40 / 69
三章
意外な再会
しおりを挟む
周囲を見わたすと、着飾った婦人たちが談笑する様子や大人の男性たちが酒を飲んで騒ぐ様子が目に飛び込んでくる。
彼らの声が頭の中に響き渡る。月夜は人の多さに酔ってしまい、くらりと眩暈がした。
「どうしよう……」
どくんどくんと鼓動が鳴る。
今まで誰かがそばにいてくれたから平気だったたけで、ひとりになると急激に孤独と不安が襲ってきて震えが止まらなくなった。
「ねえ、君、どこのお嬢さん?」
「可愛いね。僕らとお話しない?」
見知らぬ男性たちに声をかけられて、月夜は緊張しながら答える。
「え、えっと……知り合いがいるので」
「いいじゃない。楽しいところに行こうよ」
震える月夜を見て、面白がって笑う人たち。
「なあ、いいだろう?」
ひとりの男性に腕を掴まれた瞬間、月夜の恐怖心は頂点に達した。
身体の奥から何かがわき立つような熱がじわじわ広がっていく。
月夜の瞳が紅く光った瞬間、別の者が声をかけてきて気がそがれた。
「あなたは、あのときのお嬢さんではないか!」
「えっ?」
振り返ったそこには、以前に一度だけ会ったことのある人物がいた。月夜の脳裏に蘇る、狂ったように悲鳴を上げる男性の姿だ。
「干野川、さん?」
「おおっ、僕のことを覚えていたのか!」
月夜の腕を掴んでいた男性がちっと舌打ちした。
「なんだよ、男がいるのか」
そう言って彼らは立ち去っていった。
月夜はほっと安堵して、干野川に礼を言う。
「ありがとうございます。少し困っていたんです」
「あんな品性のない野郎どもは無視しておけばいいんだ」
「次から気をつけます」
月夜は色白の彼の顔を見てどきりとした。その頬には月夜がつけた傷跡がくっきり残っているからだ。
「あのときは、本当にごめんなさい。顔に、残ってしまったんですね」
「ああ、この傷のことか。いいんだよ。責任を取ってくれれば!」
「責任……?」
月夜が不安げに首を傾げると、干野川はにこにこしながら言った。
「この傷のせいで僕は縁談をしても令嬢に逃げられてしまう」
「……ごめんなさい」
「だから、あなたが僕と結婚すればいい」
「えっ……」
月夜はどきりとした。
干野川は両手で月夜の手をぎゅっと握りしめる。
その瞬間、月夜の全身に鳥肌が立ち、ぞわっとした感覚が走った。
縁樹が握ってくれたときとはまったく違う強烈な違和感が襲う。
「あの、放して……」
月夜が手を引っこめようとすると、干野川はさらに力を入れて握りしめ、顔を近づけてきた。
「やはり美しい。あなたは僕の嫁にふさわしい。愛人ではなく正妻にしてやろう。どうだ? 嬉しいだろう」
あまりに近くで言われて月夜は一歩後退した。干野川は笑顔だが、どこか不自然で、先ほどの男性たちとあまり変わらないように思える。
「ごめんなさい。私はあなたに嫁ぐことはできません」
はっきりとそう告げると、干野川は急に表情を歪めて月夜を睨むように見下ろした。
「あなたは以前も僕の求婚を断ったね?」
「あのときは、姉があなたの婚約者だったので」
「それならもういいだろう。僕はあなたの姉との縁談をやめたんだ。責任を取れ」
「そんな……」
脅しのような干野川の発言に、月夜は困惑し絶句した。
「まあ、あれは干野川の……」
「また令嬢に言い寄っているのね」
「あの子、可哀想にね。誰か助けてあげたら?」
周囲から同情するような声が飛び交う。しかし、それらはすべて空虚なもので、所詮は他人事。誰もがただ傍観しているだけだった。
彼らの声が頭の中に響き渡る。月夜は人の多さに酔ってしまい、くらりと眩暈がした。
「どうしよう……」
どくんどくんと鼓動が鳴る。
今まで誰かがそばにいてくれたから平気だったたけで、ひとりになると急激に孤独と不安が襲ってきて震えが止まらなくなった。
「ねえ、君、どこのお嬢さん?」
「可愛いね。僕らとお話しない?」
見知らぬ男性たちに声をかけられて、月夜は緊張しながら答える。
「え、えっと……知り合いがいるので」
「いいじゃない。楽しいところに行こうよ」
震える月夜を見て、面白がって笑う人たち。
「なあ、いいだろう?」
ひとりの男性に腕を掴まれた瞬間、月夜の恐怖心は頂点に達した。
身体の奥から何かがわき立つような熱がじわじわ広がっていく。
月夜の瞳が紅く光った瞬間、別の者が声をかけてきて気がそがれた。
「あなたは、あのときのお嬢さんではないか!」
「えっ?」
振り返ったそこには、以前に一度だけ会ったことのある人物がいた。月夜の脳裏に蘇る、狂ったように悲鳴を上げる男性の姿だ。
「干野川、さん?」
「おおっ、僕のことを覚えていたのか!」
月夜の腕を掴んでいた男性がちっと舌打ちした。
「なんだよ、男がいるのか」
そう言って彼らは立ち去っていった。
月夜はほっと安堵して、干野川に礼を言う。
「ありがとうございます。少し困っていたんです」
「あんな品性のない野郎どもは無視しておけばいいんだ」
「次から気をつけます」
月夜は色白の彼の顔を見てどきりとした。その頬には月夜がつけた傷跡がくっきり残っているからだ。
「あのときは、本当にごめんなさい。顔に、残ってしまったんですね」
「ああ、この傷のことか。いいんだよ。責任を取ってくれれば!」
「責任……?」
月夜が不安げに首を傾げると、干野川はにこにこしながら言った。
「この傷のせいで僕は縁談をしても令嬢に逃げられてしまう」
「……ごめんなさい」
「だから、あなたが僕と結婚すればいい」
「えっ……」
月夜はどきりとした。
干野川は両手で月夜の手をぎゅっと握りしめる。
その瞬間、月夜の全身に鳥肌が立ち、ぞわっとした感覚が走った。
縁樹が握ってくれたときとはまったく違う強烈な違和感が襲う。
「あの、放して……」
月夜が手を引っこめようとすると、干野川はさらに力を入れて握りしめ、顔を近づけてきた。
「やはり美しい。あなたは僕の嫁にふさわしい。愛人ではなく正妻にしてやろう。どうだ? 嬉しいだろう」
あまりに近くで言われて月夜は一歩後退した。干野川は笑顔だが、どこか不自然で、先ほどの男性たちとあまり変わらないように思える。
「ごめんなさい。私はあなたに嫁ぐことはできません」
はっきりとそう告げると、干野川は急に表情を歪めて月夜を睨むように見下ろした。
「あなたは以前も僕の求婚を断ったね?」
「あのときは、姉があなたの婚約者だったので」
「それならもういいだろう。僕はあなたの姉との縁談をやめたんだ。責任を取れ」
「そんな……」
脅しのような干野川の発言に、月夜は困惑し絶句した。
「まあ、あれは干野川の……」
「また令嬢に言い寄っているのね」
「あの子、可哀想にね。誰か助けてあげたら?」
周囲から同情するような声が飛び交う。しかし、それらはすべて空虚なもので、所詮は他人事。誰もがただ傍観しているだけだった。
4
あなたにおすすめの小説
鬼様に生贄として捧げられたはずが、なぜか溺愛花嫁生活を送っています!?
小達出みかん
キャラ文芸
両親を亡くし、叔父一家に冷遇されていた澪子は、ある日鬼に生贄として差し出される。
だが鬼は、澪子に手を出さないばかりか、壊れ物を扱うように大事に接する。美味しいごはんに贅沢な衣装、そして蕩けるような閨事…。真意の分からぬ彼からの溺愛に澪子は困惑するが、それもそのはず、鬼は澪子の命を助けるために、何度もこの時空を繰り返していた――。
『あなたに生きていてほしい、私の愛しい妻よ』
繰り返される『やりなおし』の中で、鬼は澪子を救えるのか?
◇程度にかかわらず、濡れ場と判断したシーンはサブタイトルに※がついています
◇後半からヒーロー視点に切り替わって溺愛のネタバレがはじまります
あやかし警察おとり捜査課
紫音みけ🐾書籍2冊発売中!
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。
しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。
反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。
後宮祓いの巫女は、鬼将軍に嫁ぐことになりました
由香
キャラ文芸
後宮で怪異を祓う下級巫女・紗月は、ある日突然、「鬼」と噂される将軍・玄耀の妻になれと命じられる。
それは愛のない政略結婚――
人ならざる力を持つ将軍を、巫女の力で制御するための契約だった。
後宮の思惑に翻弄されながらも、二人は「契約」ではなく「選んだ縁」として、共に生きる道を選ぶ――。
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
雪嶺後宮と、狼王の花嫁
由香
キャラ文芸
後宮に降る雪は、呪いではなく嘆きだった。
巫女として献上された少女セツナは、
封じられた狼王の“花嫁”としての前世を思い出す。
人と妖、政と信仰の狭間で、
彼女が選ぶのは従属ではなく均衡。
雪嶺を舞台に描く、異種婚姻×後宮伝承譚。
耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー
汐埼ゆたか
キャラ文芸
准教授の藤波怜(ふじなみ れい)が一人静かに暮らす一軒家。
そこに迷い猫のように住み着いた女の子。
名前はミネ。
どこから来たのか分からない彼女は、“女性”と呼ぶにはあどけなく、“少女”と呼ぶには美しい
ゆるりと始まった二人暮らし。
クールなのに優しい怜と天然で素直なミネ。
そんな二人の間に、目には見えない特別な何かが、静かに、穏やかに降り積もっていくのだった。
*****
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
※他サイト掲載
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇
☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
炎華繚乱 ~偽妃は後宮に咲く~
悠井すみれ
キャラ文芸
昊耀国は、天より賜った《力》を持つ者たちが統べる国。後宮である天遊林では名家から選りすぐった姫たちが競い合い、皇子に選ばれるのを待っている。
強い《遠見》の力を持つ朱華は、とある家の姫の身代わりとして天遊林に入る。そしてめでたく第四皇子・炎俊の妃に選ばれるが、皇子は彼女が偽物だと見抜いていた。しかし炎俊は咎めることなく、自身の秘密を打ち明けてきた。「皇子」を名乗って帝位を狙う「彼」は、実は「女」なのだと。
お互いに秘密を握り合う仮初の「夫婦」は、次第に信頼を深めながら陰謀渦巻く後宮を生き抜いていく。
表紙は同人誌表紙メーカーで作成しました。
第6回キャラ文芸大賞応募作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる