王道学園のコミュ障ニセチャラ男くん、憧れの会長と同室になったようで

伊月乃鏡

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 ほんのりと不穏だったが、概ね平和に朝の作業は終わり獅童くんとも旧校舎で別れた。
 朝のSHRに遅れないよう、ちょっと駆け足で生徒用玄関に急ぐ。

「っや!」
「うお!?」

 と、何やら走って出て行こうとしていた生徒とぶつかり、相手が倒れた。
 農業を齧っている分、俺は体幹が良いらしく、こういう時に倒れたことがない。慌てて声をかけて手を差し出す。

「ちょ、大丈夫~? どしたのかわい子ちゃん? そんなに急いで」

 我ながらきっっしょいチャラ男発言だが、二年間これで通してきているのでたいへん板についている。顔を赤らめてこちらの手を取る生徒──多分後輩──を一気に立ち上がらせてやれば、胸元に倒れ込んでくるので受け止めてやった。

「ふ、ふかふか……」
「こぉら、セクハラ」

 揉むな。
 ペリっと引き剥がすと少し残念そうな顔をして、生徒がすみません、と謝罪を口にする。

「僕、ちょっと急いでて、その……」
「へぇ~、もう授業始まるのに? 悪い子だ~」
「ひゃう! ごごめんなさい田中様っ!」

 田中様!?!?
 ……と驚くのはこの高校ビギナーである。そう、実は俺にも親衛隊みたいな何かはいる。謙遜するつもりもないので普通に言うが、俺の顔面はわりと整っているのだ。

 そしてこの高校は、役員であればわりと軽率に親衛隊が作られる。
 顔面が整っていれば友達は出来ずともファンができることはある……ってワケ! なんで友達ができないんだ。

「ふーん、おれの親衛隊なんだ? センス良いじゃ~ん?」

 生徒の顎を指先で軽く上げて覗き込むと、瞬く間に顔を真っ赤に染めて瞳を潤ませた。制服の着崩しはしておらず、髪や眉は整っているが化粧はなし。真面目だが端正な顔立ちの、多分チワワ。

 ちなみにチワワとはこの高校において可愛い男の子のこと。逆はゴリラって言います。
 抱かれたいランキングが高ければ高いほどチワワのファンがつくことが多い。
 副会長はビックリするくらいゴリラが多い。

「あ……僕ずっと、田中様のファンで……に選ばれるのをずっと待ってて、それでっ」

 なるほどね。
 俺は童貞です。

 チャラ男としてキャラが確立した頃、俺が一番困ったのがこの噂。田中宗介は誰とでも寝る、誰でも抱く──という。
 旧校舎を守れるのならそれで良いと広がりを放置していたらいつの間にか尾鰭がつき背びれもつき、二度同じ相手とは寝ないだとか超絶テクだとか終わったら追い出されるとか。

 今更俺は童貞ですと主張して回るのもなんか違う気がして、こうして俺に一度でも抱かれたいと迫ってくるチワワをいなすのに苦労している。

「ふーん。そうだったんだ~? 見かけによらずえっちな子だね」
「ひゃっ……そんな」
「でもだぁめ♡」

 ぽん、と肩を叩いて歩みを進める。するりと流し目を送るのがコツだ。

「ど、どうして! 僕、だって、後ろも準備できてて! 毎日貴方に抱かれる妄想をしながら……その、してて」
「えぇ? やめときな~、不毛だよぉ。こんなやつに入れ込んだら君、不幸になっちゃうよ~」

本心である。どうせ応えない相手に夢中になるより、今しかない青春を送った方がいい。俺と違って友達もいるんだから。
でも毎回こういう子にはちゃんと注意してるのに、何故か全然聞かない。なぜ?

「や、やさしい……でも僕、そんな貴方だからっ! だからお願いします、一夜だけでも」

ほらーーーなんで!?!?
優しくないよ応えないって言ってるじゃん。嘘つきコミュ障童貞根暗インキャなんだよこっちは!?!?

「困ったなぁ……あのね、」
「田中宗介」

俺の言葉を遮った声に、さっきまで迫ってきていた生徒が瞠目する。

「!? っあなたは……」

後ろを振り向くと、大柄な体躯にしば犬の様なまろまゆ。優しげな垂れ目に茶髪のわんこ。
書記の犬神さまが、普通に立っていた。
犬神さまが普通に立っていた!?!?

「……なぁに~? もうSHRの時間だよ~?」
「呼びに……来た……」
「別のクラスなのに? ふぅん、ずいぶん警戒されてるみたいじゃ~ん」

どうやら、SHRの時間に姿を現さないので呼びに来たそうだ。光栄だが、昨日あっての今なので素直に喜べない。
犬神さまは俺のことをマークしているらしく、時折絡みにくる。今日の様に直接的な監視は初めてだけれど。

「まっ! 忠誠心が高いのはいいことってやつ? そういうわけで、おれもういくね~。君も不毛なこと、もうやめなよ~」

これ幸いと犬神さまの方に走って近付く。生徒に手を振れば、少し名残惜しそうにしたものの俯いて頷いた。

申し訳ないけれど、噂は事実無根だし……この機に俺なんか切り捨てて幸せになってくれるといいな。
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