悪役令息に転生したので、死亡フラグから逃れます!

伊月乃鏡

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凱旋

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「それぞれの魔神はかつて、その性格に見合った力を持っていたのだ。恐らくな。貴様を連れ回した先の遺跡を巡って得た情報ゆえに、いくつか破損はある」
「そ、そういう研究してたのかよ! 大発見じゃねぇか! 発表したらこんな牢獄すぐ出られるぞ!」
「貴様、こんな牢獄でろくに論文が書けて資料が精査できると思っているのか」
「ゔっ」

アバロンは持ち前の超回復力で生きているだけで、今頃本来は死に絶えた人間だという。寒さで手は常に悴み、死から生を常に行き来しているそうだ。紙の一つもないそこでは思考を整理し得た結論も書き写せやしない。
こいつをそうしたのは紛れもなく俺であるので、目を逸らす。マッドサイエンティストはその心を利用しようというわけでもなく、嫌な音を立てて寝返りを打った。

「故に、この素晴らしい発見を貴様に語ってやるしかないのだ! ……レームクレールとは本来、祝福された響きであった。貴様の魔神もそちらが主となるものであり、意味としては、ふむ……光だとか夢だとか、そういう甘い響きのものだ」
「つーかお前ノアの名前知ってたっけ?」
「散らばったオリハルコンを分析したのだ。完全に分析しきる前に囚われたから、名前のニュアンスだけだが」

この三年間推理に時間を費やしたと語るので、四年間だと教えてやる。迎えに来るのが遅い、と文句を言われた。それは本当にそう。
もこもこに着込んでいる俺とは対照的に、アバロンは薄着だ。最後に見た白衣は凍りついてボロボロで、目も当てられないほどに劣化している。身体ばかりが新しくみずみずしいのはアバロンの行なっていた呪われた実験の成果だろう。

「だが終わりエンドを消したことにより光の夢レームクレールは怒りを受けた。魔神よりもさらに上位なるもの──月の怒りを」
「あぁ、魔力の源だもんな、月。魔神はあれで回復するんだよ」
「…………おそらく吾輩も知らん事実を何故知っているかという点は置いておくが、そういうことだ。それがこの世界をに動かす機構なのか意思があるのかはわからんが、終わりエンドの抹殺を行った魔神六柱はそれぞれ、終わりエンドの代替となる六つの“死”の権能を与えられたのだ」

大昔。神々の跋扈していた神代の頃は、死とはただ一つの終わりという概念だったと語る。もっと簡単でもっと楽な終わりのはずだと。
しかし人は罪を犯した。そのため終わりは複雑化し、ノアはそのうちの一つ、を司る魔神と成り果てたのだという。

心の腐敗、体の腐敗、木々の腐敗。ともかく腐敗とは死の一つであり、人が忌むべきもののうちのひとつ。おそらく人を想う魔神であった六柱と、かつての人間への罰なのだろう。

「フン、凡人どもはそれにも覚えがなく、今や原初の六柱はと語られているがな。そうしてレームクレールやサムラドルを定義づける言葉は太古のものとして廃れ、消えてゆき、名を呼べなくなった。
凡人とはいつも勝手なものよ」
「お前を利用して、監獄にぶち込んだこととか?」
「吾輩が理性を焼き尽くすほど貴様を愛していなければ、貴様はとびきりの悪夢を見ていたところだな」
「光栄だよ」

全く直接的に言ってくれるものだ。肩をすくめた俺を値踏みするようにアバロンが眺め、興味もなさげに目を逸らす。轟轟と凄まじい吹雪の音とそれに混じる断末魔が、ここにはいつまでも響いていた。

「……だが、泥人形の技術を提供したのはアバロン、お前だろ?」
「なんのことだ?」
「しらばっくれるな。あそこまでピンポイントに嫌なことをしてくる上精巧な技術を持つ奴はこの国──大陸中にお前しかいない」

そもそも否定しなかった時点で肯定されたようなものである。やっぱりなという呆れとこいつはどうしてこうも嫌なことをしてくるんだろうという疑問が次々に降って湧くが、正直いつも通りというか、安心した自分もいる。殺されかけておいてそれはないだろうという話だが。

「まぁ、今の部長殿と同じだな。元老院のものどもに技術を寄越せと強請られたのだ。可哀想で健気な吾輩は泣く泣く……」

嘘つけ。半眼になった俺を面白そうに見て、アバロンはまた寝返りを打った。皮が剥がれ神経が引きちぎれる音がするが、男は意にも介さない。……昔は、人並みに痛がる奴だったのだが。

「ふはは! 嘘だ。半分は面白くてな。あの泥人形はいたく吾輩を気に入っており、時折ここに来ていたのだよ。アレはいい。愚かだが力の使い方をよくわかっている」
「ふーん。やけにお前に似てたの、そういうことか……めっちゃ不愉快だったぞ」
「ふむ、それで? アレはどうなった? 貴様がここにいるということは破壊されたということなのだろう」
「そうだな。魔神の魔力に耐えられなかった。俺としての性質を剥奪したら、何も言い残さず溶けて消えたよ」

自分の創造物の最後を知りたがるなんて、変わったなと簡単に思う。いつものアバロンであれば、消えたとわかればそれ以上に興味は湧かないものだ。それとも人型をしていたからか? 少なくとも、成長をしないだけで人間のように、一つの人格のように振る舞っていた。最後まで。

アバロンは静かに天井を見上げた。そこは暗く何も映らない。時折雪と共に降る雷鳴だけが、この土地を照らしていた。
俺の持つカンテラの光は弱く、その赤い眼には、何も写っていないのだろう。

「ふむ──」

数秒。この男にしては長い思考。

「仕方がない。アレの責任程度は取ろう」
「何だ、被造物に情でも沸いたか?」
「そうかもしれんな」
「へ?」

この男らしくなく静かに立ち上がる。敵意は感じられない。公爵の権限で錠に触れれば、ゆっくりと解けるように消えた。

「アレには吾輩しかいなかった。故に救いようもない愚か者であった。貴様のように甘っちょろい、……美しい言葉を使う理想主義者相手であれば、もう少しマシな生き物になっていただろう」

そう、静かに語る男が別人のようで少しばかり動揺し、やめた。人は変わるものだ。
一応魔力封じの手錠をかける。俺の許可なしでは動くことすらできない強力なものだ。頽れたアバロンを抱き留め、その体に上着をかけてやる。

「お前が自己卑下するなんて、珍しい。雨でも降るんじゃないか」
「事実を述べた迄。客観的なものだ」
「そうだな。でも、今のお前は人の親みたいだ」

周りに寒さや吹雪を避ける結界を作る。着込んだ俺には少しばかり寒いが、アバロンの体は冷え切っているだろう。ゆっくりと結界内を温めた。
箒を呼べば、また少しばかり黙っていたアバロンがポツリと呟く。

「貴様が降りてきた時、いつものようにアレが飛んできたものだと、誤認した」
「……そうか」

この世の全ての人間が軽んじる生き物を完全悪と呼ぶのなら、案外完全悪とは難しい。
箒にゆっくりと乗せて飛び上がれば、誰からも忘れられた永久白土エンドランドの囚人たちが、また一人断末魔をあげる。
……いやもしかしたら、忘れてはいないのかもしれない。誰も。

「さて部長殿。吾輩を駆り出したからにはさぞご大層な設備があるのだろうな? 充分な実験環境は? 人身御供などあったら最高だがな!」
「ンなもんあるわけねーだろ!!」
「何だと? 吾輩を誰だと思っている! ああそれとこの牢獄は暇で暇でな、軽く数百通りは仮説を思いついたのだが」

以降はずっとうるさくて仕方がなく。値千金にもなるであろう世界の真理に近づいたり近づかなかったりする仮説を、箒の上でアバロンは延々と喋り倒していた。
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