王道学園のコミュ障ニセチャラ男くん、憧れの会長と同室になったようで

伊月乃鏡

文字の大きさ
111 / 201
密着! 夏休み旅行!

35

しおりを挟む
ひとまずある程度の打ち合わせを終わらせて、今日の日程である街歩きに入った。基本的に周囲とはバラバラにならなくてはいけない──密着して親睦を深める行事のため──ので、ルールに従ってみんなとは別れる。

一番ビビっていたイブキ副会長コンビには、迷惑をかけるからと打ち合わせに遅れて参加したユキちゃんがガイドとして付いている。

「ユキ殿、可憐だ……」
「まぁーユキちゃんは可愛らしいよね」

じんわりと染み入っている真道に呆れつつ同意を返す。ユキちゃんは確かに可愛らしい。まぁ童貞の夢に童貞が食いついているというのもあるが。

神社を降りると、和やかな港が見える。遠くの方では釣り人が糸を垂らしており、ここからしばらく行くと泳げるビーチがある。
地元の子供はここではなく、もっと奥の灯台周辺から飛び降りて度胸試しなんて言うのだけれど。

「泳いでみる~?」
「三日目の昼に予定があるだろう。今日はいい」
「ふーん。まぁいいならいーけど」

ここは別に俺たちだけの貸切というわけではなく、観光客はやはりほどほどにいた。楽しそうにカップルが波打ち際ではしゃいでいるし、日焼けをしたいのか寝転んでいる人間もいる。海の家は今日も盛況だ。

そんな様子を手錠に繋がれ、コンクリートでできた歩道から少し眺める。直射日光がじりじりと肌を焦がし、露出している部分が熱をもつ。

真道のシミひとつない真っ白な夏服が太陽に反射していて、その輝かしさが面白かった。

「はは! あっちいねー。涼めるところにでも行こ~」
「む、しかし観光は……」
「砂月屋と神社でじゅーぶん! 山と海しかねーとこだから!」

観光名所なんてほとんどない。古びた灯台が登れて珍しいくらいだが、老朽化によって今はもう封鎖されている。とことん何もないのである。

けれど、ぐっと伸びをすると潮風をはらみバタバタと制服がはためいた。穏やかな海の音と遊ぶ声、潮の香り。車の音、豆腐売りの放送。
遠くから聞こえる、町に一つしかない小学校のチャイムは今日も聞き取りづらい。

「のどかでいーとこでしょ。コレがあるんだから、都会になんて染まんなくていーのにね」
「……お前は家が好きなんだな」
「あは、まぁねー」

実家が嫌いなわけがない。地元に帰った時はいつもほっとした心地でいるし、風鈴の音を聞きながら冷房のない自室で風にあたり昼に起きて漫画を読む生活を素晴らしいと思っている。
呆れながら冷やした麦茶を渡してくれる母の愛も含めて。

「羨ましい。俺は家が嫌いだ」
「……それ、ふくかいちょーとかじゃなくておれに言うのであってる~?」
「ふむ。師匠は政界に関わらないからな……瑛一や刑部には逆に気を使う」
「そんなもんかね~」

予期しないところで武藤様の名前が出てどきりとする。この旅行中忘れようと勤めていたあの綺麗な目が脳裏に浮かんで頭を振った。忘れなければいけない。俺なんかが想いを寄せていい相手ではないのだ。帰ったら同居解消を持ち出せばいい、できれば自然に。

「ところで、今はどこに?」

ずんずんと進んでいった俺に繋がれて真道が困惑したように声をかける。
足が勝手に歩を進めていたらしい。こう言う時なかなかに地元というものは便利だ。

「そりゃ、休憩できるところ──サッと体を隠すな不快だなー。普通にカフェだよ。喫茶店」
「ふ、ふむ。喫茶店とは……りんご飴専門店か?」
「そんなん都会に行けばいくらでも見れるだろ。その場にしかないもので楽しむのが旅行上級者なんだよ」

言いながら浜辺を離れ住宅街に入る。ここの道々は気まぐれなので時折見たこともない路地裏が出現するが、これらは基本的に探そうとしても見つからない駄菓子屋や貝殻売りに繋がっている。お面もここから買い付けるのだ。

そんな路地裏をさっさと抜け、本来の曲がり角をいくつか曲がる。

「もともと空き地だったんだけどね~。立地がそこまで良くない代わりに安くてうまい喫茶店ってわけ~」

和モダンな外観の喫茶店が、路地裏を抜けた先へ唐突に現れる。知らない制服を着た男たちが中にいるのが見えた。他校の観光客だろうか。

カラコロ、とドアベルを押して入る。

「なぁーいいじゃねぇーか店員さん! 連絡先だけ、なっ!」
「困りますっつってんだろボケが……」

見覚えのありすぎる金髪とどすの利いた声。俺はそっとカウンターに座った。

「マスター、ホットミルクとかある?」
「師匠、あれ姉上殿では」
「めあわせちゃダメだよ食われるから」

見えてない見えてない。猛獣に喧嘩を売るチワワなんて一つも見ていない。そんな不幸な存在。俺はいつでもメニュー表にしか目がいっていない。良い材質だ。

「おいクソ弟何平然としてんだ? あん? テメーから海の藻屑にしてやっても良いんだぞ」

クッッソこの暴君が!!!!!!!!!
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

ひみつのモデルくん

おにぎり
BL
有名モデルであることを隠して、平凡に目立たず学校生活を送りたい男の子のお話。 高校一年生、この春からお金持ち高校、白玖龍学園に奨学生として入学することになった雨貝 翠。そんな彼にはある秘密があった。彼の正体は、今をときめく有名モデルの『シェル』。なんとか秘密がバレないように、黒髪ウィッグとカラコン、マスクで奮闘するが、学園にはくせもの揃いで⁉︎ 主人公総受け、総愛され予定です。 思いつきで始めた物語なので展開も一切決まっておりません。感想でお好きなキャラを書いてくれたらそことの絡みが増えるかも…?作者は執筆初心者です。 後から編集することがあるかと思います。ご承知おきください。

ビッチです!誤解しないでください!

モカ
BL
男好きのビッチと噂される主人公 西宮晃 「ほら、あいつだろ?あの例のやつ」 「あれな、頼めば誰とでも寝るってやつだろ?あんな平凡なやつによく勃つよな笑」 「大丈夫か?あんな噂気にするな」 「晃ほど清純な男はいないというのに」 「お前に嫉妬してあんな下らない噂を流すなんてな」 噂じゃなくて事実ですけど!!!?? 俺がくそビッチという噂(真実)に怒るイケメン達、なぜか噂を流して俺を貶めてると勘違いされてる転校生…… 魔性の男で申し訳ない笑 めちゃくちゃスロー更新になりますが、完結させたいと思っているので、気長にお待ちいただけると嬉しいです!

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

30歳まで独身だったので男と結婚することになった

あかべこ
BL
4年前、酒の席で学生時代からの友人のオリヴァーと「30歳まで独身だったら結婚するか?」と持ちかけた冒険者のエドウィン。そして4年後のオリヴァーの誕生日、エドウィンはその約束の履行を求められてしまう。 キラキラしくて頭いいイケメン貴族×ちょっと薄暗い過去持ち平凡冒険者、の予定

処理中です...