「運命の番」だと胸を張って言えるまで

黎明まりあ

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第7章 喪失との対峙(たいじ)

134、ライとの再会<前>

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「ねぇ、テオ、他に何か手伝うことない?」

 体重はなかなか元通りとはならなかったが、やはり心許せる人と生まれ育った土地のおかげで、日中は横になることもなく、歩き回れるほどまでに、僕の体力は回復した。
 となると、自領が現在、誰がどのように運営しているのかが気になる訳で……その答えはわりと簡単に教えてもらって、先ほどの問いになるのである。

 そう、この付近一帯の領主は僕のままであるが、実務をになっているのはテオであった。
 その答えを聞いた時、すぐに僕は納得した。
 なぜなら当初とうしょ、ライがシルヴィス様と結婚したら、僕とテオも結婚し、テオの助けを借りながら、一緒にこの地を治めることになっていて……その時にそなえ、ライがシルヴィス様の婚約者候補となった時から、テオには徐々じょじょに領地運営の仕事を覚えてもらっていたからだ。

 加えてアルフ様が新王となった時、僕の領地がある王国の北と、東の領地を管轄かんかつするだい領主の地位にいたのは、シルヴィス様だった。
 シルヴィス様の弟にあたる2人の兄弟たちは、西と南、それぞれひとつだけの領地を管轄するのに対し、シルヴィス様だけが2つの領地を担当するのは、それなりの理由があり……王国の西と南は海に面しているのに対し、シルヴィス様が担当する王国の北と東は他国と隣接りんせつしており、その侵入を受ける被害が過去から現在に至るまで多発しているからだ。
 そういった他国からの侵入を撃退げきたいするために、軍をひきいているシルヴィス様が北と東の国境沿いに出向くことが多く、それならばいっそうのこと、北と東はシルヴィス様が統轄していた方が何かと都合が良いという結論になったようだ。

 シルヴィス様本人は、治める範囲の領土としては広すぎると難色なんしょくを示したものの、むしろ統括地域から、自領の侵入被害を何度も撃退してくれた、武力を持つシルヴィス様をぜひ大領主にして欲しいとの懇願こんがんもあり、それを反映したアルフ様が結果として王命を発令したため、シルヴィス様は無下むげこばむこともできず、最終的に引き受けたそうだ。

 そして僕不在の領地をテオが管理していたのは、もうひとつ理由がある。
 それは、僕がシルヴィス様とつがう時に、お願いしたからだ……テオと妹の生活を守るように、と。
 シルヴィス様は、テオに領地運営をまかせるその対価たいかとして、テオたちの生活を援助してくれたのである。
 この名分めいぶんがあれば、僕の領地を少しだけ手厚く援助しても、他の領地からの批判をおさえることができるからと、テオはシルヴィス様より説明されたそうだ。

 起き上がれるようになってから、少しずつ領地を見回っていたが、僕がいる時以上に様々な事がうるおっていて……王宮生活では、シルヴィス様と色々衝突しょうとつしたり、失望することさえあったけど、領地とテオたちの生活を守り抜いてくれたことに関しては、僕はシルヴィス様に深く感謝したのであった。

「今のところは、特にございません。
 それよりレンヤード様は身体からだを休めることを優先してください」

 僕がテオに手伝いを申し出た時の返答は、決まってそう答えられていたが、この日は、ある事が付け加えられていた。

「明日、ユリア様がいらっしゃいます」
「姉様が!本当に?
 これでやっとライに会いにいける!
 ライは会ってくれるかな?
 ううん、罵倒ばとうされても、殴られてもいい!
 とにかく僕は、ひと目、ライの姿を見たい……」

 姉様に会えることで嬉しくなり、一旦いったん声をはずませた僕だったが、ライに関して自分の立場をかんがみると、諸手もろてを上げてそう喜ぶことはできず、急激に僕の気分は降下こうかする。
 そんな複雑な心情を持てあます僕に、テオは穏やかな口調で教えてくれた。

「大丈夫ですよ、レンヤード様。
 ライヨーダ様は、きちんと理解しておいでです」

 僕が王宮に滞在し、この地に不在の間、シルヴィス様との婚礼が叶わなくなり、失意をいだいたまま領地に戻ったライに寄り添い続けたのは、姉様と自身も深い傷を負ったテオだった。
 ライには王家からも正式な謝罪があり、ライが心穏やかに暮らせるよう、あらゆる援助がなされていると、僕はテオから聞かされた。

 だが、ライの輝かしい未来を結果的に奪う元凶げんきょうとなった僕を、実際にの当たりにしても、果たしてライは、取り乱さないでいられるであろうか?
 自分に置きえてみて何度も考えてみたが、僕の答えはいなしか思い浮かばない
 だから僕にできることは、ライが発する言動が、どれだけ暴力的であっても、あらがうことなく、全てを受け止めるだけ

 ライと会う前日になって、僕の中で長い間かかえ続けた苦悩と葛藤かっとうの結論は、いたってシンプルなものとなり、僕はその覚悟を決めた。

 全てはライの心のままに……

 正面からこの問題に向き合うと、すぐにでも逃げ出しそうになる、僕の中にある臆病おくびょうな気持ちと日々たたかいながら、とうとう僕はその日を迎えたのである。

###########################
 これから先はシリアスかつセンシティブ表現が出てきます
 十分に配慮して進めるつもりですが、苦手な方は、この先のライの回は読み飛ばしても構いません
 (そのように構成するつもりです)
 よろしくお願いしますm(_ _)m
 
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