王道学園のコミュ障ニセチャラ男くん、憧れの会長と同室になったようで

伊月乃鏡

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激動! 体育祭!

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超王道高校体育祭。無駄に長いので『王道祭』と呼ばれるようになったこの祭りは、超王道高校が誇る三大行事の一つでもある。あと二つは文化祭と修学旅行ね。

王道祭練習はクラス合同で行われ、たまに学年が混ざることもある。
なので。

「センパーイ! センパイとおんなじ授業受けれるんめっちゃ嬉しいです!」

……こんな風に、獅童くんと組むこともあるわけで。
超王道高校の第一グラウンド。少し丘を上がったところに本校舎が見えており、振り返ると青空、目線を下にしていけば街が見える。

ようするに、敷地の端に造られたクソデカグラウンドである。この隣には野球場があり、俺はいまだにこれの違いがわかっていない。

「うん……獅童くんも元気みたいで良かった……」
「またそれ~? 一ヶ月前からずっと言うとるやないですか! もう完治したち言っとるやん!」
「あの事件の一週間後に完治してたもんね。全治一週間て。少年漫画?」

五月の暖かな風が吹き抜ける。ゴワゴワしたウィッグを手持ち無沙汰に撫でてやっていると、遠くの方から市ヶ谷くんと東郷くんが駆け寄ってきていた。最近怪我が治って復帰してきたらしい。

運良く骨が折れておらず、治療期間がかなり短くなったという。ちなみに獅童くんは完全に二、三本いっていた。

「大月、またお前田中先輩のところに来たのか。クラスの人たち引いてるだろ!」
「ッ、シャス! 田中の兄貴!」
「やばい、もっとやばい人連れてきたかも。すみません田中先輩、二人ともキモくて」

口悪。
東郷くんは事件以降敵意が掻き消え、最近は会うと直角の礼を見せるようになった。俺は散歩直前の犬みたいになってる獅童くんを落ち着かせつつ『クラスの人たち』を振り返り。

「獅童さんッ、お疲れシャス!!」
「おいお前ら道開けろ! 田中さんにむらがんな! 殺されっぞ!」
「獅童さん! 先日Fクラスのやつが田中さんのこと腰抜けとか抜かしてました! やりますか!」
「ハン、勝手にしとき」
「シャス!!」

やばいよもうこれ。どうするんだよ。獅童くんもナチュラルに指示してるんじゃないよ。俺だけかこれに順応できてないの。

大柄なゴリラも小柄なチワワも皆一様につむじを見せ、許可が出るまで頭を上げない。最近この光景のせいで俺はこの学校の裏番扱いされている。
集合の時より綺麗な整列を見せるな。先生泣くぞ。

「うわ……おいあれ見ろよ」「ヤバ、田中だ」「目があったら殺されるぞ」「五十人を相手取ってボコボコにしたってマジ?」「下町の不良はみんな配下だって」「極道と繋がりがあるらしいぜ……」

…………体育用具室での事件は尾鰭がつきまくり、背鰭もつき、なんなら腹ビレも胸ビレもついている。
五人倒したが五十人になり、頬の腫れは釘バットでぶん殴られたことになり、気絶が意識不明の重体になり、最終的に俺はこの学校の番長と全面抗争を目論む暴力の申し子になった。

──なんでだよ!!!!!!
おかしいだろ!!!!!!!!! お前らも気づけよ!!!!!!! あれなんかおかしいことなってないって思えーーーッッッ思考力を持て!!!!!!!

「あのねみんな。尊敬してくれるのは嬉しいけど、おれは」
「田中さんがお話しされるぞーッ!! 総員呼吸やめ!!」

グラウンドに苦しいほどの静寂が満ちる。
──いや、だからね!

「その番長扱いをやめろっつってんの!! 二年間上下関係とかなかっただろ!! 当惑するだろうが!! 呼吸を止めるなクラスメイトが話すだけのことで!!」
「…………?」
「不思議そうな顔をするなッッッッなんでかなぁ!?!? 何でこれだけいつも通じないかなぁ!?!?」

怖いだろ、どうするんだよコミュ障を祭り上げて何したいんだお前らは。笑いたいのか? 笑いたいのか俺を! コミュ障が戸惑っているサマを!

あー出た出た俺お得意の被害妄想! 急に不測の事態に巻き込まれると固まっちゃうんだよコミュ障なんだからコミュ障じゃなくても戸惑うだろこれは!!

「くそ! もう! ほら集合、先生呼んでるでしょ! 頭上げて! 走れ!」
『ウス!!!!!!!!!』
「あーーこんな時だけ声揃えるもーー」
「あ、センパイ。移動ならセンパイはこっちおっててください」

獅童くんがぱんぱん、と二度手を叩く。

──ところで、あの体育用具室の事件、その主犯はどうしていると思う?

駆けつけた犬神さまによる拘束ののち教師たちの尋問、俺の証拠もあり警察に引き渡されることとなり退学がほとんど決まっていた。
が、被害者である獅童くんがそれに待ったをかけたのだ。

一時間。一時間だけそれぞれと話をさせてほしい。それで反省してくれたら、お咎めなし──と。
その優しさに理事長は打ち震えた。なんて優しい、天使のような子だと。俺も驚いた。

後輩に手を出したことに関して怒ってはいるが、獅童くん本人が許すと言っているなら俺の出る幕ではない。そう判断し、俺にも何故か処置の許可をとりにきた教師に頷いたのだが。

「オラ、センパイの移動や。さっさとせんか犬」
「わんわん!! わん!!」
「キャウーーン」

そして一時間経ったのがこちらです。
どこからともなく現れ、目の前で四つん這いになっている六人の男子生徒。俺から一メートルの距離を保ちつつ規律正しく目の前で待っている。
獅童くん曰く、誰が座ってもらえるかと競い合っているらしい。

「……さっセンパイ! はよ座ったってください! コイツら、センパイの役に立つんが人生の楽しみや言うて聞かんのですよー!」
「……」
「時間までにつかんやったら思う存分仕置きしてもろて構わんですからね!」

本当に、一時間だけだったのだ。
怪我人の獅童くんと二人きりで、一時間。心配だったので、隣室で俺も控えていた。反省しているふりをした生徒は静かで、終始淡々と事が進んでいっていて。

扉を開けた時も普通だった。静かに泣いていて、心から反省しているらしく。
本当に普通の、どこにでもある美談のようだったのだ。

──俺が現れた瞬間、四つん這いになり、犬のように鳴き始めるまでは。

「センパイ?」

静かな俺に、獅童くんが眉を下げて首を傾げる。心配しているのだろう。なるほど獅童くんは本当に優しい──ってなるわけないだろ

「怖いよ!!!!!!!」
「???」
「不思議そうな顔をするな!!」

怖いよ!!!!!!!!!
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