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二年目の魔法学校
36
ぬいぐるみに手を引かれて入った城の中には、べっこう飴でできたダンスボールが。豪奢な服を着たぬいぐるみたちが踊っている。どうやら俺以外の生徒は皆ぬいぐるみにされてしまっているみたいだ。
(じゃあこれ、やっぱりセリオンか……)
とびきり肌触りと感触のいい白い猫のぬいぐるみ。特に何も手をつけていないと、ぽぽぽんと軽い音を立ててテーブルの上に食事が並べられていく。それもまたお菓子でできているらしい。
いくつもカラーやデザインの違うケーキが乗せられていく。
「食べろってことか」
まぁ、構わないが。ここまで広い領域を作られてしまうと、下手にルールや意図に逆らっても面倒なことになる。
ふよふよと寄ってきたスプーンを受け取ってケーキの生クリームを削って口にすれば、柔らかくて舌触りのいい、高級そうなクリームだ。
弾けるような瑞々しいいちごもまたクリームの甘さを助長していて、文句なしに美味しい。
「おいしい? 王子様」
「おいしい? おいしい?」
「ああ、美味いよ。ユミル、レイ」
てちてちと寄ってくるぬいぐるみの頭をよしよしと撫でれば、無条件に俺のことが好きらしいぬいぐるみがキャイキャイと喜んでいた。
「ただ少し、口の中が甘すぎるかな……炭酸なんかがあるといいんだが」
「いいよ! はいっ!」
「おお。ありがとう」
受け取った炭酸を飲めば確かにすっきりとした。無限にお菓子が食べられてしまいそうだ。
ぬいぐるみたちは流れる音楽に合わせて踊って、お互いをリードしているというより好きに体を動かしているような印象があった。
炭酸の入ったシャンパングラスをテーブルに置けば、パーティに飽きたと思ったのか執事役らしいフィレオフィッシュが俺の周りにわらわらと近付いてきて、眠れる部屋に案内しようとしてくる。
「娯楽施設なんかはないのか? ダーツとか……チェスがしたいな。本も読みたい」
「いいよ! こっちこっち! 王子様は賢いんだね!」
「うーーんありがとうな」
ぬいぐるみ達がもちもちの尻に尻尾をパタパタと揺らしながら走る後ろ姿についてゆく。可愛らしく、毒気を抜かれるような心地になる。
クッキーでできた階段を登ってゆけばゲストルーム? ゲームのできる部屋みたいな場所に案内される。手が汚れることを心配してからチョコレートの扉にクラッカーみたいなドアノブだ。それもぬいぐるみたちが捻って開けてくれた。
「こんにちは! 王子様。ここはゲストルームだよ! たっくさん僕と遊ぼうねっ!」
「……ヴィンセント?」
「わぁっびっくりした! 何でわかったの!?」
頭痛がする。王子に王子と呼ばれる趣味はない。
部屋の中にはチェスやダーツ、その他遊びと呼ばれるものが大量に揃っていた。絵本らしきものもいくつかあり、めくってみればアイシングクッキーでイラストが作られていた。
ゲストルームの案内役らしいヴィンセントは、俺が近づいた遊具についてペラペラと説明してくれた。それを話半分に聞きながら、ダーツの的に向かってサッと投げる。まぁ当たり前に的中した。
もっと小さい的にもっと遠くから投げなければ死ぬ目にあってきたので、今更この程度で戸惑うような可愛げは持ち合わせていない。
「すごいすごい! 王子様って何でもできるんだね!」
「その態度、誰かを思い出すからやめてほしいな……」
「?」
「ふ」
ヴィンセントばかりは、この素直さに違和感がないのだからおかしな話だ。キラキラした目の女の子、俺の永遠の少女。彼女が蘇ったみたいだった。
「なぁ」
「なぁに!」
「アーノルドって呼んで」
笑って覗き込めば、ヴィンセントは何やら分かりやすく照れたような仕草をした。どうやらこの異常空間のぬいぐるみたちはみんな、俺のことが好きなようにできているらしい。
「アーノルド!」
だから、ヴィンセントは照れながらも俺をそう呼んでくれる。年齢まで若返っているのか、ぬいぐるみたちは皆子供の声をしていた。
懐かしい声と懐かしい呼び声に俺は苦笑を漏らす。
「うん。なぁに」
「……? アーノルドが呼ばせたんでしょ?」
「そりゃそうだ」
しゃがみ込んで片手を広げれば、あの頃みたいに小さな体が俺にパタパタと抱きつきにくる。そのふかふかの体を抱きしめれば、柔らかくて甘いお菓子の匂いがした。
瑞々しい花の匂いではない。やっぱりこれは、誰かのエゴが作った夢でしかないのだ。
「なぁ。何かしてほしいことはないか? ティア。何でもしてあげるよ、俺ができることなら、何でも」
ティアは、俺を世界で一番大切なものかのように抱きしめて、鈴を転がすような声でころころと笑った。おかしな態度の俺を笑い飛ばしているようにも、安心させるために笑顔を作っているようにも見える。彼女はいつもそうだった。
「あのね、アーノルド」
ヒソヒソ話をするみたいなティアに耳を近付けたら、あの頃の少女の声。
「まほうをね、見せてほしいの」
「……ん」
俺は指を振ってキャンディを作った。どうやら怪我を治す以外、俺に詳しくは干渉できなかったらしい。魔法はまだ使える──先ほどの応急処置で、自分で作れる分はほとんどないけれど。
ころんと生み出したキャンディを渡せば、ティアは花開くようにパッと喜んだ。
(じゃあこれ、やっぱりセリオンか……)
とびきり肌触りと感触のいい白い猫のぬいぐるみ。特に何も手をつけていないと、ぽぽぽんと軽い音を立ててテーブルの上に食事が並べられていく。それもまたお菓子でできているらしい。
いくつもカラーやデザインの違うケーキが乗せられていく。
「食べろってことか」
まぁ、構わないが。ここまで広い領域を作られてしまうと、下手にルールや意図に逆らっても面倒なことになる。
ふよふよと寄ってきたスプーンを受け取ってケーキの生クリームを削って口にすれば、柔らかくて舌触りのいい、高級そうなクリームだ。
弾けるような瑞々しいいちごもまたクリームの甘さを助長していて、文句なしに美味しい。
「おいしい? 王子様」
「おいしい? おいしい?」
「ああ、美味いよ。ユミル、レイ」
てちてちと寄ってくるぬいぐるみの頭をよしよしと撫でれば、無条件に俺のことが好きらしいぬいぐるみがキャイキャイと喜んでいた。
「ただ少し、口の中が甘すぎるかな……炭酸なんかがあるといいんだが」
「いいよ! はいっ!」
「おお。ありがとう」
受け取った炭酸を飲めば確かにすっきりとした。無限にお菓子が食べられてしまいそうだ。
ぬいぐるみたちは流れる音楽に合わせて踊って、お互いをリードしているというより好きに体を動かしているような印象があった。
炭酸の入ったシャンパングラスをテーブルに置けば、パーティに飽きたと思ったのか執事役らしいフィレオフィッシュが俺の周りにわらわらと近付いてきて、眠れる部屋に案内しようとしてくる。
「娯楽施設なんかはないのか? ダーツとか……チェスがしたいな。本も読みたい」
「いいよ! こっちこっち! 王子様は賢いんだね!」
「うーーんありがとうな」
ぬいぐるみ達がもちもちの尻に尻尾をパタパタと揺らしながら走る後ろ姿についてゆく。可愛らしく、毒気を抜かれるような心地になる。
クッキーでできた階段を登ってゆけばゲストルーム? ゲームのできる部屋みたいな場所に案内される。手が汚れることを心配してからチョコレートの扉にクラッカーみたいなドアノブだ。それもぬいぐるみたちが捻って開けてくれた。
「こんにちは! 王子様。ここはゲストルームだよ! たっくさん僕と遊ぼうねっ!」
「……ヴィンセント?」
「わぁっびっくりした! 何でわかったの!?」
頭痛がする。王子に王子と呼ばれる趣味はない。
部屋の中にはチェスやダーツ、その他遊びと呼ばれるものが大量に揃っていた。絵本らしきものもいくつかあり、めくってみればアイシングクッキーでイラストが作られていた。
ゲストルームの案内役らしいヴィンセントは、俺が近づいた遊具についてペラペラと説明してくれた。それを話半分に聞きながら、ダーツの的に向かってサッと投げる。まぁ当たり前に的中した。
もっと小さい的にもっと遠くから投げなければ死ぬ目にあってきたので、今更この程度で戸惑うような可愛げは持ち合わせていない。
「すごいすごい! 王子様って何でもできるんだね!」
「その態度、誰かを思い出すからやめてほしいな……」
「?」
「ふ」
ヴィンセントばかりは、この素直さに違和感がないのだからおかしな話だ。キラキラした目の女の子、俺の永遠の少女。彼女が蘇ったみたいだった。
「なぁ」
「なぁに!」
「アーノルドって呼んで」
笑って覗き込めば、ヴィンセントは何やら分かりやすく照れたような仕草をした。どうやらこの異常空間のぬいぐるみたちはみんな、俺のことが好きなようにできているらしい。
「アーノルド!」
だから、ヴィンセントは照れながらも俺をそう呼んでくれる。年齢まで若返っているのか、ぬいぐるみたちは皆子供の声をしていた。
懐かしい声と懐かしい呼び声に俺は苦笑を漏らす。
「うん。なぁに」
「……? アーノルドが呼ばせたんでしょ?」
「そりゃそうだ」
しゃがみ込んで片手を広げれば、あの頃みたいに小さな体が俺にパタパタと抱きつきにくる。そのふかふかの体を抱きしめれば、柔らかくて甘いお菓子の匂いがした。
瑞々しい花の匂いではない。やっぱりこれは、誰かのエゴが作った夢でしかないのだ。
「なぁ。何かしてほしいことはないか? ティア。何でもしてあげるよ、俺ができることなら、何でも」
ティアは、俺を世界で一番大切なものかのように抱きしめて、鈴を転がすような声でころころと笑った。おかしな態度の俺を笑い飛ばしているようにも、安心させるために笑顔を作っているようにも見える。彼女はいつもそうだった。
「あのね、アーノルド」
ヒソヒソ話をするみたいなティアに耳を近付けたら、あの頃の少女の声。
「まほうをね、見せてほしいの」
「……ん」
俺は指を振ってキャンディを作った。どうやら怪我を治す以外、俺に詳しくは干渉できなかったらしい。魔法はまだ使える──先ほどの応急処置で、自分で作れる分はほとんどないけれど。
ころんと生み出したキャンディを渡せば、ティアは花開くようにパッと喜んだ。
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