王道学園のコミュ障ニセチャラ男くん、憧れの会長と同室になったようで

伊月乃鏡

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密着! 夏休み旅行!

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仕方ない、イブキと会話でもするか。
別に不快でもないし。わりと仲良い方だと思ってる。

「……お前、将来喫茶店の正社員にでもなれば? ひまりさんなら快諾してくれそう」
「正社員……」
「調理スキルとか無くてはならないし、てかお前早くて精密で新メニューの案を詰めるのも怠らないし季節限定メニューは味も見た目も抜群だし、正直めちゃくちゃ有能だと思う」
「な、何じゃあ藪から棒に!」

時々夜遅くに起きてリビングに行くと、寝る前も作業していたはずのイブキが変わらぬ体勢でノートに何かを書きつけていることがある。

イブキは経験こそ少ないが、だからこそ学んだことを吸収しすぐに生かそうとする姿勢がある。
イブキはご飯系も高水準で作れるが、何よりスイーツが美麗だ。毎日ぐんぐん成長している。

基礎的な知識を教えている武藤様も途中から『お前の自由にしろ』と師匠キャラみたいなことを言っていた。

「あれ好きでやってるならお前すごいよ。才能ある。調理系の大学とか行ったほうがいい」
「……そういうの本気にするで」
「いや、しろ! もったいない! 飼い主の責任だ、進学の準備くらい手伝ってやる!」

何を躊躇うことがあるのだろうか。イブキの家庭環境については調べがついているが、ケアの必要な人間がいる様子もなかった。母親の浮気の末生まれたイブキはむしろ、放置児のような形になっていたのではなかったか。

「家がないなら俺の家に来い! 俺はどうせ就職するし、ある程度なら居候させてやる!」
「いや、家の懸念も金の懸念も無い……お人好しじゃのー大将は!」
「別に誰も彼もこう言ってるわけじゃ無い」
「ッ、そりゃどういう──」
「お前は俺のもんなんだろ? 飼い主なら世話くらいする。お前もそうだったろ」

イブキ派の子供達は、生活やら学業やらはイブキの庇護下で握りしめてきたものだ。

ではイブキの庇護者になった俺は、旧校舎を使って学舎を提供したように、きちんと責任を取るべきなのだと思う。

少なくとも俺は俺の都合でイブキの背負っていたものを打ち壊したのだから。それが筋というものだ。

それの何が問題なんだ、とイブキの方を仰ぎ見れば、大きなため息をつかれる。

「……はぁ~~~~……。ま、そがなお人やきな」
「なに」
「いや、男前やなぁ思うただけや」

なんか含みがあるな。眉根を寄せてさらに詰めようとすれば、ペッと片手で制されてしまった。

「まぁ、こじゃんと平和な夢やな。悪かない」

その声音がどうにも満足そうだったので、追及するのはやめておいた。多少は不平不満も言わせてやったっていいだろう。

前の方で獅童くんが駆け出した。電球ソーダをビカビカ光らせてる市ヶ谷くんと、クソデカ綿飴を手に持っている東郷くんが手を振っている。大はしゃぎしてんなぁ。

「師匠! 何を話していたんだ?」
「ん? いやぁ~、進路について?」
「ほう、感心な話題ですね。お二人の割に」
「あん? 今わしまで巻き込んだか?」

遠くの方でを二年生たちがきゃいきゃいとはしゃいでいるのを見て、三年勢は顔を見合わせ、くるりと踵を返す。メッセージで楽しんでくるように送っておく。

「……で、どこ見て回るよ~?」
「腹が減った、ケバブ食べてから回らないか?」

二年生には今しかない夏である。先輩たちに気を使うことなく楽しんでほしい。それが心遣いというものだ。

ケバブを出している屋台に適当に行き、一番安いのを買う。出てきたのはお世辞にも大容量とは言えないが、屋台にしてはなかなか満足度の高い味だった。

「む……」「ん」
「おお、坊ちゃんたちが不満そうな雰囲気をしとるぜよ」
「ハァーッ贅沢。こんなもんだわどこの屋台も」

仮面の下部分をちょっと上げて食べる。若干不便だが、騒ぎ立てるほどでもない。陳腐な味が気に入らなかったのか坊ちゃんたちは微妙そうだったが。

だが一応腹ごしらえは済み、階段を登る……
登る……

「…………こういうことを祭りでいうものではないのは分かりますが」
「ウン」
「なんか面倒くさくないか? 帰りたいんだが」
「わからんこたぁない」

思っていることは皆同じ、ってね。
下の方の屋台をぶらぶらと見て回り、適当に電球ソーダを買い込む。

「コンビニとかで菓子買わんか? 帰ってから食べん?」
「えっ、じゃあ駄菓子の組み合わせで最も満足度高かった人優勝ゲームやらな~い?」
「この絡みの少なさでそれやるのか!? まぁ良いが」
「真道くんでもそういう空気感じ取ることあるんですねぇ」

よーし帰ろ帰ろ。電球ソーダは普通にソーダの味がして、いちご飴はりんご飴より美味しかった。鈴カステラは古き良き味がして食べた端から喉が渇く。かき氷も目を閉じて食べれば同じ味だった。

真道に食べさせてやっていると、上の方に行くらしい獅童くんたちが水風船をぼいんぼいんと競わせながら通りがかる。

「あっ、ええなー!! センパイ方そっち屋台なかですよ!!」
「ああ、もう帰らぁ」
「え、もう帰るんですか? まだ祭りは始まったばかりなのに!」
「市ヶ谷くんは何それ、お面onお面?」

市ヶ谷くんの頭にはいくつかお面がかかっていた。なんかケルベロスとかみたいだ。懐かしいな、俺もここでヒーローの仮面を買ってもらったことがある。

「……いや何だ、気力がなくてな」
「帰りたいが勝ちました」
「階段登るのがしんどなってな」
「軒並みジジイやないすか!!」
「なかなか言うじゃん……」

もにょもにょ言う三年を薙ぎ払った獅童くんが颯爽と背を向けて上に移動する。俺たちはその様子を眺め、帰路についた。
屋台の煙が夜の空を覆っていた。もう少し歩けば綺麗な星空が見えるだろう。

「……最強の駄菓子って何だと思う? 俺はうまい棒なんだが」
「知育系は強くな~い? おれは人間」
「変な遊びをしないでください。随分と仲良くなりましたね……」

そういう副会長もイブキに振り回されたらしく、随分と態度が柔らかくなっている。
ひと夏の旅行は、俺たちにちょっとした絆をもたらしてくれたらしい。
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