「運命の番」だと胸を張って言えるまで

黎明まりあ

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第4章 王宮生活<大祭準備編>

61、忘れていた服装問題<後>

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 でも……暖かい

 こんなふうに優しく抱きしめられたのは、久しぶりだ。
 透明度の高い海のような、アルフ様のアクアマリンの瞳に、僕は思わず見入ってしまう。

 そんな感想を持ってしまうほど、僕も寂しかったのだろうか?

 そんな自分の気持ちに気付いた途端とたん、僕は狼狽うろたえ、さらに目を見開いてしまう。

「ふっ……そんなに目を見開いてると、瞳がこぼれ落ちるぞ」

 アルフ様はそう小さくつぶやくと、僕の後頭部に手の平を軽く当て、ご自分の胸元に僕の顔を引き寄せた。

 ええっ!なんで?

 頭の中が大混乱した僕が身じろぎすると、ふとアルフ様の香りが僕の鼻腔びこうに飛び込んでくる。

 チガウ!
 コノニオイハ、チガウ!

 瞬時にこの言葉が、僕の脳裏に浮かび上がった。
 僕は身体からだに力を入れ、あわてて身を離そうとしたが、それよりはるかに上回る力によって、僕の動きは阻止される。

「もうしばらくこのままで……」

 ため息のようなアルフ様の声が僕の耳元で聞こえたが、僕は指一本動かせない。

 もしかして、威圧いあつ

 アルフ様もかなり力を持ったアルファだ……できないはずはない。

 だが、どうして?

 疑問がグルグルと頭の中で渦巻うずまいているうちに、そっと顔をアルフ様の胸元から離された。
 また僕の瞳をのぞき込むようにして、アルフ様は僕と目を合わせる。

「服とは、もしや大祭たいさいの服か?」

 服?

 急な話題転換に僕はしばらく思考が追いつかず固まっていたが、アルフ様がこちらに来られた時の話題をようやく思い出す。
 急いで返事をしようとしたが……声が出せない。
 アルフ様はまだ完全に威圧をかれていないので、僕は代わりに首をかすかにたてに動かした。

「私が用意しよう。
 2度も救ってくれた礼だ。
 それに個人で用意しようとすれば、今から手配しても間に合わないだろう」

 そういうと、アルフ様はようやく僕の身体からだを離してくれて、威圧もいてくれる。
 いきなり大量に入りこんできた空気に僕は胸が苦しくなって、両手を胸に当て何回か意識して呼吸する。

 うん?
 アルフ様が大祭の服を用意してくれる?

 ようやく頭がハッキリしてきて、思考が回り出し、さすがにそれは甘えすぎだ……と思った僕は、アルフ様の申し出を断ろうとしたが、それより早くアルフ様は軽く2度ほど手を叩くと「この者の採寸を」と後方に向かって声を掛けた。
 すると、どこからともなく何人かの侍女さんたちが現れ、あまりの展開についていけない僕をソファ横に無理やり立たせて、採寸を始める。

「ちょっ、ちょっと、アルフ様!」

 ワタワタしている僕を楽しそうにながめながら、アルフ様は新しく入れ直されたお茶を手にすると、僕に向かってこう言われた。

「必ず大祭まで仕上げさせるから、安心して全部私にまかせろ」

 いや、そういう問題じゃないんですけど

 上に立つ者、特有の強引さに完全に巻き込まれながらも、よくよく考えると厄介な問題が片付いたことに気がついた僕は、それ以降は大人しく採寸に協力することにした。

 それにしてもアルフ様って何者?という疑問だけ……残したまま。
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