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一章
ふしぎな青年
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客間を訪れると、ずらりと黒い洋装姿の男たちが並んで正座をしており、月夜はぎょっとした。本当に何が起こったのだろうか。
「月夜、ここへ来て座りなさい」
父のとなりへ座れと言われて月夜は戸惑った。先ほどまで娘の自分を殺そうとしていたのだ。何をされるかわからない。
月夜は震えながら、恐る恐る父のとなりへ向かった。途中、腕に包帯をぐるぐる巻きつけて座っている光汰を背後から見て、月夜は複雑な思いにかられた。
父の向こう側には暁未が背筋を伸ばして座っている。桃色の着物を身につけて、髪には月夜から奪った髪飾りがある。
暁未は月夜の視線に気がつくと、じろりと睨みつけてきた。
月夜は急いで目をそらし、視線をまっすぐに向けた。すると、めずらしい黄金の瞳とばっちり目が合い戸惑った。
目の前には紺の和服に橙黄色の羽織を着て、首もとに襟巻を巻いた青年がいた。洋装の帽子をかぶっていてはっきりしないが、ずいぶん若い。
青年は月夜と目が合っても微動だにせず、無表情だった。
逆に月夜は恥ずかしくなり、目をそらしてうつむいた。
「お待たせしました。これで全員です」
と父が言った。
すると、月夜の前にいる青年が帽子を脱いだ。
黒い短髪に童顔、まるで子供のような顔立ちだが、鋭い目つきと凛とした表情はかなり大人びて見える。
「はじめまして。俺の名は烏波巳縁樹です」
彼は月夜に向かって自己紹介をした。
月夜が顔を上げると再び黄金の瞳とぶつかり、羞恥に頬が熱くなった。せっかく名乗ってくれたのだから顔を背けることもできず、月夜は軽く会釈をして目線だけずらす。
「祖母の葬儀にいらしてくださったようですね? 忙しさにかまけてきちんとご挨拶をしておりませんでした。しかし、烏波巳さまはお若いとは聞いておりましたが、まさかこれほどとは……」
父が額に汗を滲ませながら愛想笑いを向ける。
だが、縁樹はそれを無視して続けた。
「俺は香月さんの遺言を預かっています。今日はそのことで来ました」
媛地家側の人間がざわついた。しかし、あちら側は無言のままである。
父は首を傾げながら訊ねる。
「遺言ですか。そのようなもの、私たちにはありませんでしたが」
困惑しながら緊張ぎみに話す父の様子を見るに、烏波巳家は媛地家よりもずっと格上の家柄なのだろうと月夜は思った。
「見ますか?」
縁樹が遺言書を畳の上に置いて差しだすと、父がそれを手にして目を通した。
「た、たしかに母の字だ。しかし、これは……」
父が急に表情をやわらげ、口もとに笑みを浮かべた。
すると、縁樹もそれに同意するようにうなずいた。
「そこに書いてあるとおりです」
父は満面の笑みでとなりの暁未に声をかけた。
「暁未、お前はこちらの烏波巳家の方に嫁げるんだ」
「本当ですか? お父さま!」
暁未が手を叩いて感激の声を発した。
すると、すぐに暁未のとなりにいた母もそれに便乗する。
「まあ、素晴らしいわ! 暁未、こんなすごい方と縁談だなんて!」
父は暁未の肩を抱いて大喜びである。
「太陽の化身である烏波巳さまだ。お前の名前にぴったりじゃないか」
「まあ、本当ね。まるであたしはこのために生まれてきたようだわ」
父と暁未の会話を聞きながら、月夜は無言でうつむく。
この場所に自分がいる意味があるのだろうか。姉の縁談話に自分は必要ないのではないか。
しかも、ついこのあいだ別の家門と破談になって怒り心頭だった両親はもう歓喜に満ちている。その様子を見ると月夜はうんざりするのだった。
しかし、これで彼らはおとなしくなるだろう。そうなれば、月夜は殺されずに済むかもしれない。
「月夜、ここへ来て座りなさい」
父のとなりへ座れと言われて月夜は戸惑った。先ほどまで娘の自分を殺そうとしていたのだ。何をされるかわからない。
月夜は震えながら、恐る恐る父のとなりへ向かった。途中、腕に包帯をぐるぐる巻きつけて座っている光汰を背後から見て、月夜は複雑な思いにかられた。
父の向こう側には暁未が背筋を伸ばして座っている。桃色の着物を身につけて、髪には月夜から奪った髪飾りがある。
暁未は月夜の視線に気がつくと、じろりと睨みつけてきた。
月夜は急いで目をそらし、視線をまっすぐに向けた。すると、めずらしい黄金の瞳とばっちり目が合い戸惑った。
目の前には紺の和服に橙黄色の羽織を着て、首もとに襟巻を巻いた青年がいた。洋装の帽子をかぶっていてはっきりしないが、ずいぶん若い。
青年は月夜と目が合っても微動だにせず、無表情だった。
逆に月夜は恥ずかしくなり、目をそらしてうつむいた。
「お待たせしました。これで全員です」
と父が言った。
すると、月夜の前にいる青年が帽子を脱いだ。
黒い短髪に童顔、まるで子供のような顔立ちだが、鋭い目つきと凛とした表情はかなり大人びて見える。
「はじめまして。俺の名は烏波巳縁樹です」
彼は月夜に向かって自己紹介をした。
月夜が顔を上げると再び黄金の瞳とぶつかり、羞恥に頬が熱くなった。せっかく名乗ってくれたのだから顔を背けることもできず、月夜は軽く会釈をして目線だけずらす。
「祖母の葬儀にいらしてくださったようですね? 忙しさにかまけてきちんとご挨拶をしておりませんでした。しかし、烏波巳さまはお若いとは聞いておりましたが、まさかこれほどとは……」
父が額に汗を滲ませながら愛想笑いを向ける。
だが、縁樹はそれを無視して続けた。
「俺は香月さんの遺言を預かっています。今日はそのことで来ました」
媛地家側の人間がざわついた。しかし、あちら側は無言のままである。
父は首を傾げながら訊ねる。
「遺言ですか。そのようなもの、私たちにはありませんでしたが」
困惑しながら緊張ぎみに話す父の様子を見るに、烏波巳家は媛地家よりもずっと格上の家柄なのだろうと月夜は思った。
「見ますか?」
縁樹が遺言書を畳の上に置いて差しだすと、父がそれを手にして目を通した。
「た、たしかに母の字だ。しかし、これは……」
父が急に表情をやわらげ、口もとに笑みを浮かべた。
すると、縁樹もそれに同意するようにうなずいた。
「そこに書いてあるとおりです」
父は満面の笑みでとなりの暁未に声をかけた。
「暁未、お前はこちらの烏波巳家の方に嫁げるんだ」
「本当ですか? お父さま!」
暁未が手を叩いて感激の声を発した。
すると、すぐに暁未のとなりにいた母もそれに便乗する。
「まあ、素晴らしいわ! 暁未、こんなすごい方と縁談だなんて!」
父は暁未の肩を抱いて大喜びである。
「太陽の化身である烏波巳さまだ。お前の名前にぴったりじゃないか」
「まあ、本当ね。まるであたしはこのために生まれてきたようだわ」
父と暁未の会話を聞きながら、月夜は無言でうつむく。
この場所に自分がいる意味があるのだろうか。姉の縁談話に自分は必要ないのではないか。
しかも、ついこのあいだ別の家門と破談になって怒り心頭だった両親はもう歓喜に満ちている。その様子を見ると月夜はうんざりするのだった。
しかし、これで彼らはおとなしくなるだろう。そうなれば、月夜は殺されずに済むかもしれない。
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