王道学園のコミュ障ニセチャラ男くん、憧れの会長と同室になったようで

伊月乃鏡

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激動! 体育祭!

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……とカッコよく勝負を仕掛けてやってもいいのだが、俺たちにはあともう一つ問題が残っている。ようするに──

「え、会長出ないの?」
「イブキさま、堂々としててかっこいいかも……」
「……実際、イブキさまの方がいいのかもね。今まで問題もなかったし」「シッ! 聞かれるぞ!」
「筋を通すって、なんかすごいよな」

こういうことである。圧倒的に生徒を支配する生徒会より、見捨てられた人たちを束ねて居場所を提供するイブキは裏で人気が高い。

今までは謀反と思われるのを恐れて口に出来なかったが、この勝負がバランスを壊したのだ。

人は口にすることで曖昧な感情を確信に変える。口を噤んでいた前には戻れないだろう。

このままどうにか勝てたとして、イブキの処遇がどうなろうと表立って推す人間が出る。
それで第二のイブキ第三のイブキも出る、と──人間ってほんと愚かだな。

「さて。ちょ~っと放送借りるよ」
『え? ちょっと田中さま!」

島田くんからマイクを奪う。ちょっともたついたがどうにか奪い返される前に奪えた。ちょっとしまんないな。

「何のつもりや? 早う勝負を始めんか」
『焦る男はモテないぜ? 一つ聞きたいことがあってさ』
「?」

不思議そうな顔をするイブキにピ、と指を立てる。あっ中指じゃないよ、普通に人差し指。水瀬は見えないのをいいことに生徒会テントから中指立ててるけど。やめろ。

『前回の勝負、なんでアーチェリーを選んだよ? 体育祭の必須種目じゃないだろ、アーチェリー』
「……おんし、知らんのか?」
「なにがだよ。ほれマイク」

素知らぬ顔をしながら、周囲を見渡す。なんでそんな質問するんだとざわつく中に、確かになんでだと困惑する顔が見えた。

マイクを渡されたイブキは特になんの疑問も抱かず、電源を自分でつけて声を載せる。

『水瀬ひろし──界隈には名の通った元天才や。
だがあいつはもう、的に当てることができん……絶対に』
「なんだと?」
『ほんに知らんのか。こじゃんとちゃちな友情やねや!』

かかか、と明るい笑い声が場に乗った。誰もがイブキの声に耳を傾ける。どうしても力が、この男の快活さにはある。
なればこそ。

『あいつはな、イップスながや。矢の老朽化で手を怪我して以降、射る手が震えるがぜよ!』

観衆がざわついた。イップス、という言葉程度今どきみんな知っている。特に運動部なんかは顕著だろう。水瀬が所属している部活の部員が目を見開いているのが、よく見えた。
パッと近付き、イブキのマイクを持つ手を引き寄せる。




勝つために手段は選ばん、と付け加えられる。なるほど同意、確かに俺も相手が明確な弱点を晒したらそこに食いつくだろう。
だが。

「──サイテーじゃん」

誰かが、声を上げた。
それに釣られてざわめきが嫌悪に染まる。

「水瀬さま凄い顔色悪かったし、しんどかったんだろうな」「わざとああしたってこと?」「最悪……」
「普通やっちゃいけないことってあるくね?」「ちゃんと正面からやれよ」「卑怯じゃん」

一瞬で下がった好感度を流石に察したのか、イブキが観覧席を慌てて見回す。

「堂々としてると思ってたのに」「ダサくない?」
「正面からやって勝てないってことでしょ」
「でもこれ知らなかった田中さまにも問題が──」「いや同じ部の俺らも知らんかったし、聞かなかっただけだろ」

おー、同じ部活の人ナイス。
イブキは確かにカリスマがあり、強く、思わず従ってしまいたくなる快活さがある。しかしだからこそ致命的に、自分がどう見られているのか、を知らないのだ。

『なんした、ワレ!!』
「何したも何もないさ」

ぱっと離れてマイクに声を拾われないようにする。ついでにマイクは没収。力が入っていなかったのか簡単に抜けた。

「ぜーんぶお前がやった結果。俺が一つでも何か強制したか? まさか! 自分で勝手に余計なこと、ペラペラと喋ったんだろ?」

これが水瀬の作戦であった。
イブキの株を徹底的に落とす。そのために、水瀬ひろしという男がこの高校で培った好感度を利用するのだ。
確かに勝ちに執念を燃やす姿は魅力的だが、好きな相手が貶められて、怒らない男はいないだろ?

「これが狙いか……!」
「どうだろうな」

マイクを向ける。
さぁ、発言には気をつけろよ。

「九鬼イブキ。最後の種目は?」
『……ッチ』

最後は真っ直ぐぶつかる力比べ。別に強制したわけではないけどね。

全部、イブキが決めたことだ。
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