「運命の番」だと胸を張って言えるまで

黎明まりあ

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第5章 王宮生活<大祭編>

71、責任の所在<中>

 ローサはその場所を熱心に見つめたまま、より一層いっそうニッコリと笑って、手でし示した。

「あら?
 レンヤード様、祭壇さいだん近くにある1番上の段、あの一角いっかくだけ、どうして何も置いてないのです?」

 僕もその方角を見て確認すると、ああっとうなずき、ローサに答える。

「あの場所は、儀式終了後、諸侯しょこうらに神官長様が手渡す穀物こくもつの苗を置いてた場所なんだ。
 1年の豊穣を願い、昨夜が最後の祈祷きとうだったんだけど、どうも苗の積み方が例年と多少違っていたようで、積み直す必要があって、一旦いったん下げたんだよ。
 もう少ししたら儀式も始まるし、そろそろ持ってくるんじゃないかな?」

 その時、ドクンと一度心臓の鼓動が跳ね、僕は咄嗟とっさに片手で、ギュッと胸のあたりを服ごと握り締めた。

 なんだ?
 とてつもなくイヤな予感がする

 横にいるロイの顔を見ると、ロイもまゆを寄せ、きびしい顔をしていた。
 その時、祭壇のそでで、神官らのあわてた声が上がった。

「誰だ!
 大切な供物くもつにこんなことをしたのは!!」

 ハッと息をんで、僕とロイは、声がした祭壇のそでへと走って駆けつける。
 たして、そこには……床に落とされ、散々、踏みにじられて、ボロボロになったなえの残骸が散らばっていた。

「ひどい……」

 さわぎを聞きつけ、たくさんの神官たちが集まっていたが、その場にいる全員がそうつぶやいたまま、言葉を失って、誰も動けない。
 そんな失意あふれる緊張感の中、突如とつじょ、柔らかな高い声の持ち主がその場を支配した。

「レンヤード様、どうなさったの?
 まぁ、なんて事!」

 ローサだ……どうやら、侍女たちを引き連れて、僕たちの後を追いかけてきたようだった。

「あなた達、何をしているの!
 早く片付けなさい!!」

 ローサは、自分の侍女たちにそう指示を出し、踏みにじられ、ペシャンコにつぶれた穀物の苗を回収させる。

 ウソだろう?
 昨夜までは何ともなかったのに……

 信じられなくて、僕は自失したままだったが、そんな僕の片方の肩を強くつかむ者がいた。

「レンヤード様……レンヤード様!
 しっかりしてください!!
「ローサ……」

 まだ立ち直れない僕は、ぼんやりとしたまま、その名を呼ぶ。

「供物には必ず予備があるはずですよね?
 それを早く持ってきてください!」

 ローサの強めの口調に、ようやく僕は意識がハッキリとしてきて、思考が回り出す。
 だが…… 。

「予備はもちろん用意したが……まさか……全てが使えなくなるなんて予想はしなかったので……全然足りない!」

 僕は、ひざをついて、思わず頭をかかえてしまった。
 そんな僕を見下ろす形となったローサは、問いかけという名のさげすみを僕に向ける。

「なんですって?!
 初めて供物管理を担当する時は、必ず倍の数を用意するというのが慣習ですよ?
 レンヤード様、まさか知らなかったんですか?」
「しっ……知らないよ……そんなこと……」

 一度も聞いたこともない慣習に、僕は頭の中が真っ白になった。
 そんな僕をさすがにあわれと思ったのか、僕とローサのやり取りをじっと聞いていたロイが、ローサへ問いかける。

「失礼ながら、ローサ様。
 そのような慣習、教会側にも伝わっておりませんが?」

 ロイからの質問にローサは、さも当然かのように、深くうなずきながら答えた。

「教会の方は知らなくて当然ですわ。
 これは初めて供物担当になった者だけに伝えられる、王族だけの慣習ですので……」
「なぜです?」

 ローサの回答に、怪訝けげんそうな表情を隠そうとはせずに、ロイは率直に質問する。

「初めて担当するにあたり、どのような試練を経験するのかが分かりませんので……そうですわね……あっ、先ほどレンヤード様が言われた、いわば予防さくですわ」

 ローサはロイにそう言うと、ニッコリと笑った。

 ということは……これは試練なのか?
 随分ずいぶんと悪質すぎるんだけど?

 あまりにも凄惨せいさんなやり方に、僕はもはや苛立いらだちを隠せない。

「ごめん、そんな慣習があるなんて知らなかったし、ローサから引き継いだ書面のどこにも、そう言った事は書かれてなかったよ」

 そう、むしろ、全然足りなかったぐらいだ!

 言外げんがいにローサを非難した形となってしまったが、引き継いでない事は事実だったので、それを僕は主張した。

「あら?そうでしたっけ?
 ああっ、そうでしたわ!
 この慣習は書面で伝えるのではなく、口頭で伝えることとなっておりますの。
 確か、私もレンヤード様も忙しくしており、すれ違いばかりでして……残念ながら伝える機会がなかったのでしたわ……ごめんなさいね」

 ローサは口元に扇をあてながら、悪びれもなくそう言い切った。
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