「運命の番」だと胸を張って言えるまで

黎明まりあ

文字の大きさ
36 / 136
第3章 王宮生活<始動編>

35、新たな出会い<後>

しおりを挟む
 それからというもの、本当にセリム様は、僕が命じられた庭園の水やりを終えて、奥まった場所にある、ちょっとだけ秘密めいたこの綺麗な教会に祈りをささげるたびに、いつの間にか現れて、一緒に祈りをささげてくれた。
 大抵たいていは、僕が先に来て祈りをささげており、終わって振り返ると、僕の後ろでセリム様がひざまずいて祈りをささげているという、大変僕の心臓によろしくない、登場方法をされる。

 僕は来ていただいたら、遠慮なく声をかけてくださいとお願いしているが、セリム様が聞き入れることもない。
 それに祈りを終えられると、これまたサッサと帰られるので、僕とセリム様の交流は全くなかった。
 セリム様がどういうお方なのか気にはなるが、本人に僕と話す意思がない以上、僕からはどうしようもなく……あきらめてその状況を受け入れるしかない。

 祈ることに特に固執こしつしている訳ではないが、何しろ今の僕はやることも、会う人もなく……要するに暇過ぎた。
 それに、つがいであるシルヴィス様に長期間お会いできない状況は、やっぱり何だかゾワゾワして僕は落ち着かない。
 時折ときおり忍び寄る、何とも言えない、得体の知れない不安感にみ込まれそうになり……ぐっすり眠れない夜もある。
 だから僕は、雨の日以外は、せっせとこの教会に通いめた。
 それに祈ると、セリム様に語ったように心も身体からだもスッキリするため……僕にとって今や祈りは、大事な気分転換の一つになっていた。

 さあ今日もいつものように祈ろうかと、この隠れみたいな教会の扉を開けると、いつもと何だか雰囲気が違った。
 何だろう?と僕なりに警戒けいかい体制を取りながら、室内へ足をみ入れる。

 誰かいる?

 セリム様の透明感とは違う……ここにいますよ!と主張する、意図的な迫力はくりょくある存在感を、僕はピリリとした皮膚体感で受け止めた。
 自分なりに警戒けいかいしながら、さらに室内に進むと、例の全面ガラスりの横にあるソファに、誰かが寝転んでいるのが見てとれる。

 今の時刻は昼過ぎで、透明ガラスから神の祝福のような日光が、座り心地の良さそうなソファに降りそそいでいる。
 その光が寝転んでいる人の金髪にね返って、キラキラと輝いていた。
 あまりの美しさに、またしても僕は感嘆の声をあげそうになったが、自身の手で自分の口をふさぐことにより、その歓声かんせいを押し殺すことに成功した。
 なぜなら、遠目から見ても、金髪のその方は……すごく気持ち良さそうに眠っていたからだ。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜

みやの
BL
ーー……俺は、本能に殺されたかった。 自分で選び、番になった恋人を事故で亡くしたオメガ・要。 残されたのは、抜け殻みたいな体と、二度と戻らない日々への悔いだけだった。 この世界には、生涯に一度だけ「本当の番」がいる―― そう信じられていても、要はもう「運命」なんて言葉を信じることができない。 亡くした番の記憶と、本能が求める現在のあいだで引き裂かれながら、 それでも生きてしまうΩの物語。 痛くて、残酷なラブストーリー。

処理中です...