77 / 141
第5章 王宮生活<大祭編>
76、加護持ちの奇跡<前>
セリム様は何も言わず、しばらくの間、僕を見つめていた。
その後ローサの侍女が持っていた供物台にセリム様の視線が移されると、眉間に皺が少しだけ寄せられる。
「セリム様……これはですね」
僕の横にいたローサが説明しようと口を開いたが、セリム様は1つ首を振って、ローサを止めた。
「よい、状況の理解はできた。
控えよ」
ローサはさすがに神官長であるセリム様には逆らえないようで、少し悔しそうな表情を浮かべた後、侍女たちを引き連れて、祭壇にほど近い王族席へ座る。
「その傷つけられた供物の苗を、祭壇の中央へ置きなさい」
「かしこまりました」
セリム様の指示に、ローサの侍女たちから供物台を受け取った神官たちが素早く動いた。
真っ白な儀式用の神官服を着用されたセリム様は青みがかった髪と、大聖堂という場所のせいでもあるだろうか、より研ぎ澄まされた透明感が全面に出ており……なんだか人ならざる者のようで、格別な神秘さが滲み出ている。
この場の真の主が現れたせいで、あれだけ騒がしかった諸侯らも口を挟めず……堂内は静寂に包まれた。
セリム様は祭壇真下にある祈りの場に、音も立てず静かに移動すると、僕を呼ぶ。
「レンヤード、こちらへ」
せっかく呼ばれたにも関わらず、諸侯らに跪いて頭を下げ続けた僕の心は粉々に砕けてしまい……セリム様の要請に応じる気力と体力は既にない。
「もう歩けません」
仕方なく僕は自分の状態を、小さな声でセリム様へ伝えた。
するとセリム様は「ロイ」とひと言呼ぶと、ロイが半ば抱きかかえるようにして、僕をセリム様の元へ運んでくれる。
「あの供物の苗を、もう一度祈ろう」
もはや1人で立つことが出来ず、俯いて座り込んだままの僕を見下ろしながら、セリム様がそう提案される。
「できません」
実際、祈る形を取るのも難しいほど疲労困憊の僕は、もうセリム様にも見限られてもいいと思って、そう答えた。
そんな僕の対応にセリム様は無言で、ただ僕を見下ろし続ける。
この空間に響き渡るのは、ザァーザァーという大雨と、時折ビュービューと吹き荒れる暴風、そして先ほどからずっとゴロゴロと地響きのような音を立て続ける雷鳴だけだ。
人の声は、全く聞こえない。
項垂れ、下を見続けているのも辛くなってきた僕は、今度は逆に天井近くにあり、雨風が叩きつける天窓を見つめながら、やはりこの想いに耽ってしまう。
もう、このまま故郷に帰ってしまおうか?
シルヴィス様はいくら待っても帰ってこないし、一方的に発生した妬みから、この国を支える身分ある者らの前で、土下座を要請される
加護持ちということで、大事にされていたけど、この大祭当日の大荒れな天候を見る限り、それも幻だったかもしれない
今日は大祭で人の出入りも多いし、この悪天候の中、王宮をひっそりと去るなら誰にも気づかれないだろう……何なら雨に打たれ続けて、動けなくなってしまうかも?
ぼんやりとそんな事を考えながら、僕は天窓を見つめて涙を流し続けた。
そんな僕の目の前にいるセリム様は、やがてゆっくりと腰をかがめ、座り込んでいる僕と目線を合わせて、こう語りかけられた。
「レンヤード、これで最後にして良い。
もう一度だけ、アルフの教会で祈っていたように一緒に祈ろう」
「最後?アルフ様?」
セリム様からの提案に、僕はまだぼうっとしながら聞き返す。
「そうだ、あの丘の上の教会でアルフはソファで休んでいただけだったが、私たちは奥の間で祈りを捧げていた。
それをこの場でやるだけだ。
祈りに入りやすいように、私が先導しよう。
大丈夫だ、私がいる。
何も憂うことはない」
セリム様はそう言うと、僕の頭をポンと優しくひと撫でした。
その後ローサの侍女が持っていた供物台にセリム様の視線が移されると、眉間に皺が少しだけ寄せられる。
「セリム様……これはですね」
僕の横にいたローサが説明しようと口を開いたが、セリム様は1つ首を振って、ローサを止めた。
「よい、状況の理解はできた。
控えよ」
ローサはさすがに神官長であるセリム様には逆らえないようで、少し悔しそうな表情を浮かべた後、侍女たちを引き連れて、祭壇にほど近い王族席へ座る。
「その傷つけられた供物の苗を、祭壇の中央へ置きなさい」
「かしこまりました」
セリム様の指示に、ローサの侍女たちから供物台を受け取った神官たちが素早く動いた。
真っ白な儀式用の神官服を着用されたセリム様は青みがかった髪と、大聖堂という場所のせいでもあるだろうか、より研ぎ澄まされた透明感が全面に出ており……なんだか人ならざる者のようで、格別な神秘さが滲み出ている。
この場の真の主が現れたせいで、あれだけ騒がしかった諸侯らも口を挟めず……堂内は静寂に包まれた。
セリム様は祭壇真下にある祈りの場に、音も立てず静かに移動すると、僕を呼ぶ。
「レンヤード、こちらへ」
せっかく呼ばれたにも関わらず、諸侯らに跪いて頭を下げ続けた僕の心は粉々に砕けてしまい……セリム様の要請に応じる気力と体力は既にない。
「もう歩けません」
仕方なく僕は自分の状態を、小さな声でセリム様へ伝えた。
するとセリム様は「ロイ」とひと言呼ぶと、ロイが半ば抱きかかえるようにして、僕をセリム様の元へ運んでくれる。
「あの供物の苗を、もう一度祈ろう」
もはや1人で立つことが出来ず、俯いて座り込んだままの僕を見下ろしながら、セリム様がそう提案される。
「できません」
実際、祈る形を取るのも難しいほど疲労困憊の僕は、もうセリム様にも見限られてもいいと思って、そう答えた。
そんな僕の対応にセリム様は無言で、ただ僕を見下ろし続ける。
この空間に響き渡るのは、ザァーザァーという大雨と、時折ビュービューと吹き荒れる暴風、そして先ほどからずっとゴロゴロと地響きのような音を立て続ける雷鳴だけだ。
人の声は、全く聞こえない。
項垂れ、下を見続けているのも辛くなってきた僕は、今度は逆に天井近くにあり、雨風が叩きつける天窓を見つめながら、やはりこの想いに耽ってしまう。
もう、このまま故郷に帰ってしまおうか?
シルヴィス様はいくら待っても帰ってこないし、一方的に発生した妬みから、この国を支える身分ある者らの前で、土下座を要請される
加護持ちということで、大事にされていたけど、この大祭当日の大荒れな天候を見る限り、それも幻だったかもしれない
今日は大祭で人の出入りも多いし、この悪天候の中、王宮をひっそりと去るなら誰にも気づかれないだろう……何なら雨に打たれ続けて、動けなくなってしまうかも?
ぼんやりとそんな事を考えながら、僕は天窓を見つめて涙を流し続けた。
そんな僕の目の前にいるセリム様は、やがてゆっくりと腰をかがめ、座り込んでいる僕と目線を合わせて、こう語りかけられた。
「レンヤード、これで最後にして良い。
もう一度だけ、アルフの教会で祈っていたように一緒に祈ろう」
「最後?アルフ様?」
セリム様からの提案に、僕はまだぼうっとしながら聞き返す。
「そうだ、あの丘の上の教会でアルフはソファで休んでいただけだったが、私たちは奥の間で祈りを捧げていた。
それをこの場でやるだけだ。
祈りに入りやすいように、私が先導しよう。
大丈夫だ、私がいる。
何も憂うことはない」
セリム様はそう言うと、僕の頭をポンと優しくひと撫でした。
あなたにおすすめの小説
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です
柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。
そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。
真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。
けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。
「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」
彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。
アンリは実は、亡き国王の婚外子。
皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
様々な形での応援ありがとうございます!
【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
大好きな婚約者を僕から自由にしてあげようと思った
こたま
BL
オメガの岡山智晴(ちはる)には婚約者がいる。祖父が友人同士であるアルファの香川大輝(だいき)だ。格好良くて優しい大輝には祖父同士が勝手に決めた相手より、自らで選んだ人と幸せになって欲しい。自分との婚約から解放して自由にしてあげようと思ったのだが…。ハッピーエンドオメガバースBLです。最後におじいさまの番外編を追加しました。