「運命の番」だと胸を張って言えるまで

黎明まりあ

文字の大きさ
91 / 141
第6章 王宮生活<帰還編>

90、貞淑(ていしゅく)の証明<前>

 まるで、嵐のようだった。
 シルヴィス様の舌が僕の唇に侵入しんにゅうを開始すると、縦横じゅうおう無尽むじんいつくばる。

「うっ……うゎ……」

 僕はすでおぼれそうになりながらも、両手を伸ばし、必死にシルヴィス様の肩にしがみついた。
 シルヴィス様は肩にしがみついた僕の右手をご自身の左手でがすと、たがちがいに指をからめて握り直し、そっとシーツにい付ける。

「シ……シル……ヴィ……スさ……ま」
「レン、もっと大きく口を開くんだ」

 僕の舌を執拗しつように追いかけ、め回し、くわえ、やっと放されたと思ったら、今度は上顎うわあごを舐められた後、上下の歯茎はぐきにゆっくりとシルヴィス様の舌が這う。
 静かな室内には、ニュチュ、チュパッという水音みずおとだけがひびきわたった。

 僕はそろそろ、意識が遠退とおのきかけてくる。
 シルヴィス様の肩をつかんでいた片手にも力が入らなくなり、ストンと寝台の上にすべり落ちた。

 甘い……そして体内にみ渡る充足じゅうそく
 液にそんな効能こうのうがあるなんて……やっぱりつがいだから?

 そんな答えがみちびき出されると、僕の身体からだしんに火がともり始め……僕も夢中になって、シルヴィス様の舌を追いかける。
 この僕の変化にシルヴィス様はニヤリと笑うと、ジュルルッと僕の唾液を吸い上げた。
 唇が熱を持つほど、すすり合い、口内を舐め回し、舐め回され……僕の呼吸が続かなくなったところで、互いの唇にピーンと銀色の糸がついたまま、一度口を離される。

「夢にまでみた……この味だ」

 シルヴィス様は一言だけそうつぶやくと、唾液の糸がついたままの唇を、ゆっくりと僕の首筋に移動させた。

 ビクンッ

 つがっていても、首があらゆる場面においても急所きゅうしょであることには変わらず……しかも今はヒートの最中さいちゅう吐息といきを吹きかけられただけでも反応してしまう。
 首をすくめた僕の反応にシルヴィス様はクスリと笑うと、大きく口を開け、舌を殊更ことさらき出すと、ネロリと僕の首筋を舐め上げた。

「うっ……うぅん」

 僕は思わず目をつぶってしまったが、湿しめった軟体なんたい生物は、時々チクリと皮膚を吸い上げながら、僕の首筋を下へ下へとい降りていく。

 気持ちいい……

 その感触にウットリとひたっていると、鎖骨さこつを過ぎたあたりで、ふとシルヴィス様が顔を上げた。

「この部分、少しあとが残っている……もしや誰かと?」

 思ってもいなかったことを冷たい声で聞かれ、僕はあわてて否定する。

「ちっ……違います!
 こっ……この傷は先ほど、アルフ様の前で……ヒートに飲み込まれないように……するために……自分でつめを立てまして……」

 分かってもらおうと僕は必死で説明したが、逆にシルヴィス様のまとう空気はさらに冷え込んだ。

「レン……つがった時、オレは教えなかったか?
 この場ベッドで、他の名を言うのはマナー違反だ、と」
「あっ……あぁ……」

 僕は青ざめ、唇をふるわせる。

 シルヴィス様は、そんな僕を射抜いぬくように見つめたまま、ゆっくりと上体じょうたいをおこすと、僕の上にまたがったまま、みずからの黒衣こくいをゆっくりとぎ捨てた。
 ゆらりとあらわになった、相変わらず引き締まったシルヴィス様の上体を見て、僕は息をんだ……まだ血がにじむ、複数のえてない傷が目に飛び込んできたからだ。

 どう声をかけていいのか分からず……ただただ、シルヴィス様を見上げていると、まだ僕の身体からだりょう側面そくめんまとわりついていた衣装を、シルヴィス様は左右に広げながら持つ。
 僕の衣装を握った手にシルヴィス様がクッと力を入れると、衣装は呆気あっけなくバラバラとさらに細かくやぶれた。
 その衝撃しょうげき的な光景に、僕は首をすくめ、身体を丸める。
 シルヴィス様は僕が身体を丸めたことを利用して、僕の背に残っていた衣装もろとも、ザザッと寝台の下へはらい落とした。

 文字通り全裸ぜんらとなった僕だが、ヒート中のため体内に熱がこもり、寒さは感じない。
 ただ、わずかばかりの理性が働き、思わず両腕で身体を抱きしめた。
 そんな僕の態度を見たシルヴィス様は、片方のまゆを上げ、僕にこう問いかける。

「隠すってことは……レン、オレに後ろめたいことがあるのか?」
「ちっ、違います」

 僕はあわてて、首を横に振って否定をするが、シルヴィス様のまとっている空気があまりにも鋭敏えいびんすぎて恐怖を覚え、なかなか身体からだに巻きつけた両腕を外すことができない。

「抱かれたのか?
 兄上に?それともセリムか?」
「だっ……誰ともそんなことしていません!」

 とんでもない誤解に、僕は目に涙がまってきた。

「だったら、その両腕を退かして、オレに全てを見せるんだ」

 そう言ってシルヴィス様は、僕を静かに見下ろす。
 火花が散りそうな緊張感の中、僕はシルヴィス様に言われた通り、ゆっくりと両腕を身体からだ側面そくめんに戻した。
 シルヴィス様は音も立てず、僕の肩の上に右手をつくと、左手で僕のあごを軽くつかんで、目線を合わせてくる。

 つか、僕らは見つめ合う……僕は潔白けっぱくを証明するため、シルヴィス様は僕の言葉に嘘がないか検分けんぶんするために。

 やがて、シルヴィス様は片ほおゆがめると、少しだけ視線を下に落とし、目を見開いた。

「悪いが、レン、確かめてさせてくれ」

 そして、僕の左胸に顔を寄せた。
感想 24

あなたにおすすめの小説

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

私の弟なのに

あんど もあ
ファンタジー
パン屋の娘マリーゼの恋人は、自警団のリートさん。だけど、リートには超ブラコンの姉ミラがいる。ミラの妨害はエスカレートしてきて……。

狂わせたのは君なのに

一寸光陰
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。 完結保証 番外編あり

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。

【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです

唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。 すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。 「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて―― 一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。 今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました

小池 月
BL
 大学一年の半田壱兎<はんだ いちと>は男性オメガ。壱兎は生涯ひとりを貫くことを決めた『アルファ拒食症』のバース性診断をうけている。  壱兎は過去に、オメガであるために男子の輪に入れず、女子からは異端として避けられ、孤独を経験している。  加えてベータ男子からの性的からかいを受けて不登校も経験した。そんな経緯から徹底してオメガ性を抑えベータとして生きる『アルファ拒食症』の道を選んだ。  大学に入り壱兎は初めてアルファと出会う。  そのアルファ男性が、壱兎とは違う学部の相川弘夢<あいかわ ひろむ>だった。壱兎と弘夢はすぐに仲良くなるが、弘夢のアルファフェロモンの影響で壱兎に発情期が来てしまう。そこから壱兎のオメガ性との向き合い、弘夢との関係への向き合いが始まるーー。 ☆BLです。全年齢対応作品です☆