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激動! 体育祭!
9
──カフェラテと無味サンドイッチを胃に収めた頃には、もう最終バスが出る三十分前くらいの時間帯になっていた。すっかり日も暮れていて、暖かな電灯が室内を照らしている。
バタバタと準備して部屋を出ると、ひまりさんがにこやかに迎えてくれた。
何人か喫茶店のほうに人がいる。
「あ、あれが言ってたお客さん? やほやほ~」
「ちょーイケメーン! 眼福なんだけど~」
「おっ、こうちゃんに友達かい! いいね~!」
あの制服は……電車を使うのにアクセスが王道高校よりいいと噂の、名門である私立白百合女学院の制服だろうか。
……なんで男女で分けてんだろと思ったけど、初代学長同士がめっちゃ仲悪かったらしい。
なまじ人数も多いので合同されず女子校と男子校のマンモス校が集まっている謎の状況になっている。
と、謎のおじさんである。ワンカップを手にしている小太りの中年男性だ。
「どうも……」
「どうもだって~! かーわーいー!」
「え、意外とウブ!? 犬神せんぱ~いまた連れてきてくださいよー!」
「ダメ。花音たちのいない時にする……」
「けちー!!」
すごい。元気である。童貞なので同世代は緊張する。犬神さまがサッと後ろに隠してくれて息をついた。最大級にリラックスしてるせいで、チャラ男になりきれない。
てかなったらめっちゃ引かれそう。女子高生からの本気の拒絶はちょっと、無理、しんじゃう。
「あ、ひまりさん。お代……」
「あらあら、いいのよ~! 試作品を出しただけだし、学生さんからお金を取るなんてできないわ」
「そっ、それは流石に」
相場がわからないのでひとまず財布から三千円取り出し、レジのお金を置くところに入れようとする。が、うわすごいなんだこの身のこなし。素早く避けられてしまう。
一進一退の攻防を繰り広げているところで、バスの時間が差し迫っている。
「くっ……! 猫ちゃんのおやつ代にしてもらって……!!」
「だめよ~。お金には困ってないし……」
どうやってお金に困ってないんだろうこの人は。
「そうねぇ、どうしてもっていうなら、お休みの日にここでお料理を作ってくれると嬉しいわ~。この間、ラテアートが見たいっていう人がたくさん来てね? こうちゃん、大変そうだったのよ」
「ワンオペ、無理。二度としない」
「と、トラウマになってる……!? そのくらいで良いなら……」
確かに、あのラテアートなら流行りもする。
おおかたSNSでバズりでもしたのだろう。というか俺も好奇心で見に行く気がする。
そしてその時の軽食を全て犬神さまが担当した、と。
死じゃん……
キッチンからホールまで一人って。
思わず頷くと、ひまりさんはその名前に見合った華やかな笑顔で三千円を突き返し財布に入れてきた。力強ぉ!
時間も迫っていたので喫茶店を出る。もうすっかり夜の帳が下りていた。
「この辺り、夜でも明るいな……」
「店が多い」
「うん……」
神社を超えた先だからか、ショッピングモールのあたりよりノスタルジックなようす。裏路地に見えたのはバーだろうか。ちょうどこの時間から開店するようだった。
「こうちゃん」
「!」
「へへ。かわいーあだ名」
肩を並べて歩く帰り道。車の行き交う音が時折聞こえてきて、同じように帰り道なのだろう女子高生の話す声が街の中へ和やかに響いていた。
「今日、水瀬と喧嘩してさ。様子変だったんだけど、なんか怖くて、殴って啖呵きって来ちゃった」
まるで愛玩動物でもみるような顔だった。
友達って対等だったはずなのに、なんか。
「でも実際、あいつの言ってた通りうまくいかんくて、どうしよって思ってたんだけど」
「……」
「こうちゃん、たぶん、気にして無いっしょ」
「最初から言ってる」
「へへ」
楽しませようとして、うまくいかなくて頭がパンクしそうだった。けれど今日、カフェの中で静かで、互いに何もしてないのに楽しかったから。
多分彼にとっての友達とは、そういうことなのだろう。
帰りに雑貨屋に寄って水瀬へのお土産を買う。まだ腹立つは腹立つのでハリガネムシの模型を買った。多分これ針金一本あればできるやつだな。
そのままバスに乗って、また無言の時間に浸って、降りる。一緒に帰るのは何か噂になりそうだということで、一旦別れる。
「じゃっ、犬神さま。また──」
「呼び方」
犬神さまが少しだけ声を張った。
珍しくて目を瞬かせると、もっと珍しいものが月明かりに照らされる。
「こうちゃんで良い」
ぱっと、月下美人が花開く瞬間のように笑う。
華やかな笑みに爽やかな香りを嗅いだ気がして少し見惚れて、俺も笑った。
「またあそぼーね! こうちゃん!」
「ああ、また」
ブンブンと手を振ると、軽く振り返す。
なんだか既視感を感じた気がするけれど、まぁ気のせいでいいだろう。
バタバタと準備して部屋を出ると、ひまりさんがにこやかに迎えてくれた。
何人か喫茶店のほうに人がいる。
「あ、あれが言ってたお客さん? やほやほ~」
「ちょーイケメーン! 眼福なんだけど~」
「おっ、こうちゃんに友達かい! いいね~!」
あの制服は……電車を使うのにアクセスが王道高校よりいいと噂の、名門である私立白百合女学院の制服だろうか。
……なんで男女で分けてんだろと思ったけど、初代学長同士がめっちゃ仲悪かったらしい。
なまじ人数も多いので合同されず女子校と男子校のマンモス校が集まっている謎の状況になっている。
と、謎のおじさんである。ワンカップを手にしている小太りの中年男性だ。
「どうも……」
「どうもだって~! かーわーいー!」
「え、意外とウブ!? 犬神せんぱ~いまた連れてきてくださいよー!」
「ダメ。花音たちのいない時にする……」
「けちー!!」
すごい。元気である。童貞なので同世代は緊張する。犬神さまがサッと後ろに隠してくれて息をついた。最大級にリラックスしてるせいで、チャラ男になりきれない。
てかなったらめっちゃ引かれそう。女子高生からの本気の拒絶はちょっと、無理、しんじゃう。
「あ、ひまりさん。お代……」
「あらあら、いいのよ~! 試作品を出しただけだし、学生さんからお金を取るなんてできないわ」
「そっ、それは流石に」
相場がわからないのでひとまず財布から三千円取り出し、レジのお金を置くところに入れようとする。が、うわすごいなんだこの身のこなし。素早く避けられてしまう。
一進一退の攻防を繰り広げているところで、バスの時間が差し迫っている。
「くっ……! 猫ちゃんのおやつ代にしてもらって……!!」
「だめよ~。お金には困ってないし……」
どうやってお金に困ってないんだろうこの人は。
「そうねぇ、どうしてもっていうなら、お休みの日にここでお料理を作ってくれると嬉しいわ~。この間、ラテアートが見たいっていう人がたくさん来てね? こうちゃん、大変そうだったのよ」
「ワンオペ、無理。二度としない」
「と、トラウマになってる……!? そのくらいで良いなら……」
確かに、あのラテアートなら流行りもする。
おおかたSNSでバズりでもしたのだろう。というか俺も好奇心で見に行く気がする。
そしてその時の軽食を全て犬神さまが担当した、と。
死じゃん……
キッチンからホールまで一人って。
思わず頷くと、ひまりさんはその名前に見合った華やかな笑顔で三千円を突き返し財布に入れてきた。力強ぉ!
時間も迫っていたので喫茶店を出る。もうすっかり夜の帳が下りていた。
「この辺り、夜でも明るいな……」
「店が多い」
「うん……」
神社を超えた先だからか、ショッピングモールのあたりよりノスタルジックなようす。裏路地に見えたのはバーだろうか。ちょうどこの時間から開店するようだった。
「こうちゃん」
「!」
「へへ。かわいーあだ名」
肩を並べて歩く帰り道。車の行き交う音が時折聞こえてきて、同じように帰り道なのだろう女子高生の話す声が街の中へ和やかに響いていた。
「今日、水瀬と喧嘩してさ。様子変だったんだけど、なんか怖くて、殴って啖呵きって来ちゃった」
まるで愛玩動物でもみるような顔だった。
友達って対等だったはずなのに、なんか。
「でも実際、あいつの言ってた通りうまくいかんくて、どうしよって思ってたんだけど」
「……」
「こうちゃん、たぶん、気にして無いっしょ」
「最初から言ってる」
「へへ」
楽しませようとして、うまくいかなくて頭がパンクしそうだった。けれど今日、カフェの中で静かで、互いに何もしてないのに楽しかったから。
多分彼にとっての友達とは、そういうことなのだろう。
帰りに雑貨屋に寄って水瀬へのお土産を買う。まだ腹立つは腹立つのでハリガネムシの模型を買った。多分これ針金一本あればできるやつだな。
そのままバスに乗って、また無言の時間に浸って、降りる。一緒に帰るのは何か噂になりそうだということで、一旦別れる。
「じゃっ、犬神さま。また──」
「呼び方」
犬神さまが少しだけ声を張った。
珍しくて目を瞬かせると、もっと珍しいものが月明かりに照らされる。
「こうちゃんで良い」
ぱっと、月下美人が花開く瞬間のように笑う。
華やかな笑みに爽やかな香りを嗅いだ気がして少し見惚れて、俺も笑った。
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「ああ、また」
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なんだか既視感を感じた気がするけれど、まぁ気のせいでいいだろう。
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