「運命の番」だと胸を張って言えるまで

黎明まりあ

文字の大きさ
71 / 141
第5章 王宮生活<大祭編>

70、責任の所在<前>

 ほどなくローサは僕らに気付いたようで、特に僕を見つめながら侍女らに衣装の乱れをととのえさせ、僕らの方へ彼女たちを引き連れてゆっくりと歩いて来る。
 ローサが一歩ずつこちらへ近づいてくるたびに、僕は右頬にかすかな痛みを感じ、勝手に身体が震え、逆に僕は後ろへ一歩ずつ下がってしまった。
 僕の足が3歩目を後ろに出した時、背中にそっと手を回され、その動きを止められる。
 ハッ!と僕は我に返り、横にいた、その手の持ち主を見上げた。

 ロイ!

 そうだ、今の僕にはロイや神官たちがいる
 与えられた役割である、供物くもつの準備も彼らと共にきちんと終わらせた
 だから、少しだけ自信を持っていいかもしれない

 すぐに僕が落ち着いたことを感じ取ったのか、ロイの手は最後に僕の背中をポンポンと軽く2回たたいて、そっと離れた。
 その直後、ローサから声をかけられる。

「レンヤード様、ご機嫌よう。
 それにしても、随分すいぶんと早くこちらに来られたんですね」

 僕は、先ほど下がってしまった2歩分、前に出てローサに答える。

「やぁ、ご機嫌よう、ローサ。
 君も早いんだね」

 そう言って、僕はローサの全身を見るとはなしに見た。
 今日もローサの衣装は、見事であった。
 大聖堂へ来る途中とちゅうに見かけた時は真っ赤なドレス姿だったが、今は大祭たいさいそなえて、王族の色であるこん色のドレスに着替えている。

 国教会がり行う厳格な宗教的儀式への参加なので、ドレスのデザインに派手さは一切ないが、所々に小さな紺色の造花ぞうかが飾られており、ドレス全体には、今回も無色透明のキラキラと輝く宝石が散りばめられていて、大聖堂の中にいても、ローサは光をまとっているように見えた。 
 僕の正面に立つと、ローサはドレスのすそをササッと侍女に直させ、例の黒い骨組みに金細工がほどこされたおうぎを受け取ると、それを畳んだままあごに当て、僕へこう質問する。

「レンヤード様、なぜ地方のものたちが、上位貴族である王都周辺の諸侯しょこうたちを差し置いて、先に着席しているのです?
 入場は上位貴族が優先でしょう?
 決まり事は、きちんと守ってもらわないと困りますわ」

 ローサは、困り事を起こした幼子おさなごを見るような目で、僕を見ていた。

「それは……この天候だろう?
 すぐに雨が降り出しそうだったし、大聖堂前で待っている人々が、雨に打たれて体調を崩すのを避ける予防策として、先に中に入ってもらったんだ。
 王都周辺の諸侯たちが、いつ来るのか僕には予想つかなかったしね。

 あっ、ちゃんと許可は取ったよ。
 神官長様は儀式への準備中だったから、その代理をされている副神官長にね」

 僕の答えを聞いたローサは、僕の横にいるロイへギロリと視線を向け、ここで愛用の扇をバサッと開き口元に当て、小さくつぶやいた。

「そう……副神官長、あなたまで……」

 僕はずっとローサの顔を見続けていたからこそ気がついたが、ローサが口元を扇で隠したのは、口が不満げにゆがんでしまったからであろう。
 そんなローサに対してロイは特に何も反応せず、挨拶をした。

「お久しぶりです、ローサ様」
「そうね、久しぶりね」

 ローサもそれ以上は何も言わず、ロイに挨拶を返しているうちに、王都周辺の諸侯たちも所定の場所へ着席したようで、全員の関心と視線が僕たちに向けられたのを、僕は肌で感じた。
 どうやらローサもその気配けはいを感じ取ったようで、表情を笑顔に変え、僕に話しかける。

「私も忙しくて、思うようにレンヤード様に供物管理の引き継ぎができなかったのが、心残りでしたの。
 なので、せめてものおびで、今日は早めに来てみました。
 万が一、何か不手際ふてぎわがあったら、教えてあげようと思って……儀式開始前の今なら、間に合うでしょう?」

「わざわざ気づかいをありがとう、ローサ。
 でも……ここにいるロイや教会の神官たちが心良く手伝ってくれたおかげで、何とか間に合ったよ」

 僕も、ローサとの間に何事もなかったかのように、微笑ほほえみ返しながら答えた。

 実際は、色々あったけどね

 だけど今更いまさらその事を蒸し返しても、時は取り戻せないし、ローサに上手く丸め込まれてしまうのが目に見えたので、僕は黙っておくことにした。

 でも、ローサがこんなに早く来るなんて……何か変だ

 そう僕のかんが告げる。

「確かに、見事にやりげられましたわね」

 そう言って、大聖堂内をグルリと見渡したローサだったが、ふと何かに気づいたかのように、ある場所で目をめた。
感想 24

あなたにおすすめの小説

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です

柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。 そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。 真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。 けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。 「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」 彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。 アンリは実は、亡き国王の婚外子。 皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 様々な形での応援ありがとうございます!

【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

大好きな婚約者を僕から自由にしてあげようと思った

こたま
BL
オメガの岡山智晴(ちはる)には婚約者がいる。祖父が友人同士であるアルファの香川大輝(だいき)だ。格好良くて優しい大輝には祖父同士が勝手に決めた相手より、自らで選んだ人と幸せになって欲しい。自分との婚約から解放して自由にしてあげようと思ったのだが…。ハッピーエンドオメガバースBLです。最後におじいさまの番外編を追加しました。