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64話

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状況を整理するとなかなか詰んでる。
 大人……しかも裏社会の人間を一介の高校生がどうにかできるわけがない。

 もちろん、俺が高校生ならな。

 こちとら、二大巨頭の組織の人間だ。そこそこ権力はある。

 まあ、そんなもんにあまり頼りたくないから頭脳使うしかないんだけど。

 一応、案はいくつかあるから潰していこう。

 一つ目、殴り込む。
 これは一番無理でしょ。一人でするにも限界がある。
 二つ目、逃げる。
 逃げるが勝ちって言葉もあるけど、この状況から逃げ出しても何も変わらない。よって却下。
 三つ目、二ヶ月後に婚約するフリをする。
 実は言うと一番これが解決する確率が高いけど、根本的な解決になってないし、バレたあとが怖い。よって却下。

 つまり取れる行動はただ一つ───

「脅します」

「へ?」

 俺の結論に、呆けたような顔と声を漏らす瞳さん。
 いや、仕方ないのよ。結局は大元をどうにかしないといけないのが最優先事項だし、前当主が権力を持っているのならそれを使うに越したことはない。

 しかし、これも根本的な解決方法にはなっていない。だからそのためには、瞳さんの力が必要だ。

「────ということです」

 それを説明すると、納得した表情を見せた。なかなか瞳さんにとって重労働だが、解決の糸口は見えたのだ。あとはそれをこなすだけ。

「なるほどね……それで、ワタシは何をすればいいのかしら?」

「とりあえず、脅す材料は俺がなんとかします。その後で、瞳さんが組織をじわじわ乗っとればオールオッケーです」

「いや、簡単に言うけどそれすごい難しいんじゃないかしら……」

 まあ、具体的な方法は後で伝えるとしても、乗っとる=恐れられたまま、瞳さんの思想を元に作り上げた健全な組織にする。というベリーハードな難易度だけど、多分瞳さんはやり遂げるだろう。

 多分、瞳さんは自分が思ってるよりもハイスペックで、人望が厚い。

 じゃなければ、会合の時にあんなに一瞬で場を沈めれるわけがない。
 協力者は多いはずだ。

 あとは俺がサポートするだけ。


「俺は信じてます。瞳さんが成し遂げることを」

 いつも気丈で、恐れを知らなくて正義感の強い性格────それが彼女の一面で、本当は一人で抱え込んで自分だけで解決しようとする。

 瞳さんに必要なのは権力でも腕力でもない『仲間』だ。
 家族に見せられない一面を見せれるのが『仲間』だ。


「……やるわ」

「では、今日の放課後に作戦会議ということで」

「ええ。……ありがとう」

 理科準備室から出る手前で俺に向き直って瞳さんは深々と頭を下げた。
 心から感謝を伝えようとする姿勢に、やっぱり助けようとして良かった、と改めて思った。


 さあ、運命をぶち壊そうぜ。



☆☆☆


「てめぇ、ごらぁぁ!」

 あ、やべ忘れてた。
 準備室から出ようと、扉に手を掛けた時、聞き覚えのある……というかクラスメートの男子たちの怒号が聴こえた瞬間俺の体が固まった。

「やっべ。何も説明してないままじゃん……」

 どのみち説明しようにも聞く耳を持たない。

「くそっ、嫉妬の塊野郎共め」

 万事休すじゃん。モテないからって僻みはよくないぞ……。てか、俺もモテてるわけじゃないから! こういう時、ケイヤだったら……いや、あいつもボコられるな。

 うちのクラスは冴えない男子と美人な女子っていう構成だからその分、嫉妬率が高いねん……。俺も冴えないって部類に入ってるけど……。

「はぁ……時間ギリギリに教室に入るしかないか……」

 さすがに先生の前で追い回したりする真似はしないだろう。

 ……しないよな?

 不安しかねぇ……まあ、そう信じるしかないな。

「んー。まだ30分くらい時間あるから、やることやっちまうかぁぁ」

 もちろん、瞳さんの件だ。
 できるだけ早く物事は解決したい。じゃなきゃ、安心して学校生活を遅れないからな。
 

☆☆☆

 というわけで、

「助けてぇ。アマエモン!」

「誰がアマエモンっすか。誰が」

 呆れたようにツッコミをする、若い男のような声。やや、ハスキーなのは何かの機械を使っているのか。

 正体不明。だが、間違いなく最高の情報屋。

 ご存知のアマリリスだ。
 情報が武器である今回の件においては、アマリリスの協力が不可欠だ。

「ってわけで、頼める?」

「なんの説明もされてないんすけど……」

「でも、わかるだろ?」

「まあ……はいっす」

 さすが情報が早い。
 俺の要件もわかっているようだ。

「はぁ……でもいくら坊っちゃんの頼みでも今回ばかりは難しいっすよ。さすがにリスクが高いっすから」

 困ったように、申し訳がなさそうに言う。

 やばいな……アマリリスの協力がないと計画が破綻する。
 どうにかして取り付けないと……。

「頼む。そこをどうにかできないか? 俺にできることは何でもする」

 その言葉を言った瞬間、通話越しにいるアマリリスの声色が劇的に変わった。

「ふーん。んすね?」

 何を要求されるのかはわからないが、今はそんなことに怯えている場合じゃない。
 だから俺の答えはもちろん、

「あぁ、何でもだ」

「了解っす。じゃあ早速要求するっすよ」

「え、待て待て、今なのか?」

 この後には瞳さんとの話し合いもある。時間のかかることはできない。
 が、俺の心配は杞憂なようだった。

「大丈夫っすよ。要求はただ一つっす。来年の終わりまでに、ボクを見つけてくださいっす」

 おちゃらけた雰囲気を一切無くして、真剣な声色でそう言ったアマリリス。
 ……どう受け取ればいいんだ……。見つける……ということは、正体を暴けってことか? だとしたら難易度が高すぎる。

「もし、見つけられなかったら?」

「坊っちゃんをもらいます」

「え!?」

 え、どゆこと? 身柄ってことか? 身代金? 
 なんか変な考えも混じったが、アマリリスの目的が俺であるならば簡単だ。

「わかった」

 俺の身体一つで足りるならば、良い。……ま、その前にアマリリスをいい話だ。


「オッケーっす。じゃあは指定しとくっすよ」

「いや、報酬は取るのかよ!」

「それとこれは別っす」

「はぁ、わかった。じゃあな」

 そして、通話を切った。
 駆け引きみたいなやり取り。……あまり得意ではない。

 ちなみに、報酬は金ではなく別のものだ。……それは言えないけど。
 例え心の中であっても思い出したくない……。

「まあ、何はともあれやるしかない、か」

 ここからが、所謂逆転劇とやらだ。
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