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三章
異国の文化
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「ツキヨ、あっちにごちそうある。一緒に食べヨ」
メアリーが月夜の手を握る。
月夜が縁樹に目を向けると、彼は黙ってうなずいた。
メアリーに連れられていった長テーブルにはたくさんの料理が並んでいた。オムレツやコロッケやカツレツ、ビーフシチューにハンバーグ、スパゲッティなどがあり、このあいだ縁樹と一緒に食べたカレーもあった。
「すごい。見たことのない料理ばかり」
「ガーリックオニオンが入ってるケド美味しいの。でも、アタシが好きなのはコレ!」
メアリーが指を差したのはエビフライだ。
彼女はそれを皿に取ってフォークと一緒に月夜に渡す。
「ありがとう」
口に入れて噛むとさくっとした衣とぷりっとしたエビの触感に思わず涙目になってしまった。
「お、美味しい。とっても美味しい」
月夜が頬を赤らめながら感嘆の声を上げると、メアリーは他の皿にハンバーグやオムレツを盛りつけて月夜に差しだした。
「美味しいモノ、いっぱい食べる。げんき出るヨ」
「うん!」
月夜はすっかり緊張がほぐれて、今まで感じたことのないほどの幸福感を胸いっぱいに抱いていた。
ふたりでレモネードを飲みながら、たくさんおしゃべりをした。
月夜は祖母のことを、メアリーは母のことを話題にした。
メアリーは幼い頃に妖力に目覚めて友だちを失い、周囲に不気味に思われながらも母とふたりでひっそり暮らしてきた。
母が昔訪れたことのある東の島国にいつか行ってみたいと思っていたので、数年前に他のあやかし仲間と一緒に故郷を旅立ったらしい。
「父のコトは知らない。父は人間。母はすごく綺麗。エルフなの」
「エルフ……?」
「そう。母はエルフとヴァンパイアの混血。みんな母のコト、エンジェルって言うヨ」
「え、えっと……」
月夜は一つ一つの単語を理解するのに苦労した。
そうしているあいだに、メアリーはどんどん話を続ける。
月夜は不安になり、つい縁樹を探して視線を走らせた。人の壁に遮られて彼の姿は見えない。
メアリーは月夜が焦っている様子を見て、笑顔で肩をぽんっと叩いた。
「ツキヨ、だいじょーぶ。カラスサン、とてもいい人。あなた、しあわせヨ」
「うん」
縁樹が優しいことは月夜も充分にわかっている。
けれど、この結婚は偽りのものだ。
月夜は複雑な気持ちになり、同時に胸がちくりと痛んだ。
縁樹は媛地家という牢獄から月夜を救ってくれた。これ以上のことを望んではいけない。そう思うのに、わずかに侘しさを感じている。
メアリーに勧められるがまま、次々と飲み物を口にしているうちに、月夜はそわそわし始めた。緊張も重なり、どうしても厠へ行きたくなったのだ。
「ツキヨ、どうしたの?」
「あ、あの……私ちょっと……」
月夜が小さく震えているので、メアリーは心配そうに覗き込んだ。
「具合ワルイ?」
月夜は小さく首を横に振る。
どう説明したらいいのかわからず、恥ずかしくなって頬を赤らめるだけだった。
ところがメアリーは「あっ」と思いついたように月夜の耳もとでひっそりと訊ねた。
月夜は唇を引き結んだまま、こくんとうなずく。
メアリーは何も言わずに月夜の手を引いて会場を出ると、厠へ案内してくれた。しかし、この建物の厠は、月夜が知っているものとはまるで違っていた。
綺麗に磨かれた鏡がいくつも並び、扉のついた個室がいくつもある。
厠とは暗く湿気がこもり、虫が飛び交うような場所だ。さらに匂いもきつい。ところが、ここは花のような香りが漂っている。香水が使われているようだった。
「アタシは外で待ってるヨ!」
「うん、ありがとう」
残された月夜は室内の美しい設計の造りにうっとりと見惚れてしまった。
そして個室の扉を開くと、そこにあるものを見てしばし固まった。
「……どうやって使うの?」
月夜はまたメアリーを呼び戻さなければならなかった。
あまりに美しい見栄えのする厠に緊張してしまったが、どうにか済ませることができた。
しかし、廊下に出るとメアリーの姿が見当たらない。人が多いので探しだすことも難しく、うろうろしていたら迷ってしまった。
メアリーが月夜の手を握る。
月夜が縁樹に目を向けると、彼は黙ってうなずいた。
メアリーに連れられていった長テーブルにはたくさんの料理が並んでいた。オムレツやコロッケやカツレツ、ビーフシチューにハンバーグ、スパゲッティなどがあり、このあいだ縁樹と一緒に食べたカレーもあった。
「すごい。見たことのない料理ばかり」
「ガーリックオニオンが入ってるケド美味しいの。でも、アタシが好きなのはコレ!」
メアリーが指を差したのはエビフライだ。
彼女はそれを皿に取ってフォークと一緒に月夜に渡す。
「ありがとう」
口に入れて噛むとさくっとした衣とぷりっとしたエビの触感に思わず涙目になってしまった。
「お、美味しい。とっても美味しい」
月夜が頬を赤らめながら感嘆の声を上げると、メアリーは他の皿にハンバーグやオムレツを盛りつけて月夜に差しだした。
「美味しいモノ、いっぱい食べる。げんき出るヨ」
「うん!」
月夜はすっかり緊張がほぐれて、今まで感じたことのないほどの幸福感を胸いっぱいに抱いていた。
ふたりでレモネードを飲みながら、たくさんおしゃべりをした。
月夜は祖母のことを、メアリーは母のことを話題にした。
メアリーは幼い頃に妖力に目覚めて友だちを失い、周囲に不気味に思われながらも母とふたりでひっそり暮らしてきた。
母が昔訪れたことのある東の島国にいつか行ってみたいと思っていたので、数年前に他のあやかし仲間と一緒に故郷を旅立ったらしい。
「父のコトは知らない。父は人間。母はすごく綺麗。エルフなの」
「エルフ……?」
「そう。母はエルフとヴァンパイアの混血。みんな母のコト、エンジェルって言うヨ」
「え、えっと……」
月夜は一つ一つの単語を理解するのに苦労した。
そうしているあいだに、メアリーはどんどん話を続ける。
月夜は不安になり、つい縁樹を探して視線を走らせた。人の壁に遮られて彼の姿は見えない。
メアリーは月夜が焦っている様子を見て、笑顔で肩をぽんっと叩いた。
「ツキヨ、だいじょーぶ。カラスサン、とてもいい人。あなた、しあわせヨ」
「うん」
縁樹が優しいことは月夜も充分にわかっている。
けれど、この結婚は偽りのものだ。
月夜は複雑な気持ちになり、同時に胸がちくりと痛んだ。
縁樹は媛地家という牢獄から月夜を救ってくれた。これ以上のことを望んではいけない。そう思うのに、わずかに侘しさを感じている。
メアリーに勧められるがまま、次々と飲み物を口にしているうちに、月夜はそわそわし始めた。緊張も重なり、どうしても厠へ行きたくなったのだ。
「ツキヨ、どうしたの?」
「あ、あの……私ちょっと……」
月夜が小さく震えているので、メアリーは心配そうに覗き込んだ。
「具合ワルイ?」
月夜は小さく首を横に振る。
どう説明したらいいのかわからず、恥ずかしくなって頬を赤らめるだけだった。
ところがメアリーは「あっ」と思いついたように月夜の耳もとでひっそりと訊ねた。
月夜は唇を引き結んだまま、こくんとうなずく。
メアリーは何も言わずに月夜の手を引いて会場を出ると、厠へ案内してくれた。しかし、この建物の厠は、月夜が知っているものとはまるで違っていた。
綺麗に磨かれた鏡がいくつも並び、扉のついた個室がいくつもある。
厠とは暗く湿気がこもり、虫が飛び交うような場所だ。さらに匂いもきつい。ところが、ここは花のような香りが漂っている。香水が使われているようだった。
「アタシは外で待ってるヨ!」
「うん、ありがとう」
残された月夜は室内の美しい設計の造りにうっとりと見惚れてしまった。
そして個室の扉を開くと、そこにあるものを見てしばし固まった。
「……どうやって使うの?」
月夜はまたメアリーを呼び戻さなければならなかった。
あまりに美しい見栄えのする厠に緊張してしまったが、どうにか済ませることができた。
しかし、廊下に出るとメアリーの姿が見当たらない。人が多いので探しだすことも難しく、うろうろしていたら迷ってしまった。
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