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監禁! 最後の文化祭
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ひとしきり犬を可愛がった後、名残惜しげな副会長を連れてふれあい犬コーナーを出た。しらたまは現金なことに、また次に来た人間に夢中になっている。そのくらいで良い、幸せに生きてくれよな。
「……田中宗介は」
「ん?」
「飼いたいと思わないんですか。しらたまさんを」
保護したのは貴方なのだから、権利はあるのでしょう──と、何度か聞かれたようなことを言う。皆気になっているのだ、しらたまが高校に残るのか、それとも俺が保護した責任と称して引き取っていくのか。
「おれが飼いたいって気持ちと、飼えるか否かは別じゃない?」
「そうでしょうか」
「あはは~。ふくかいちょ~たちみたいに裕福だったら、あんま考えないかもね~」
どやどやと可愛い子犬を撫でようと殺到している人混みをかき分けてかき分けて、壁を乗り越えると逆に人はまばらになっている。
しらたまは俺も飼いたい。できればそばにいてほしいし、これからの人生あの可愛いのために命を使えたら幸せだろうなと思う。
だが、俺はこれから就職して、慣れない仕事をこなし生きていかなければならない。生活も安定しないしどこに飛ばされるかも分からない状況で、大型犬の子犬を飼おうと思えるほど身の程知らずではなかった。
「飼いたい理由って何? それがかわいいって一時の感情によるものだったら、飼わない方がいいと思うんだよねぇ。特におれたちは高校生……十八のガキが、犬の一生を背負えるわけがない」
それなら理事長に任せた方がいい。理事長はクソ広かつおれの家くらいある犬小屋をいっしゅんで建てて犬を住まわせる相当な犬好きかつ変人だ。わざわざ引き離すメリットがない。
「ま、もちろん責任持って育てられるあてがあるならいいんじゃない~? なにふくかいちょ~、飼いたいの?」
「い、いえ。少し気になっただけです。浅慮な質問を……すみません」
「あは。浅慮を補完するために質問があるんじゃ~ん? 気にしないで、ただのこだわりだからさ」
ウオーーーーーーなんかちょっと気まずい感じになっちゃったぜ! しらたま、恐ろしい子。魔性の魅力で誰もを射止めていく。誰もが目を奪われてく、君は完璧で究極のわんこ……
平気そうな顔を取り繕いつつ、気まずさにダラダラと冷や汗を流す。副会長はおれの言葉にかすっかり何事かを考えこんでしまった。
「え、えーっと、ふくかいちょ、オワッ」
ぶぶぶ、と尻ポケットが震える。大袈裟に体をびくつかせた俺に副会長が瞠目するが、取り出したスマホを見て息をついた。
差出人は水瀬。迎えにいくのが遅れたし、遅いとでも文句をつけられるかなとひらけば。
『わり、もうちょいぶらついといてくれ』
はァ~~!?!?
『ちょ、何だよ人の彼氏だぞ! 早く返せ!』
『正式な彼氏でもないだろ。どうした、そっち何かあったのか?』
惚気に見せかけて戻ろうとしたらすぐにバレた。さすがは水瀬である。俺の思考回路など手のひらの上ということであろうか。それにしてはよく振り回されてくれているなと思うけれど。
『別に何かといった何かはないんだけど、強いて言うなら副会長様相手に説教おぢと化してしまった俺がいるだけで……』
『何でお前って俺がいない時に面白いことすんの? 一言断ってからやれそういうのは』
『一言断れる理性があればこんなことはしていないんだよ』
『そうだな、お前は天然で人の地雷を踏み抜くから面白いんだ……』
どうしてそんなに事実だけを言うんだ。
ポコポコとメッセージの応酬をしていると、怪訝そうな副会長がこちらを見つめていた。こちらの動作を一応見守るところは同じだが、剣呑な雰囲気が濃い。
水瀬は一度決めたことは譲らない。何か俺にはわからない、話しておきたいことでもあるのだろう。
武藤様は取られたくないけれど、水瀬の意思を尊重しないのは違う。
なによりあいつが初めて見せた嫌悪なのだし、折り合いをつけようとする気配は感じていた。
(うーん……)
もともと俺も、副会長とはもっと話したいと思ってたし。なにより余裕なさげに、からかいの一つもなくメッセージを送ってこられた時点で許容するのは決めたことだった。
武藤様も……俺みたいなコミュ障より、水瀬みたいに話の上手い陽キャといた方が楽しいだろうし。愛は負けてないけどな!
「……二人とも、待ってる間にお化け屋敷行っちゃったんだってぇ~。出てくるまでおれたちも適当にぶらついとこ~」
「ッ! え、ええ。構いませんが。今度は私たちが合流できなくなるのでは?」
「ま、時間制限ないとこに入ればいっしょ」
瞠目したのを誤魔化すように銀縁眼鏡を押し上げる副会長に、俺はにっこりと笑いかけた。
「じゃ、行こっか」
学内マップを握り締め、手には触れずエスコートする。こちらを気にしないようにしている生徒の態度に甘えて、離れの方に歩いてゆく。
歩いてゆくごとに人はまばらになっていき、最後には数人しかいなくなっていく。たどり着いたのは離れ校舎の空き教室、園芸委員会の発表ブース。
「──、ここは」
「ウチの発表ブースだよ。副会長にだけは、見てほしいと思って」
胸元から封筒を取り出した。
「ファンレターありがとう。ファン一号くん」
「……田中宗介は」
「ん?」
「飼いたいと思わないんですか。しらたまさんを」
保護したのは貴方なのだから、権利はあるのでしょう──と、何度か聞かれたようなことを言う。皆気になっているのだ、しらたまが高校に残るのか、それとも俺が保護した責任と称して引き取っていくのか。
「おれが飼いたいって気持ちと、飼えるか否かは別じゃない?」
「そうでしょうか」
「あはは~。ふくかいちょ~たちみたいに裕福だったら、あんま考えないかもね~」
どやどやと可愛い子犬を撫でようと殺到している人混みをかき分けてかき分けて、壁を乗り越えると逆に人はまばらになっている。
しらたまは俺も飼いたい。できればそばにいてほしいし、これからの人生あの可愛いのために命を使えたら幸せだろうなと思う。
だが、俺はこれから就職して、慣れない仕事をこなし生きていかなければならない。生活も安定しないしどこに飛ばされるかも分からない状況で、大型犬の子犬を飼おうと思えるほど身の程知らずではなかった。
「飼いたい理由って何? それがかわいいって一時の感情によるものだったら、飼わない方がいいと思うんだよねぇ。特におれたちは高校生……十八のガキが、犬の一生を背負えるわけがない」
それなら理事長に任せた方がいい。理事長はクソ広かつおれの家くらいある犬小屋をいっしゅんで建てて犬を住まわせる相当な犬好きかつ変人だ。わざわざ引き離すメリットがない。
「ま、もちろん責任持って育てられるあてがあるならいいんじゃない~? なにふくかいちょ~、飼いたいの?」
「い、いえ。少し気になっただけです。浅慮な質問を……すみません」
「あは。浅慮を補完するために質問があるんじゃ~ん? 気にしないで、ただのこだわりだからさ」
ウオーーーーーーなんかちょっと気まずい感じになっちゃったぜ! しらたま、恐ろしい子。魔性の魅力で誰もを射止めていく。誰もが目を奪われてく、君は完璧で究極のわんこ……
平気そうな顔を取り繕いつつ、気まずさにダラダラと冷や汗を流す。副会長はおれの言葉にかすっかり何事かを考えこんでしまった。
「え、えーっと、ふくかいちょ、オワッ」
ぶぶぶ、と尻ポケットが震える。大袈裟に体をびくつかせた俺に副会長が瞠目するが、取り出したスマホを見て息をついた。
差出人は水瀬。迎えにいくのが遅れたし、遅いとでも文句をつけられるかなとひらけば。
『わり、もうちょいぶらついといてくれ』
はァ~~!?!?
『ちょ、何だよ人の彼氏だぞ! 早く返せ!』
『正式な彼氏でもないだろ。どうした、そっち何かあったのか?』
惚気に見せかけて戻ろうとしたらすぐにバレた。さすがは水瀬である。俺の思考回路など手のひらの上ということであろうか。それにしてはよく振り回されてくれているなと思うけれど。
『別に何かといった何かはないんだけど、強いて言うなら副会長様相手に説教おぢと化してしまった俺がいるだけで……』
『何でお前って俺がいない時に面白いことすんの? 一言断ってからやれそういうのは』
『一言断れる理性があればこんなことはしていないんだよ』
『そうだな、お前は天然で人の地雷を踏み抜くから面白いんだ……』
どうしてそんなに事実だけを言うんだ。
ポコポコとメッセージの応酬をしていると、怪訝そうな副会長がこちらを見つめていた。こちらの動作を一応見守るところは同じだが、剣呑な雰囲気が濃い。
水瀬は一度決めたことは譲らない。何か俺にはわからない、話しておきたいことでもあるのだろう。
武藤様は取られたくないけれど、水瀬の意思を尊重しないのは違う。
なによりあいつが初めて見せた嫌悪なのだし、折り合いをつけようとする気配は感じていた。
(うーん……)
もともと俺も、副会長とはもっと話したいと思ってたし。なにより余裕なさげに、からかいの一つもなくメッセージを送ってこられた時点で許容するのは決めたことだった。
武藤様も……俺みたいなコミュ障より、水瀬みたいに話の上手い陽キャといた方が楽しいだろうし。愛は負けてないけどな!
「……二人とも、待ってる間にお化け屋敷行っちゃったんだってぇ~。出てくるまでおれたちも適当にぶらついとこ~」
「ッ! え、ええ。構いませんが。今度は私たちが合流できなくなるのでは?」
「ま、時間制限ないとこに入ればいっしょ」
瞠目したのを誤魔化すように銀縁眼鏡を押し上げる副会長に、俺はにっこりと笑いかけた。
「じゃ、行こっか」
学内マップを握り締め、手には触れずエスコートする。こちらを気にしないようにしている生徒の態度に甘えて、離れの方に歩いてゆく。
歩いてゆくごとに人はまばらになっていき、最後には数人しかいなくなっていく。たどり着いたのは離れ校舎の空き教室、園芸委員会の発表ブース。
「──、ここは」
「ウチの発表ブースだよ。副会長にだけは、見てほしいと思って」
胸元から封筒を取り出した。
「ファンレターありがとう。ファン一号くん」
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