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第7章 喪失との対峙(たいじ)
123、旅路と同乗者<後>
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「頭を上げてよ、リリー。
そういう事情なら仕方ないというか……もういいんだ。
これまでのことは、全て王宮に置いてきたつもりだ。
だから、もうこの話はここで終わりにしよう」
僕がそう言うと、リリーはゆっくりと頭を上げ頷いてくれたが、少しの沈黙の後、躊躇いがちに質問される。
「あの……失礼ながら、今後レンヤード様は、ご自身の領地にて過ごされるおつもりですか?」
当然過ぎる質問だが、僕は笑って答えた。
「ゴメン、無事に王宮を脱出することばかり考えていて、実は何も考えていないんだ。
故郷で会いたい人がいるからその人たちの無事を確認して……どこか故郷の片隅にでも働く所があれば良いけれど……なければ、う~ん、どうしようかな?」
僕の答えを目を丸くしながら聞いていたリリーだったが、穏やかな声でこう言ってくれる。
「レンヤード様ほどの神力があるならば、セリム様に相談されて教会関係で働かれるのもいいかもしれませんが……良かったらウチのキリルレイルの森にいらっしゃいませんか?
いずれ我が領主になられるなら、実際に滞在されてみて、どういう場所なのか色々見学されたり、森の中に住んで生計を立てている者もいるので、その者たちと実際に交流するのはいかがでしょうか?
王妃様からは領主の館ごとレンヤード様にお譲りする予定と伺っておりますし、もし今回滞在されるなら、その館を自由に使って構わないとの了承も得ています」
リリーからの思わぬ申し出を聞き、僕は素直に喜んだ。
「えぇ!
それは本当に助かる!
故郷から離れて何年も経つので色々変わっているだろうし、しかも離縁して何かと噂されるから、実は少し居づらいかも……と思っていたんだ。
僕、何でもやるから、ぜひキリルレイルの森に居させてほしい」
先の見通しが立てられるようになって、僕はリリーへ、ようやく心から笑ってみせた。
それからも、故郷への旅路は順調に進んでいく。
旅慣れていない僕がどうやって順調に進んでいるかというと、ひとえにアルフ様とセリム様のお陰だった。
日が暮れる頃になると、御者はその場所から1番近い教会へ立ち寄る。
そこでは、その日の夕食と寝床、湯浴みや着替え等が提供された。
翌日に目が覚めると、すでに朝食が用意されており、食べ終わると、セリム様からの伝言……ほとんどがシルヴィス様からの追っ手はないから安心せよというものだったが、それが伝えられ、僕も自身の無事を伝言し、出発する。
出発にあたり、その日の昼食となる携帯食と水が持たされ、その上、僕たちが乗車するのは、新しい馬車と御者だ。
そのお陰で旅路の速度を落とすことなく、日が暮れるまで行ける所まで移動できるという、至れり尽くせりの快適な旅路を送っていた。
初日にお世話になった領地の教会長からは、僕への対応は王命に則り、神官長であるセリム様から直々に依頼と援助を受けていて、しかも僕の故郷までにある全ての教会で同様の準備がなされているので安心してほしい、との説明を受けた。
王様への暗殺未遂の容疑者のまま王宮から出てきた僕は、この身に余る対応に、むしろ冷や汗をかいてしまい……それからは、ひと晩お世話になるせめてものお礼に、僕は泊まらせてもらった教会で、その領地が神から祝福を受けれるよう、祈りを捧げてから出発することにした。
ようやくこの旅路にも慣れ、馬車の中でリリーとの会話も増えてきた頃、ふとリリーから、しみじみとこう言われる。
「この旅路の手厚さ……王様とセリム様はレンヤード様のことを、本当に大切に思われているんですね」
この言葉を聞いた時、僕はリリーにどうしても伝えたいことがあった。
「セリム様は僕に神力があるので、大切にしてくださっている所があるとは思う。
でも王様に関しては、誤解があるよ。
あの時……僕のお茶を代わりに飲んだ王様は、倒れる前にこう言ったんだ……王妃様を許してほしい、って。
それに今思い返すと、多分王様は、お茶に毒が入っていることを知っていて、飲んだ気がするんだ。
その行動は、毒を飲むのも厭わぬほど、王妃様を庇いたいからであって……王妃様を大切に想っていたからこそ、できたことだと思うよ」
「ほっ、本当ですか!」
僕の言葉を聞いて、しばらく絶句していたリリーだったが、やがて唇をキュッと噛み締める。
僕はリリーを静かに見つめながら、言葉を続けた。
「僕は恐らくもう会う機会はないだろうが、リリーならこれから先、王妃様に連絡を取ったり、会う機会があると思う。
その時、ぜひこの件を伝えて欲しい。
王様は僕ではなく、間違いなく王妃様を愛しておられるよ。
だから頼む」
王様の想いを分かってほしくて、伝える言葉にも、つい熱が入り、最後は僕がリリーに向かって頭を下げると、慌てるリリーから希望通りの返事が届けられる。
「分かりました。
必ず王妃様には伝えますので、どうか頭を上げてください、レンヤード様!」
「約束だからね!」
僕は素早く頭を上げると、声を出して笑いながら、リリーに念を押した。
そういう事情なら仕方ないというか……もういいんだ。
これまでのことは、全て王宮に置いてきたつもりだ。
だから、もうこの話はここで終わりにしよう」
僕がそう言うと、リリーはゆっくりと頭を上げ頷いてくれたが、少しの沈黙の後、躊躇いがちに質問される。
「あの……失礼ながら、今後レンヤード様は、ご自身の領地にて過ごされるおつもりですか?」
当然過ぎる質問だが、僕は笑って答えた。
「ゴメン、無事に王宮を脱出することばかり考えていて、実は何も考えていないんだ。
故郷で会いたい人がいるからその人たちの無事を確認して……どこか故郷の片隅にでも働く所があれば良いけれど……なければ、う~ん、どうしようかな?」
僕の答えを目を丸くしながら聞いていたリリーだったが、穏やかな声でこう言ってくれる。
「レンヤード様ほどの神力があるならば、セリム様に相談されて教会関係で働かれるのもいいかもしれませんが……良かったらウチのキリルレイルの森にいらっしゃいませんか?
いずれ我が領主になられるなら、実際に滞在されてみて、どういう場所なのか色々見学されたり、森の中に住んで生計を立てている者もいるので、その者たちと実際に交流するのはいかがでしょうか?
王妃様からは領主の館ごとレンヤード様にお譲りする予定と伺っておりますし、もし今回滞在されるなら、その館を自由に使って構わないとの了承も得ています」
リリーからの思わぬ申し出を聞き、僕は素直に喜んだ。
「えぇ!
それは本当に助かる!
故郷から離れて何年も経つので色々変わっているだろうし、しかも離縁して何かと噂されるから、実は少し居づらいかも……と思っていたんだ。
僕、何でもやるから、ぜひキリルレイルの森に居させてほしい」
先の見通しが立てられるようになって、僕はリリーへ、ようやく心から笑ってみせた。
それからも、故郷への旅路は順調に進んでいく。
旅慣れていない僕がどうやって順調に進んでいるかというと、ひとえにアルフ様とセリム様のお陰だった。
日が暮れる頃になると、御者はその場所から1番近い教会へ立ち寄る。
そこでは、その日の夕食と寝床、湯浴みや着替え等が提供された。
翌日に目が覚めると、すでに朝食が用意されており、食べ終わると、セリム様からの伝言……ほとんどがシルヴィス様からの追っ手はないから安心せよというものだったが、それが伝えられ、僕も自身の無事を伝言し、出発する。
出発にあたり、その日の昼食となる携帯食と水が持たされ、その上、僕たちが乗車するのは、新しい馬車と御者だ。
そのお陰で旅路の速度を落とすことなく、日が暮れるまで行ける所まで移動できるという、至れり尽くせりの快適な旅路を送っていた。
初日にお世話になった領地の教会長からは、僕への対応は王命に則り、神官長であるセリム様から直々に依頼と援助を受けていて、しかも僕の故郷までにある全ての教会で同様の準備がなされているので安心してほしい、との説明を受けた。
王様への暗殺未遂の容疑者のまま王宮から出てきた僕は、この身に余る対応に、むしろ冷や汗をかいてしまい……それからは、ひと晩お世話になるせめてものお礼に、僕は泊まらせてもらった教会で、その領地が神から祝福を受けれるよう、祈りを捧げてから出発することにした。
ようやくこの旅路にも慣れ、馬車の中でリリーとの会話も増えてきた頃、ふとリリーから、しみじみとこう言われる。
「この旅路の手厚さ……王様とセリム様はレンヤード様のことを、本当に大切に思われているんですね」
この言葉を聞いた時、僕はリリーにどうしても伝えたいことがあった。
「セリム様は僕に神力があるので、大切にしてくださっている所があるとは思う。
でも王様に関しては、誤解があるよ。
あの時……僕のお茶を代わりに飲んだ王様は、倒れる前にこう言ったんだ……王妃様を許してほしい、って。
それに今思い返すと、多分王様は、お茶に毒が入っていることを知っていて、飲んだ気がするんだ。
その行動は、毒を飲むのも厭わぬほど、王妃様を庇いたいからであって……王妃様を大切に想っていたからこそ、できたことだと思うよ」
「ほっ、本当ですか!」
僕の言葉を聞いて、しばらく絶句していたリリーだったが、やがて唇をキュッと噛み締める。
僕はリリーを静かに見つめながら、言葉を続けた。
「僕は恐らくもう会う機会はないだろうが、リリーならこれから先、王妃様に連絡を取ったり、会う機会があると思う。
その時、ぜひこの件を伝えて欲しい。
王様は僕ではなく、間違いなく王妃様を愛しておられるよ。
だから頼む」
王様の想いを分かってほしくて、伝える言葉にも、つい熱が入り、最後は僕がリリーに向かって頭を下げると、慌てるリリーから希望通りの返事が届けられる。
「分かりました。
必ず王妃様には伝えますので、どうか頭を上げてください、レンヤード様!」
「約束だからね!」
僕は素早く頭を上げると、声を出して笑いながら、リリーに念を押した。
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