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三章
君とおなじ
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あっという間に時間が経ち、月夜は縁樹の馬車で帰路についた。
馬車に揺られながら蹄の音に耳をすませると、先ほどまでの時間が夢だったのではないかと感じるほど、名残惜しい気持ちがじわじわと押し寄せてくる。
馬車の中で向かい側に座る縁樹が、ふいに声をかけてきた。
「今日は疲れただろう」
「うん、少しだけ。でも、素敵な時間だった」
「怖い思いをさせて悪かった」
縁樹は頭を垂れて謝罪し、月夜は慌てて首を横に振った。
あのとき、月夜は以前のように妖力が暴走していた。もし干野川に大怪我を負わせていたらこうして平穏に帰ることなどできなかっただろう。
「縁樹さんが止めてくれなかったら、私はあの人を殺していたかもしれない」
月夜が恐る恐るそう言うと、縁樹はためらいもなく返答した。
「そうだろうな。あの場にいた者は誰も気づいていないが、君の妖力が一番強かった」
「縁樹さんよりも?」
「そうだ。俺の妖力は夜になると落ちる」
「え? でも、さっきは……」
「君に触れることで君の妖力をもらっていたんだよ。おかげで俺は問題なく力を使うことができた」
月夜は縁樹と手を繋いでいたときのことを思いだし、急に恥ずかしくなって頬を赤らめた。
「香月さんが言っていた一緒にいるとお互いに都合がいいというのはこういうことだ」
縁樹の言葉に月夜はこくりとうなずいた。
お互いに相反する存在だが、先ほどのように上手に付き合っていけばうまくいくというのだ。そこにはなんらかの情はない、あくまでお互いに利用し合う関係であるということ。縁樹はそれを一貫して主張している。
けれど、月夜は少し違った。
胸の奥が少しざわついて、時折ぎゅっと締めつけられるような感覚に陥る。この気持ちがどういうものなのか理解できないけれど、縁樹からこの縁談が形だけのものであると暗に示されるたびに胸がちくりと痛んだ。
そして同時にこんな気持ちになる自分に少し罪悪感を抱いた。
「さっきの説明がまだだったな」
縁樹がおもむろに切りだすと、月夜は真剣な眼差しを彼に向けた。
その口から語られたのは、縁樹の一族がこれまで辿ってきた経緯だった。
烏波巳家は代々太陽の化身として帝に仕えてきた。特に一族が持つ予知能力は帝の政務に関して重要な役割をしており、常にそばで支えながら長い年月を過ごしてきた。
しかしあるとき、帝に仕えていた当主が予知した出来事を外してしまい、多大な被害を被った。そのことで当主は打ち首にされ、分家から力のある者が選ばれることになった。
それがきっかけとなり、本家と分家はお互いに権力を争う犬猿の仲となる。それでもあやかし界の頂点にいたので、公の場では争うそぶりを見せず、内輪だけで暗殺が繰り広げられていた。
「同じ血を持つ家族なのに、殺し合っていたの?」
月夜の問いに縁樹はわずかに苦笑して答える。
「それは君が一番よく理解しているだろう?」
月夜はどきりとして唇をきゅっと引き結ぶ。
それを見た縁樹はため息をついて、言い直した。
「言い方が悪かった。俺も君と同じ目に遭ったんだ。だから俺は君の苦しみを理解できる。ただ、百年前の記憶だからほとんど忘れているけどな」
縁樹は冷静に、穏やかに、そう話した。
馬車に揺られながら蹄の音に耳をすませると、先ほどまでの時間が夢だったのではないかと感じるほど、名残惜しい気持ちがじわじわと押し寄せてくる。
馬車の中で向かい側に座る縁樹が、ふいに声をかけてきた。
「今日は疲れただろう」
「うん、少しだけ。でも、素敵な時間だった」
「怖い思いをさせて悪かった」
縁樹は頭を垂れて謝罪し、月夜は慌てて首を横に振った。
あのとき、月夜は以前のように妖力が暴走していた。もし干野川に大怪我を負わせていたらこうして平穏に帰ることなどできなかっただろう。
「縁樹さんが止めてくれなかったら、私はあの人を殺していたかもしれない」
月夜が恐る恐るそう言うと、縁樹はためらいもなく返答した。
「そうだろうな。あの場にいた者は誰も気づいていないが、君の妖力が一番強かった」
「縁樹さんよりも?」
「そうだ。俺の妖力は夜になると落ちる」
「え? でも、さっきは……」
「君に触れることで君の妖力をもらっていたんだよ。おかげで俺は問題なく力を使うことができた」
月夜は縁樹と手を繋いでいたときのことを思いだし、急に恥ずかしくなって頬を赤らめた。
「香月さんが言っていた一緒にいるとお互いに都合がいいというのはこういうことだ」
縁樹の言葉に月夜はこくりとうなずいた。
お互いに相反する存在だが、先ほどのように上手に付き合っていけばうまくいくというのだ。そこにはなんらかの情はない、あくまでお互いに利用し合う関係であるということ。縁樹はそれを一貫して主張している。
けれど、月夜は少し違った。
胸の奥が少しざわついて、時折ぎゅっと締めつけられるような感覚に陥る。この気持ちがどういうものなのか理解できないけれど、縁樹からこの縁談が形だけのものであると暗に示されるたびに胸がちくりと痛んだ。
そして同時にこんな気持ちになる自分に少し罪悪感を抱いた。
「さっきの説明がまだだったな」
縁樹がおもむろに切りだすと、月夜は真剣な眼差しを彼に向けた。
その口から語られたのは、縁樹の一族がこれまで辿ってきた経緯だった。
烏波巳家は代々太陽の化身として帝に仕えてきた。特に一族が持つ予知能力は帝の政務に関して重要な役割をしており、常にそばで支えながら長い年月を過ごしてきた。
しかしあるとき、帝に仕えていた当主が予知した出来事を外してしまい、多大な被害を被った。そのことで当主は打ち首にされ、分家から力のある者が選ばれることになった。
それがきっかけとなり、本家と分家はお互いに権力を争う犬猿の仲となる。それでもあやかし界の頂点にいたので、公の場では争うそぶりを見せず、内輪だけで暗殺が繰り広げられていた。
「同じ血を持つ家族なのに、殺し合っていたの?」
月夜の問いに縁樹はわずかに苦笑して答える。
「それは君が一番よく理解しているだろう?」
月夜はどきりとして唇をきゅっと引き結ぶ。
それを見た縁樹はため息をついて、言い直した。
「言い方が悪かった。俺も君と同じ目に遭ったんだ。だから俺は君の苦しみを理解できる。ただ、百年前の記憶だからほとんど忘れているけどな」
縁樹は冷静に、穏やかに、そう話した。
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