世界に1人だけの魔物学者

ベルリン

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第4章 vs竜

洞穴

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 「みんな集まったな。これから最後の確認をする。」
俺の掛け声にその場にいる全員の視線が向けられる。場所は迷宮「ギルドクライン」第一層の安全地帯セーフティポイントだ。
ナタリア達との食事から2日目、昨日打ち合わせを終えた俺たちは既に迷宮に入り最終確認をしていた。

ナタリアとレナが魔術師同士で話込み、その隣ではアルバとペンタクールが座りながら黙々と自身の武器を磨いている。俺はというとレイと一緒に迷宮の地図を広げて、行くルートを確認していた。レイはルートに関しては俺に一任してくれるそうで俺の希望通りに事が運んでいく。

やがて陣形が決まった。前方からアルバ、案内役の俺、レイ。その後ろを魔術師二人がついていき、ペンタクールが殿しんがりを務めている。ここまでかっちり陣を固めているが多分レイ一人で深層までは降りれる。

それだけ勇者の力は絶大なのだ。

では肝心のドラゴンはどうなのだろうか。勇者の力を持ってしても倒せる相手なのかは分からない。
俺が王立図書館で伝承や報告書を確認し、整理したところドラゴンは様々な種類がいてどいつもこいつもクセが強い。
単なる巨大な爬虫類ではないのだ。
ギルドの報告と、メヴィアに残っていた竜の伝説、それらを照らし合わせると今回、深層に出現したであろうドラゴンの特徴が見えてくる。

まずは火を吐く。伝承を読んで分かったのが全ての竜が火を吐くわけではない。
火を吐く生物は、迷宮内外に多種多様いるが主に2タイプに分けられる。魔法で火を作るタイプと、体内にある発火器官で作るタイプだ。
厄介なのは魔法で火を生成するタイプで、その威力の上限はない。その魔物の魔力量に依存するからだ。
竜がどちらのタイプなのかは不明だが、小竜ドレイクベースで考えるなら体内に発火機構の備わった生物になる。そっちの方が対処がしやすいのでありがたい。

次に迷宮にはそぐわない大きな翼を持つだろう…と予想している。とても古い一つの文献に、ここ迷宮「ギルドクライン」は、古くは罪人達の追放の場として使われていたと記述があった。そして数百年前に王都に出没した竜がこの迷宮にも封印されたのだと。その文献には竜は赤い鱗で覆われて、火を吹き巨大な蝙蝠のような翼を持つ、と記されていた。

まぁいずれにしろバケモンだな。

俺は思考をやめて荷物の整理を始めた。今日は2~4層を突き抜けるために魔法の鞄にある物を仕込んでいる。

 荷物の確認を済ませて、立ち上がったところ俺は誰かに肩をたたかれた。

「そいでローランくん。もう行くの?」

声を掛けてきたのは勇者の仲間のレナ、グラデーションのかかった茶髪に、宝石のように輝く緑の眼が特徴的な魔法使いだ。全体が茶色で、ところどころ白の飾りがあるローブを纏っている。確か彼女の専門はその快活で朗らかな見た目に反して闇の魔術。基本属性の中で一番高度な魔術だ。
それにしても「くん」って、俺は多分5歳は年上だぞ。

「あぁ。現在は早朝、一層から二層へ入り、二層から一気に四層に降りる。そこでできる限り深層に近づいて一度キャンプをする。その後竜の探索開始、見つけ次第討伐だ。」

わかった。と呟やいたレナはさらに
「自分の身は自分で守りなさいよ?それにあの子達も。言っちゃ悪いけど弱くはないけど強くもないじゃない。」
と言った。

「…君には迷惑をかけるな」
俺は頭を掻きながら答える。

「まぁもっとも、アルバが居るから真っ先に死ぬことはないわよ。多分」

「へぇ、そんなに頼もしいのか。」

「っふ、見ればわかるわよ。」
レナが少し微笑みながら答え元の陣に戻って行った。

みんなの準備があらかた終わったところでレイが口を開く。

「それじゃあ出発しようか!ローランさん、改めてよろしくお願いしますね。」

「あぁ。」


これにてドラゴン討伐が始まった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 迷宮一層、開拓された道を俺たちは歩いていく。
迷宮一層の主立った魔物はレッサーバットとスライムしか居ないがそれとも出会うことはないだろう。
道なりに30分ほど進むと二層の入り口、青白い苔がところどころ生え出してきた。

「それにしても何も居ないですねー、肩を慣らしたいのに。」

道中レイが呟く。
どっかの誰かが数年前に馬鹿でかい氷魔法を撃ったせいで、大体の魔物が絶滅したんだよ。とは言うまい。

「そうですか?順調なのは良いことですよ~」とナタリア。

レナはと言うと気だるそうに無表情で歩いていた。

それから数分後、整備された石造りの道を歩いていたところアルバの制止の合図で皆が立ち止まる。

「どうかしたのか?」

俺が尋ねるとアルバは持っていた大楯で方向を示した。

「…死体だ。ゾンビになりかけてるな。」

遠くの方に見えるその物体は近づくにつれてその臭いで死体だと認識できた。嫌な臭いだ。そして不死者アンデット化仕掛けているのか、ビクンビクンと肉が波打っていた。

「ここ何日か迷宮入りは禁止されていたはずだけど…」
レイが呟く。

やがて死体の側へ来ると、レナが死体へ寄りかかった。
死体はギリギリ性別が男だと認識できるほどの腐り具合で、頬の肉は削ぎ落ち、下半身が虫に食い荒らされていた。

レナが黒い長杖を構える。途端に魔力が杖の先に収束するのを感じた。ただひどく悲しく冷たい魔力、背筋が凍るような緊張感が流れる。闇の魔術だ。

解呪ディスペル

そう呟いた彼女の杖から、黒ずんだ紫の無数のモヤが出て死体を包み込む。やがてそのモヤが赤黒く光り、霧散した。
死体を見ると、筋肉の痙攣は止まり、時が止まったかのように静止していた。

「死の呪いからの解放か」

俺がレナの元にしゃがみ込み声をかける。
不死者アンデット化とは魔力の多い迷宮や墓地のような場所で、光の魔術か闇の魔術で適切な処置をしないと起こる現象だ。

レナが使ったのは呪いを解く魔法解呪ディスペル

「そう、不死アンデット化からの解放の魔法だよ。…もっとも原理としては呪いを解くと言うよりも、呪いを無害なものに上書きする、って感じだけどね。」

「それに…無詠唱か。」

「詠唱した方が魔術は強く撃てるけどね。」

レナにレイにナタリア、魔法を無詠唱で行える人物が周りに多すぎて、自身の魔術方面への才能のなさを思い知らされる。

その後は特にアクシデントもなく、歩みを進めた。

仄かに青く光る苔に覆われた硬い壁、アリの巣のように入り組んだ狭い通路。肌を覆う湿気。紛れもない第二層の特徴だ。

「ナタリア、光をくれ。」

「はい、導火ルッキオラ

この前の食事会の後、導火ルッキオラについて色々教えてもらったが、詠唱がなく詠唱を創らなければ俺にも使えないと分かったのでナタリアに使ってもらう。便利な魔法だと思ったのでちょっとショックだった。

杖の先から放たれた暖色の光の球は俺たちの周囲を明るく照らす。

前回のように俺はランプを手に持って前を、ナタリアには光の球を後方に配置してもらった。

「それ…たくさん属性混じってるわね。」

光の球をぼんやりと眺めていたレナが呟く。

「発光は光属性、その妖精の羽のようなものは風か?それによく見ると火も混じっている…普通そんなに属性が混じったら崩壊するはずだけど、なんか良い感じになってるね。」

レイが振り返りナタリアへ告げる。

「あ、ありがとうございます!」

勇者達に褒められたのが嬉しかったのかナタリアは若干上擦った声で返事をする。

「…一つに絞った方が良いって意味で言ったんだけどな。」

レナがナタリアには聞こえないようにボソリと呟いた。レナは俺の後ろを歩いていたため俺にだけは聞こえたようだ。

俺は掘り返すのも何だろうと思いその言葉に何も言わなかった。
レナはパーティーメンバーが増えることには何も言わなかったが、思うところがあるのかもしれない。

さてこれから二層を下るのだが、今回は四層まで一気に降りる道を使う。

迷宮を歩くほど20分。道中、人型スケルトンの群れに出会したが、レナの解呪ディスペルでなんなく撃退した。
次第に入り組んでいた道が単調になり幅が広がっていく。やがて一本の直線になり行き止まりに着く。
いや、正確には行き止まりではない。先はあるがいけないのだ。

そこは巨大な空洞シンクホールと呼ばれる円状の穴。二層から四層まで直通している巨大な吹き抜けだ。
この穴は自然にできたものではなく、巨大な爆薬による大規模事故が起こった時にできたものだ。対岸までは100mほどあるのだろうか、少なくともここからじゃ暗すぎて見えない。穴の深さは200mほどと言われている。
 

「本当にここで道あってるの?」

膝をついて淵から下を覗いていたレナが言う。

「合っている。今回は特殊な方法を使って進んでいく。」

「特殊な方法?」
水を飲んでいたアルバが聞き返す。


「あぁ。今から俺たちはここを飛び降りる。」

俺とレイを除いてこの場の人間が驚いて目を見開いた。
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