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72話

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 板挟みのような状況で、もう八方塞がりだ。
 ピリピリとした空気感に押しつぶされそうで、会わせたことを早くも後悔している。

 なんでこんなに初見で仲悪いんだ……? もしかして俺の知らないところでコンタクトがあったのだろうか……。にしてもこんな雰囲気になるか?

 ヤバい、怖い。

「それで、渚くんは私たちを会わせて何をさせたいの?」

 無言の空気に耐えきれなくなったように、日夏が俺に言う。

「一応、仲良くなってもらえたらなあ、って……あはは」

「多分無理じゃないかしら?」

 ですよねー。
 即答する瞳さんに同意しそうになったのを堪えて、俺は慌てたように話す。

「ほ、ほら。まだ会ったばかりですし、しゅ、趣味とかを話せば!」

 三人とも思案顔になる。
 次は代表して花ちゃんが、日夏と瞳さんを見ながら嫌々、といった表情で切り出す。

「ご趣味のほどは……?」

 いや、言い方ァ。気まずくなったお見合いかよ! いや、前者に関してはあってるわ。

「音楽が好きわね」

「あ、私も好きですね」

 三者ともに頷く。
 よし! 良い感じ!

「どんなジャンルのを聴くの?」

 瞳さんが聞く。ここで声が重なればもう友達だろ。
 そう願う。
 三人は顔を見合わせて一斉に言う。

「ロック」「クラシック」「J-POP」

「……oh」

 見事にバラバラである。
 ロックが花ちゃんで、クラシックが瞳さんで、J-POPが日夏である。
 三者三様……だけど、今に関しては間が悪い。

 再び無言へと陥る。
 くっ、まだ手はあるはず!

「す、好きな食べ物とかはどうです!?」

 もう自棄糞に言う。合コンみたいだけどしゃーないよ!

「スイーツが好きだよ」

「私も好き」

「嫌いではないわね」

 ふむふむ、良い調子だ。やはり女子はスイーツだな。

「大通りにあるカフェ、Finとかオススメですよ」

「へぇ、今度行ってみようかしら」

「どんなメニューあるの?」

「うーん、パンケーキとかパフェとか色々あるけど、特にオススメはパンケーキかな」

 オススメの店を口にした花ちゃんを発端に、盛り上がる女子陣。
 よしよし、良いぞ……! 俺は空気と化してるけどいいぞぉ!

「なぎくんはカフェとか行く?」

 盛り上がる女子陣をほっこりしながら見ていると、俺にも話題を振ってくる。
 そうだなあ、

「たまに行くかな。でも、あんまりオススメとかわかんないから、適当にレビューとか見て行く」

 女子の間で知られるニッチなカフェとか知らんし。スイーツ自体は普通に好きだからたまに行くくらいだなあ。
 あとは、カフェにいる人のほとんどは女性だから肩身狭いんだよ……。
 わかるか? 男一人で行った時のお前はお呼びじゃねぇんだよ感。実際には言ってないにしろ、そういう雰囲気を感じる。

 すると、何の気なしに花ちゃんが場に着火した爆弾を注いだ。

「じゃあ、今度二人で行こうよ。オススメ紹介するよ?」
「おぉ、いいね────ひぃっ!」

 良い提案だと思ったから同意を示した瞬間、日夏と瞳さんの二人からまるで射殺さんと言わんばかりの表情で俺を見た。
 いや、何故に!? 

「じゃあ、私とも行けるよね?」

「ワタシも行くわよ」

 厳しい目付きのまま、有無を言わさず口調で言う。

「じゃあ、4人で行けばいいじゃん……」

「「「は?」」」

「すみません、なんでもないです」

 何も言えないよ俺。
 あっれぇ、おかしいなあ。暖房効いてるはずなのに冷や汗が止まんねぇや。

 女子って怖い。
 互いを牽制するような目付きで睨み合う。先程までの朗らかな雰囲気は完全に霧散。俺の作戦は徒労に終わった。

「あのぉ、他に話すことは……」

「ないよ」

「ないわ」

「ないね」

 くそっ! アカン。このままでは何の得るものないまま終わっちまうぞ!

 ぬぅ、この三人の共通の事柄……思い付かないな……。
 てか、今更だけど学園三大姫が揃ってね? なかなか豪華なメンバーだな。雰囲気最悪だけど。
 共通の知り合いも俺しかいないだろうし…………ん? ? 俺がいるじゃん。

 くっ、恥ずかしいけど仕方ない。
 ええい! ままよ!

「そ、その。三人の中で俺ってどういう立ち位置だと思う?」

 すると、三人の目の色が変わった。牽制から焦りへと変わり、緊迫した時間が流れた。

 え、そんなに考えることか。

「……なぎくんは先に帰ってて。あとは仲良くなるから」

 ふいにそんなことを言われる。

「な、なんで?」

「女子会よ。男子がいたらダメでしょう」

 合わせたように瞳さんがフォローする。いや、さっきの雰囲気で女子会もくそもないと思うんだけど。
 ……まあ、任せるしかないか。

 邪魔って言われてるんだろう。従うしかない。

 仲良くなれますように、と一縷の望みをかけて俺はその場を離れた。

 嫌な予感しかしない……。

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