後ろ足はなく大きな尾鰭がある。人魚の馬版と言えば良いのだろうか。
どっからどう見ても馬なのに何故かエラがついているこの生物は、弱い魔物や人間を尾鰭や前足で絡め取り溺死させる。
俺は不用心にも水源へとたとた歩いて行く。海霊馬も大人しく、無害そうに俺の方へ寄ってきた。
海霊馬の一番楽な刈り方はこうだ。
俺はやがてその馬を撫でられるような位置まで行く。
数秒後、大きな水飛沫と共に巨大な尾鰭が俺に巻き付いてくる。海霊馬は勝ち誇った下品な笑みを浮かべ俺を水中に引き込もうとした。
俺はその海霊馬の油断を見逃さない。剣を抜き、ただ一点を狙って剣を突く。
奴は驚き後ろへ避けようとしたがもう遅い。俺が何年この狩り方をしてると思っているんだ。俺の剣は首筋からスッと入り海霊馬の脳をしたから貫通させた。
「2人とも、手伝ってくれ!」
バランスを崩し水の中へ沈もうとする海霊馬を2人に助力してもらい、陸地に引き上げることに成功した。
「それで海霊馬を取って何するんですか?」
ナタリアが聞いてくる。ペンタクールもそれに同調するように頷いた。
「ここの湖は光の魔力を帯びている。そこで育った海霊馬もその力を受け継いでいてな。取り分け血にその力が宿っている。彼の力は再生この血を新鮮なまま殺菌して上手く調合すると高品質の回復ポーションができるんだ。ナタリアも使ったことあるだろ。」
「あぁ…あの苦い奴!海霊馬の血が入ってたんだ…通りで。てか、普通魔物の血をポーションに使いませんよ!」
「そうなのか?」
俺の質問に今度はペンタクールが代わりに答えてくれた。
「…私の知る限りポーション調合は、白火草と言う魔力を抽出する草を混ぜて使います。その白火草と言うのは動物性の素材に対しては全く効果がないのですよ。だから魔物の素材は基本的に使用されません。ローラン殿は何を使って魔力を抽出していたのですか?」
…小竜の糞。てか通りで…植物系の魔力が全然抽出されないわけだ。植物と動物で使う抽出剤が違うのか。
「企業秘密だ。」
一般的な人間は飲み物に血と糞が入っていたら嫌がると言うことを俺は知っている。これも優しさである。
「血だけは新鮮なものが欲しいからここで摂る。残りは魔法の袋へ入れて持って帰る。」
そう言って俺はカバンから針とチューブ、瓶の採血セットを取り出す。瓶には昔ルナに防腐の術を施してもらったので、保存が効くのだ。
俺は首筋に針を当て血を採取する。その血は赤黒いがとてもサラサラなものだった。
「よしっこれで十分だ。引き上げるぞ。」
瓶3本分の血を収穫し、死骸は袋へ入れて俺はそう告げる。
「…夕方前には地上へ戻れるだろう。古代百足が居なければ、だが。」
結局俺たちは、行きとは違うルートを使って想定より1時間遅く地上へ着いた。
特に何事もアクシデントがなくて幸いである。
強いて言えば数体のスケルトンとでくわしたが、動きにトロイ骨など取るに足りなかった。
俺は地上でナタリア達へ礼を言い俺たちの貸し借りはゼロになる。
その夜彼女達と共に酒場で飲んで居たところ、ギルド職員のアストラに声をかけられた。
明日組合の応接室にくるようにとの事だ。
すごく嫌な予感がする。
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