王道学園のコミュ障ニセチャラ男くん、憧れの会長と同室になったようで

伊月乃鏡

文字の大きさ
128 / 201
密着! 夏休み旅行!

52

しおりを挟む
仕方ない、イブキと会話でもするか。
別に不快でもないし。わりと仲良い方だと思ってる。

「……お前、将来喫茶店の正社員にでもなれば? ひまりさんなら快諾してくれそう」
「正社員……」
「調理スキルとか無くてはならないし、てかお前早くて精密で新メニューの案を詰めるのも怠らないし季節限定メニューは味も見た目も抜群だし、正直めちゃくちゃ有能だと思う」
「な、何じゃあ藪から棒に!」

時々夜遅くに起きてリビングに行くと、寝る前も作業していたはずのイブキが変わらぬ体勢でノートに何かを書きつけていることがある。

イブキは経験こそ少ないが、だからこそ学んだことを吸収しすぐに生かそうとする姿勢がある。
イブキはご飯系も高水準で作れるが、何よりスイーツが美麗だ。毎日ぐんぐん成長している。

基礎的な知識を教えている武藤様も途中から『お前の自由にしろ』と師匠キャラみたいなことを言っていた。

「あれ好きでやってるならお前すごいよ。才能ある。調理系の大学とか行ったほうがいい」
「……そういうの本気にするで」
「いや、しろ! もったいない! 飼い主の責任だ、進学の準備くらい手伝ってやる!」

何を躊躇うことがあるのだろうか。イブキの家庭環境については調べがついているが、ケアの必要な人間がいる様子もなかった。母親の浮気の末生まれたイブキはむしろ、放置児のような形になっていたのではなかったか。

「家がないなら俺の家に来い! 俺はどうせ就職するし、ある程度なら居候させてやる!」
「いや、家の懸念も金の懸念も無い……お人好しじゃのー大将は!」
「別に誰も彼もこう言ってるわけじゃ無い」
「ッ、そりゃどういう──」
「お前は俺のもんなんだろ? 飼い主なら世話くらいする。お前もそうだったろ」

イブキ派の子供達は、生活やら学業やらはイブキの庇護下で握りしめてきたものだ。

ではイブキの庇護者になった俺は、旧校舎を使って学舎を提供したように、きちんと責任を取るべきなのだと思う。

少なくとも俺は俺の都合でイブキの背負っていたものを打ち壊したのだから。それが筋というものだ。

それの何が問題なんだ、とイブキの方を仰ぎ見れば、大きなため息をつかれる。

「……はぁ~~~~……。ま、そがなお人やきな」
「なに」
「いや、男前やなぁ思うただけや」

なんか含みがあるな。眉根を寄せてさらに詰めようとすれば、ペッと片手で制されてしまった。

「まぁ、こじゃんと平和な夢やな。悪かない」

その声音がどうにも満足そうだったので、追及するのはやめておいた。多少は不平不満も言わせてやったっていいだろう。

前の方で獅童くんが駆け出した。電球ソーダをビカビカ光らせてる市ヶ谷くんと、クソデカ綿飴を手に持っている東郷くんが手を振っている。大はしゃぎしてんなぁ。

「師匠! 何を話していたんだ?」
「ん? いやぁ~、進路について?」
「ほう、感心な話題ですね。お二人の割に」
「あん? 今わしまで巻き込んだか?」

遠くの方でを二年生たちがきゃいきゃいとはしゃいでいるのを見て、三年勢は顔を見合わせ、くるりと踵を返す。メッセージで楽しんでくるように送っておく。

「……で、どこ見て回るよ~?」
「腹が減った、ケバブ食べてから回らないか?」

二年生には今しかない夏である。先輩たちに気を使うことなく楽しんでほしい。それが心遣いというものだ。

ケバブを出している屋台に適当に行き、一番安いのを買う。出てきたのはお世辞にも大容量とは言えないが、屋台にしてはなかなか満足度の高い味だった。

「む……」「ん」
「おお、坊ちゃんたちが不満そうな雰囲気をしとるぜよ」
「ハァーッ贅沢。こんなもんだわどこの屋台も」

仮面の下部分をちょっと上げて食べる。若干不便だが、騒ぎ立てるほどでもない。陳腐な味が気に入らなかったのか坊ちゃんたちは微妙そうだったが。

だが一応腹ごしらえは済み、階段を登る……
登る……

「…………こういうことを祭りでいうものではないのは分かりますが」
「ウン」
「なんか面倒くさくないか? 帰りたいんだが」
「わからんこたぁない」

思っていることは皆同じ、ってね。
下の方の屋台をぶらぶらと見て回り、適当に電球ソーダを買い込む。

「コンビニとかで菓子買わんか? 帰ってから食べん?」
「えっ、じゃあ駄菓子の組み合わせで最も満足度高かった人優勝ゲームやらな~い?」
「この絡みの少なさでそれやるのか!? まぁ良いが」
「真道くんでもそういう空気感じ取ることあるんですねぇ」

よーし帰ろ帰ろ。電球ソーダは普通にソーダの味がして、いちご飴はりんご飴より美味しかった。鈴カステラは古き良き味がして食べた端から喉が渇く。かき氷も目を閉じて食べれば同じ味だった。

真道に食べさせてやっていると、上の方に行くらしい獅童くんたちが水風船をぼいんぼいんと競わせながら通りがかる。

「あっ、ええなー!! センパイ方そっち屋台なかですよ!!」
「ああ、もう帰らぁ」
「え、もう帰るんですか? まだ祭りは始まったばかりなのに!」
「市ヶ谷くんは何それ、お面onお面?」

市ヶ谷くんの頭にはいくつかお面がかかっていた。なんかケルベロスとかみたいだ。懐かしいな、俺もここでヒーローの仮面を買ってもらったことがある。

「……いや何だ、気力がなくてな」
「帰りたいが勝ちました」
「階段登るのがしんどなってな」
「軒並みジジイやないすか!!」
「なかなか言うじゃん……」

もにょもにょ言う三年を薙ぎ払った獅童くんが颯爽と背を向けて上に移動する。俺たちはその様子を眺め、帰路についた。
屋台の煙が夜の空を覆っていた。もう少し歩けば綺麗な星空が見えるだろう。

「……最強の駄菓子って何だと思う? 俺はうまい棒なんだが」
「知育系は強くな~い? おれは人間」
「変な遊びをしないでください。随分と仲良くなりましたね……」

そういう副会長もイブキに振り回されたらしく、随分と態度が柔らかくなっている。
ひと夏の旅行は、俺たちにちょっとした絆をもたらしてくれたらしい。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

ビッチです!誤解しないでください!

モカ
BL
男好きのビッチと噂される主人公 西宮晃 「ほら、あいつだろ?あの例のやつ」 「あれな、頼めば誰とでも寝るってやつだろ?あんな平凡なやつによく勃つよな笑」 「大丈夫か?あんな噂気にするな」 「晃ほど清純な男はいないというのに」 「お前に嫉妬してあんな下らない噂を流すなんてな」 噂じゃなくて事実ですけど!!!?? 俺がくそビッチという噂(真実)に怒るイケメン達、なぜか噂を流して俺を貶めてると勘違いされてる転校生…… 魔性の男で申し訳ない笑 めちゃくちゃスロー更新になりますが、完結させたいと思っているので、気長にお待ちいただけると嬉しいです!

ひみつのモデルくん

おにぎり
BL
有名モデルであることを隠して、平凡に目立たず学校生活を送りたい男の子のお話。 高校一年生、この春からお金持ち高校、白玖龍学園に奨学生として入学することになった雨貝 翠。そんな彼にはある秘密があった。彼の正体は、今をときめく有名モデルの『シェル』。なんとか秘密がバレないように、黒髪ウィッグとカラコン、マスクで奮闘するが、学園にはくせもの揃いで⁉︎ 主人公総受け、総愛され予定です。 思いつきで始めた物語なので展開も一切決まっておりません。感想でお好きなキャラを書いてくれたらそことの絡みが増えるかも…?作者は執筆初心者です。 後から編集することがあるかと思います。ご承知おきください。

30歳まで独身だったので男と結婚することになった

あかべこ
BL
4年前、酒の席で学生時代からの友人のオリヴァーと「30歳まで独身だったら結婚するか?」と持ちかけた冒険者のエドウィン。そして4年後のオリヴァーの誕生日、エドウィンはその約束の履行を求められてしまう。 キラキラしくて頭いいイケメン貴族×ちょっと薄暗い過去持ち平凡冒険者、の予定

悪役令息の兄って需要ありますか?

焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。 その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。 これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...