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20、緊張の対面(エリオス)
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翌日、俺はすぐにハルトマン侯爵宛に手紙を書き、簡潔に事情を説明した。
ほどなく返事が届いた。おそらく、手紙を受け取って目を通すや否や、すぐに筆を執ったのだろう。
それほどに、向こうも驚いているはずだった。
侯爵の返事には、まずこちらを訪問したいと記されていた。
俺はすぐに受け入れの準備を整えることにした。
そして半月も経たないうちに、ハルトマン侯爵は我が家を訪れることとなった。
その日、俺はまずレイラに別室で待っていてもらった。
いきなり顔を合わせれば、互いに戸惑うのは目に見えている。
だから先に、ハルトマン侯爵を貴賓室に通し、事情を説明することにした。
「なるほど。エリオス殿の話では、レイラという令嬢は弟と同じ絵を描けるのだな」
「ええ。初めてその絵を目にしたときは、まるでスヴェンが蘇ったかのように感じました。さらに、うちの侍従が言うには、容姿まで瓜二つだと。これは何かの縁だと思わざるを得ませんでした」
ハルトマン侯爵は黙り込んだ。
困惑しているのだろうか。しばらく沈黙したあと、彼は落ち着いた声で答えた。
「実はね、弟は死の間際に、私にだけ打ち明けたことがある。かつて愛していた女性がいたのだと。私も初めて聞かされて驚いたよ。弟は常に旅ばかりしていて、たまに帰ってきても自分のことはほとんど語らなかった。息子たちとはよく遊んでくれていたが、気がつくとまたふらりと旅に出てしまう。そんな男だったからね」
これまで想像の域だったことがだんだん確信に近づきつつある。
俺はもっとも知りたい核心を問いかけた。
「その女性の素性はわかりますか?」
「いや。まったくわからない。どこの誰か、家門も女性の名前すらも」
「まだ憶測の段階ですが、一度レイラに会ってみていただきたい」
「ああ、そうしよう。そのつもりで来たんだ」
「ただ、レイラは何も知りません。手紙でも説明した通り、彼女は自身の家族のことを話したがらないので、今は彼女の口から語られるのを待っているところです」
「承知している。なるべく、平静を保っていよう」
サイラスにレイラを呼びに行ってもらい、やがて彼女が貴賓室を訪れた。
俺にはこのふたりの対面がどんな表情のもとで交わされているのか判断できない。
しかし、空気がぴりっと張りつめているのは伝わってくる。
俺はまず、侯爵にレイラを紹介した。すると彼は明るい声で応じた。
「初めまして。エリオス殿から手紙で聞いている。私はマーク・ハルトマンだ。よろしく」
しかし、レイラはすぐに言葉を返さなかった。
驚いているのだろうか。何せ、ハルトマン侯爵はスヴェンと雰囲気がよく似ているらしいから。
緊張に包まれた空気の中、ようやく彼女が口を開く。
「あ……初めまして。レイラと申します」
その声はいつもより小さく、戸惑いが滲んでいるように思えた。
ほどなく返事が届いた。おそらく、手紙を受け取って目を通すや否や、すぐに筆を執ったのだろう。
それほどに、向こうも驚いているはずだった。
侯爵の返事には、まずこちらを訪問したいと記されていた。
俺はすぐに受け入れの準備を整えることにした。
そして半月も経たないうちに、ハルトマン侯爵は我が家を訪れることとなった。
その日、俺はまずレイラに別室で待っていてもらった。
いきなり顔を合わせれば、互いに戸惑うのは目に見えている。
だから先に、ハルトマン侯爵を貴賓室に通し、事情を説明することにした。
「なるほど。エリオス殿の話では、レイラという令嬢は弟と同じ絵を描けるのだな」
「ええ。初めてその絵を目にしたときは、まるでスヴェンが蘇ったかのように感じました。さらに、うちの侍従が言うには、容姿まで瓜二つだと。これは何かの縁だと思わざるを得ませんでした」
ハルトマン侯爵は黙り込んだ。
困惑しているのだろうか。しばらく沈黙したあと、彼は落ち着いた声で答えた。
「実はね、弟は死の間際に、私にだけ打ち明けたことがある。かつて愛していた女性がいたのだと。私も初めて聞かされて驚いたよ。弟は常に旅ばかりしていて、たまに帰ってきても自分のことはほとんど語らなかった。息子たちとはよく遊んでくれていたが、気がつくとまたふらりと旅に出てしまう。そんな男だったからね」
これまで想像の域だったことがだんだん確信に近づきつつある。
俺はもっとも知りたい核心を問いかけた。
「その女性の素性はわかりますか?」
「いや。まったくわからない。どこの誰か、家門も女性の名前すらも」
「まだ憶測の段階ですが、一度レイラに会ってみていただきたい」
「ああ、そうしよう。そのつもりで来たんだ」
「ただ、レイラは何も知りません。手紙でも説明した通り、彼女は自身の家族のことを話したがらないので、今は彼女の口から語られるのを待っているところです」
「承知している。なるべく、平静を保っていよう」
サイラスにレイラを呼びに行ってもらい、やがて彼女が貴賓室を訪れた。
俺にはこのふたりの対面がどんな表情のもとで交わされているのか判断できない。
しかし、空気がぴりっと張りつめているのは伝わってくる。
俺はまず、侯爵にレイラを紹介した。すると彼は明るい声で応じた。
「初めまして。エリオス殿から手紙で聞いている。私はマーク・ハルトマンだ。よろしく」
しかし、レイラはすぐに言葉を返さなかった。
驚いているのだろうか。何せ、ハルトマン侯爵はスヴェンと雰囲気がよく似ているらしいから。
緊張に包まれた空気の中、ようやく彼女が口を開く。
「あ……初めまして。レイラと申します」
その声はいつもより小さく、戸惑いが滲んでいるように思えた。
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