62 / 136
第4章 王宮生活<大祭準備編>
61、忘れていた服装問題<後>
しおりを挟む
でも……暖かい
こんなふうに優しく抱きしめられたのは、久しぶりだ。
透明度の高い海のような、アルフ様のアクアマリンの瞳に、僕は思わず見入ってしまう。
そんな感想を持ってしまうほど、僕も寂しかったのだろうか?
そんな自分の気持ちに気付いた途端、僕は狼狽え、さらに目を見開いてしまう。
「ふっ……そんなに目を見開いてると、瞳が溢れ落ちるぞ」
アルフ様はそう小さく呟くと、僕の後頭部に手の平を軽く当て、ご自分の胸元に僕の顔を引き寄せた。
ええっ!なんで?
頭の中が大混乱した僕が身じろぎすると、ふとアルフ様の香りが僕の鼻腔に飛び込んでくる。
チガウ!
コノニオイハ、チガウ!
瞬時にこの言葉が、僕の脳裏に浮かび上がった。
僕は身体に力を入れ、慌てて身を離そうとしたが、それよりはるかに上回る力によって、僕の動きは阻止される。
「もうしばらくこのままで……」
ため息のようなアルフ様の声が僕の耳元で聞こえたが、僕は指一本動かせない。
もしかして、威圧?
アルフ様もかなり力を持ったアルファだ……できないはずはない。
だが、どうして?
疑問がグルグルと頭の中で渦巻いているうちに、そっと顔をアルフ様の胸元から離された。
また僕の瞳を覗き込むようにして、アルフ様は僕と目を合わせる。
「服とは、もしや大祭の服か?」
服?
急な話題転換に僕はしばらく思考が追いつかず固まっていたが、アルフ様がこちらに来られた時の話題をようやく思い出す。
急いで返事をしようとしたが……声が出せない。
アルフ様はまだ完全に威圧を解かれていないので、僕は代わりに首を微かに縦に動かした。
「私が用意しよう。
2度も救ってくれた礼だ。
それに個人で用意しようとすれば、今から手配しても間に合わないだろう」
そういうと、アルフ様はようやく僕の身体を離してくれて、威圧も解いてくれる。
いきなり大量に入りこんできた空気に僕は胸が苦しくなって、両手を胸に当て何回か意識して呼吸する。
うん?
アルフ様が大祭の服を用意してくれる?
ようやく頭がハッキリしてきて、思考が回り出し、さすがにそれは甘えすぎだ……と思った僕は、アルフ様の申し出を断ろうとしたが、それより早くアルフ様は軽く2度ほど手を叩くと「この者の採寸を」と後方に向かって声を掛けた。
すると、どこからともなく何人かの侍女さんたちが現れ、あまりの展開についていけない僕をソファ横に無理やり立たせて、採寸を始める。
「ちょっ、ちょっと、アルフ様!」
ワタワタしている僕を楽しそうに眺めながら、アルフ様は新しく入れ直されたお茶を手にすると、僕に向かってこう言われた。
「必ず大祭まで仕上げさせるから、安心して全部私に任せろ」
いや、そういう問題じゃないんですけど
上に立つ者、特有の強引さに完全に巻き込まれながらも、よくよく考えると厄介な問題が片付いたことに気がついた僕は、それ以降は大人しく採寸に協力することにした。
それにしてもアルフ様って何者?という疑問だけ……残したまま。
こんなふうに優しく抱きしめられたのは、久しぶりだ。
透明度の高い海のような、アルフ様のアクアマリンの瞳に、僕は思わず見入ってしまう。
そんな感想を持ってしまうほど、僕も寂しかったのだろうか?
そんな自分の気持ちに気付いた途端、僕は狼狽え、さらに目を見開いてしまう。
「ふっ……そんなに目を見開いてると、瞳が溢れ落ちるぞ」
アルフ様はそう小さく呟くと、僕の後頭部に手の平を軽く当て、ご自分の胸元に僕の顔を引き寄せた。
ええっ!なんで?
頭の中が大混乱した僕が身じろぎすると、ふとアルフ様の香りが僕の鼻腔に飛び込んでくる。
チガウ!
コノニオイハ、チガウ!
瞬時にこの言葉が、僕の脳裏に浮かび上がった。
僕は身体に力を入れ、慌てて身を離そうとしたが、それよりはるかに上回る力によって、僕の動きは阻止される。
「もうしばらくこのままで……」
ため息のようなアルフ様の声が僕の耳元で聞こえたが、僕は指一本動かせない。
もしかして、威圧?
アルフ様もかなり力を持ったアルファだ……できないはずはない。
だが、どうして?
疑問がグルグルと頭の中で渦巻いているうちに、そっと顔をアルフ様の胸元から離された。
また僕の瞳を覗き込むようにして、アルフ様は僕と目を合わせる。
「服とは、もしや大祭の服か?」
服?
急な話題転換に僕はしばらく思考が追いつかず固まっていたが、アルフ様がこちらに来られた時の話題をようやく思い出す。
急いで返事をしようとしたが……声が出せない。
アルフ様はまだ完全に威圧を解かれていないので、僕は代わりに首を微かに縦に動かした。
「私が用意しよう。
2度も救ってくれた礼だ。
それに個人で用意しようとすれば、今から手配しても間に合わないだろう」
そういうと、アルフ様はようやく僕の身体を離してくれて、威圧も解いてくれる。
いきなり大量に入りこんできた空気に僕は胸が苦しくなって、両手を胸に当て何回か意識して呼吸する。
うん?
アルフ様が大祭の服を用意してくれる?
ようやく頭がハッキリしてきて、思考が回り出し、さすがにそれは甘えすぎだ……と思った僕は、アルフ様の申し出を断ろうとしたが、それより早くアルフ様は軽く2度ほど手を叩くと「この者の採寸を」と後方に向かって声を掛けた。
すると、どこからともなく何人かの侍女さんたちが現れ、あまりの展開についていけない僕をソファ横に無理やり立たせて、採寸を始める。
「ちょっ、ちょっと、アルフ様!」
ワタワタしている僕を楽しそうに眺めながら、アルフ様は新しく入れ直されたお茶を手にすると、僕に向かってこう言われた。
「必ず大祭まで仕上げさせるから、安心して全部私に任せろ」
いや、そういう問題じゃないんですけど
上に立つ者、特有の強引さに完全に巻き込まれながらも、よくよく考えると厄介な問題が片付いたことに気がついた僕は、それ以降は大人しく採寸に協力することにした。
それにしてもアルフ様って何者?という疑問だけ……残したまま。
199
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜
みやの
BL
ーー……俺は、本能に殺されたかった。
自分で選び、番になった恋人を事故で亡くしたオメガ・要。
残されたのは、抜け殻みたいな体と、二度と戻らない日々への悔いだけだった。
この世界には、生涯に一度だけ「本当の番」がいる――
そう信じられていても、要はもう「運命」なんて言葉を信じることができない。
亡くした番の記憶と、本能が求める現在のあいだで引き裂かれながら、
それでも生きてしまうΩの物語。
痛くて、残酷なラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる