「運命の番」だと胸を張って言えるまで

黎明まりあ

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第1章 番(つがい)になるまで

8、混乱の中での求愛

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 っっ……テオぉぉぉッッッ~~

 僕の身体にやっと血がけ巡り、テオの元へ行こうとするが、逆に遠ざかってしまう。

 なんで!?

 そこでやっと、シルヴィス様が後ろから僕を抱き寄せて、ライの襲撃しゅうげきからかばってくださったことを理解したが、今はそれどころではない。

「シルヴィス様、離してください!!」
「ダメだ!!
 そなたを失うわけにはいかぬのだ!!」

 テオのもとに駆けつけたい僕は暴れまくる。

「やだ!離せよ!!離せ!!
 テオがっ!!テオがぁ~!!
 テオぉぉぉ~~っ!!」

 僕はピクリとも動かなくなったテオに向かって必死に手を伸ばしたが、容赦ようしゃなくシルヴィス様に引きずられて、どんどんテオから遠ざかっていく。
 同時にライも、僕と反対方向へ兵士に拘束こうそくされ連れて行かれるのが見えた。
 かなり離れていたが、ライは僕と目が合うなり、怒りが再発したようで、ののしり始めた。

「なんで欠陥けっかんオメガのお前がシルヴィス様に選ばれるんだ!
 僕は絶対に認めないからな!

 シルヴィス様を支えようと努力してきた、僕のこの5年間は何だったんだ?
 今日はこれまでの人生の中で一番幸せな日になるはずだったのに、こんなみじめな思いをされられるなんて!

 不細工ぶさいくなお前なんて、すぐに捨てられるぞ!
 忘れるな!」

 ひどい興奮状態のライは、頑強がんきょうな兵士たちでさえも手を焼き、最後は鳩尾みぞおちなぐられ、気絶させられてから部屋を出ていった。

 美しい顔立ちをしているライは、小さな頃から、いつでもどこでも特別扱いを受けていたため、気位きぐらいが高い。
 僕たちは二卵性の双子なので、容姿ようしはあまり似ていなかった。
 髪の色は、ライはつややかな蜂蜜はちみつ色だが、僕は焦茶こげちゃ色。
 瞳の色は、ライはき通ったエメラルドグリーンに対して、僕はダークグリーン。
 性格も、社交的なライに、引っ込み思案じあんな僕。
 見事に対照的な僕たちだったので、周囲からは、よく「光」と「影」に例えられた。
 もちろん「光」はライだ。

 第一の性である男女とは別の観点で、子を産めるか産まないかで分けられる第二の性であるバース性。
 第一次性で男性体であるが、第二次性で唯一産むことが出来るオメガ性であるライと僕。
 でも僕だけ、オメガ性でありながら、子宮がないために産むことができない。

 だからだろうか、オメガ性として完璧なライは、僕を見下すことが多かった。
 唯一両親と姉だけは、『レンはとっても綺麗なの、だから自信を持って』と言ってくれたけど、容姿ようしも性格も地味なうえ、産むことができない自分に、どうしようもない痛みと引け目を感じていた僕は、ライの態度を甘んじて受け入れ、反論したことはなかった。

 ただこんな人前で、罵倒ばとうされるのはさすがにキツいけど……

 衝撃的な出来事がかさなり、現実逃避とうひであれこれ考え込んでいた僕は、シルヴィス様が声を出されたため、はっと我に返った。

「タナー、いるか?」
「はい、シルヴィス将軍、ここに」

「悪いが、オレはこれからつがうために自室にこもる。
 全権をお前に委任いにんするから、ここからは副官であるお前が指揮しろ」
「かしこまりました」

 今、シルヴィス様は何て言った?
 確か……つがうとか何とか……
 えっ?つがうって?

「いやです、行きたくないです!シルヴィス様」

 僕は抗議こうぎの意味を込めて、さらに力の限り暴れたが、シルヴィス様はビクともしない。
 自分の指示通り動き出す副官らを見届けてから、もがく僕の身体をヒョイっと抱き上げて、シルヴィス様は無言で歩き出した。

 止まることなく歩き続けて、少し豪華な装飾そうしょくほどこされた大きな扉を開け、中に入る。
 さらに奥にある寝台へと近づくと、そっとその上に僕を横たえた。

 あまりの体格差ゆえに、体重をかけぎないように気をつけながら、シルヴィス様はそのまま僕の上へおおいかぶさった。
 いまだ、もがき続ける僕を、大きな四肢しし全体を使い、押さえつける。
 僕が感じる恐怖と混乱は、極限状態を迎えた。

「暴れるな、傷つけたくない」

 そうシルヴィス様は言うけれど、僕だって必死だ。
 抵抗をやめるわけにはいかない。

 シルヴィス様は、僕に対して、これ以上力で押さえつけるのは危険と判断したのか、今度はアルファだけが使うことができる、威圧いあつを発動した。

 うぅっ……空気が重い

 ものすごい圧力に、自然と身体の動きがにぶくなり、やがて僕はピクリとも自力じりきで動かすことが出来なくなった。
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