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『君と待つ光』
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ハチミツ熊(仮名)は思ったよりもさっくりと倒せた。まぁ、こんな演習ごときに終末狼(の末裔)をてこずらせる敵が出てくるわけないので、当たり前っちゃ当たり前の話である。
俺をはやにえのように木にひっかけ、喉元を一瞬で食いちぎったポチの姿はまさに野生だった。戦闘モードに入ったレイもあっけに取られており、鼻高々でいいのか主人を木に引っ掛ける奴隷に怒ればいいのか。
現在は熊を引きずり、一時的な拠点になりそうな木陰に場所に腰を下ろしている。
「そのまま食っちゃダメなのか!?」
「当たり前だろ。せっかくの肉でも、血抜きが遅れたら不味くなっちまう」
「あっはは。ポチくんはそのまま食べるけんなぁ」
熊はどうやらオスらしい。メスを殺した時は子供も仕留めなければならない。少なくとも、それが命を殺した責任である。たとえこの無茶苦茶な世界であろうとそれは変わらない。
どんな生き物であろうと、子供を殺すほど悍ましい行為もない。襲ってきたのが雄で助かった。
「想定はされてたんだろうな、支給されていた分にはナイフもある。こうして……胸骨の上の窪みに、思い切り押し当てる。心臓をめぐる太い動脈を切るんだ」
刃は思いの外抵抗もなく吸い込まれていった。刃が届く一番奥まで差し込み、血の通る隙間を開ける。ドバドバと出てくる命を支えていたはずの血を感慨もなく眺めながら血抜きを続ける。
「血の匂いも甘いなぁ。一体どういう理屈で……てか、学級長なんか慣れとらん?」
「こういう作業はよくしてたからな……だが、こうも匂いが強いと困る。ポチ、周囲を警戒していてくれ。ここで腑分けする」
「いや、血抜きしたらすぐ戻るで。拠点周囲なら結界張っとるはずや」
む。
レイは東洋の雪国出身だったか。本場だ。
熊は種族によるが、同族を食う。匂いに釣られてやってこられれば流石に俺たちも困る。
ポチに視線をやれば、了解したように頷いて下の方から潜り込んで持ち上げていた。
「さすがやな……でっかいの狩ったあとポチくんが居れば百人力や。今度貸してくれん?」
「いいけど、高くつくぞ」
「ええよええよ」
機嫌がいいのかケラケラと笑うレイ。もう商人で人を使う立場なのだから、狩りに行くような必要もないだろうに。いや、人を使う立場だからか? 道具も人件費も抑えられるからな……
「別にタダでいいぜ! オレ、大して疲れねーし……頑張ってるやつと同じ値段ってダメじゃね?」
平然とした顔でクマを持ってついてきているポチが、自分の話をされていると察して間ににゅっと入ってくる。すっごいクマと目が合うな。
「ダメだ。いいかポチ? お前が提供しているのはお前の体力じゃなくて、その能力値だ。お前を一人雇うだけで相当お得なんだよ。例えば、一人1000で一匹うさぎを狩れる人間を雇い、3匹うさぎが欲しいならいくらかかる?」
「んえーっと……えーっと、さんぜん?」
「そう。それじゃ、お前は一人で3匹狩れるな? いくらかかる」
「せん!」
「2000得してるだろ。お前が気を遣わなくても、雇用側はそれだけで相当プラスになってるんだ。貰えるものは貰っておけ。自分の安売りはかえって信用を落とすぞ」
ポチには家や服も支給しているが、基本的に俺も出かけていることが多いため、例えば急に体調を崩したり気温に会う服がなかったり、なんてイレギュラーには対応しきれない。当然生活上必要だと分かれば後で建て替えるが、それはそれとしてプライベートで使えるお金なんて多ければ多い方がいいだろう。
「うーん、めーっちゃ分かりやすいなぁ学級長……子供の相手とか得意なん? 意外やわぁ」
「オレ子供!?」
「種族からしたらガキ。あと、俺はわりと子供と遊ぶぞ。遊ばれてるとも言うが」
何かを特段教えるということもないが、意欲がある子どもにねだられたら知識を受け渡すくらいはする。俺が子供の頃は計算が知りたければ商人に、交通が知りたければ門番に、道具の手入れが知りたければ鍛冶屋に自ら取り入ってコネを作らなければならなかった。
そう考えると孤児院の子供達はある程度のことをある程度までやってる先達がいるぶん便利である。便利になんてなんぼでもなっていいので、これからまた教育水準が上がることを祈るぜ。
「でもさー、ご主人はこういうこと言うけど、オレあんま金の使い道わかんねーんだよな! 欲しいのとかねーし、時間空いても外走ってればたのしーし……」
「えっ、ポチくんってお小遣いもらっとるん? へぇ、珍しなぁ! 給料から何割?」
「わりってなんだ? キューリョーってハゲのおっさん達手伝った後もらえる金だろ? 全部もらってるぜ!」
「全部ゥ!?」
レイが目を見開く。
それもそのはず。本来、奴隷は主人の所有物だ。奴隷の労働は主人のものであり、基本的に奴隷が何か他の人間のもとで仕事をした分は主人にそっくり渡されることになる。
人権派の貴族なんかはその中から小遣いを渡すこともあるが、そっくりそのまま渡す人間は奇人変人しかいない。そう、俺のような。
別に悪いことはしていないので隠しているわけでもなかったが、レイのような反応も多いのでそろそろ嘘をつかせようかと迷っている。
「ポチ、いい人達だろあの人らは。口が悪いぞ」
「ゴメンナサイ! でもタダで手伝っちゃダメなんだろ?」
「それはダメ。お前の労働だから」
全くお人好しで自己犠牲的な家族である。困ったものだ。
ため息を吐いている俺を、レイは何故かじっと見つめていた。
俺をはやにえのように木にひっかけ、喉元を一瞬で食いちぎったポチの姿はまさに野生だった。戦闘モードに入ったレイもあっけに取られており、鼻高々でいいのか主人を木に引っ掛ける奴隷に怒ればいいのか。
現在は熊を引きずり、一時的な拠点になりそうな木陰に場所に腰を下ろしている。
「そのまま食っちゃダメなのか!?」
「当たり前だろ。せっかくの肉でも、血抜きが遅れたら不味くなっちまう」
「あっはは。ポチくんはそのまま食べるけんなぁ」
熊はどうやらオスらしい。メスを殺した時は子供も仕留めなければならない。少なくとも、それが命を殺した責任である。たとえこの無茶苦茶な世界であろうとそれは変わらない。
どんな生き物であろうと、子供を殺すほど悍ましい行為もない。襲ってきたのが雄で助かった。
「想定はされてたんだろうな、支給されていた分にはナイフもある。こうして……胸骨の上の窪みに、思い切り押し当てる。心臓をめぐる太い動脈を切るんだ」
刃は思いの外抵抗もなく吸い込まれていった。刃が届く一番奥まで差し込み、血の通る隙間を開ける。ドバドバと出てくる命を支えていたはずの血を感慨もなく眺めながら血抜きを続ける。
「血の匂いも甘いなぁ。一体どういう理屈で……てか、学級長なんか慣れとらん?」
「こういう作業はよくしてたからな……だが、こうも匂いが強いと困る。ポチ、周囲を警戒していてくれ。ここで腑分けする」
「いや、血抜きしたらすぐ戻るで。拠点周囲なら結界張っとるはずや」
む。
レイは東洋の雪国出身だったか。本場だ。
熊は種族によるが、同族を食う。匂いに釣られてやってこられれば流石に俺たちも困る。
ポチに視線をやれば、了解したように頷いて下の方から潜り込んで持ち上げていた。
「さすがやな……でっかいの狩ったあとポチくんが居れば百人力や。今度貸してくれん?」
「いいけど、高くつくぞ」
「ええよええよ」
機嫌がいいのかケラケラと笑うレイ。もう商人で人を使う立場なのだから、狩りに行くような必要もないだろうに。いや、人を使う立場だからか? 道具も人件費も抑えられるからな……
「別にタダでいいぜ! オレ、大して疲れねーし……頑張ってるやつと同じ値段ってダメじゃね?」
平然とした顔でクマを持ってついてきているポチが、自分の話をされていると察して間ににゅっと入ってくる。すっごいクマと目が合うな。
「ダメだ。いいかポチ? お前が提供しているのはお前の体力じゃなくて、その能力値だ。お前を一人雇うだけで相当お得なんだよ。例えば、一人1000で一匹うさぎを狩れる人間を雇い、3匹うさぎが欲しいならいくらかかる?」
「んえーっと……えーっと、さんぜん?」
「そう。それじゃ、お前は一人で3匹狩れるな? いくらかかる」
「せん!」
「2000得してるだろ。お前が気を遣わなくても、雇用側はそれだけで相当プラスになってるんだ。貰えるものは貰っておけ。自分の安売りはかえって信用を落とすぞ」
ポチには家や服も支給しているが、基本的に俺も出かけていることが多いため、例えば急に体調を崩したり気温に会う服がなかったり、なんてイレギュラーには対応しきれない。当然生活上必要だと分かれば後で建て替えるが、それはそれとしてプライベートで使えるお金なんて多ければ多い方がいいだろう。
「うーん、めーっちゃ分かりやすいなぁ学級長……子供の相手とか得意なん? 意外やわぁ」
「オレ子供!?」
「種族からしたらガキ。あと、俺はわりと子供と遊ぶぞ。遊ばれてるとも言うが」
何かを特段教えるということもないが、意欲がある子どもにねだられたら知識を受け渡すくらいはする。俺が子供の頃は計算が知りたければ商人に、交通が知りたければ門番に、道具の手入れが知りたければ鍛冶屋に自ら取り入ってコネを作らなければならなかった。
そう考えると孤児院の子供達はある程度のことをある程度までやってる先達がいるぶん便利である。便利になんてなんぼでもなっていいので、これからまた教育水準が上がることを祈るぜ。
「でもさー、ご主人はこういうこと言うけど、オレあんま金の使い道わかんねーんだよな! 欲しいのとかねーし、時間空いても外走ってればたのしーし……」
「えっ、ポチくんってお小遣いもらっとるん? へぇ、珍しなぁ! 給料から何割?」
「わりってなんだ? キューリョーってハゲのおっさん達手伝った後もらえる金だろ? 全部もらってるぜ!」
「全部ゥ!?」
レイが目を見開く。
それもそのはず。本来、奴隷は主人の所有物だ。奴隷の労働は主人のものであり、基本的に奴隷が何か他の人間のもとで仕事をした分は主人にそっくり渡されることになる。
人権派の貴族なんかはその中から小遣いを渡すこともあるが、そっくりそのまま渡す人間は奇人変人しかいない。そう、俺のような。
別に悪いことはしていないので隠しているわけでもなかったが、レイのような反応も多いのでそろそろ嘘をつかせようかと迷っている。
「ポチ、いい人達だろあの人らは。口が悪いぞ」
「ゴメンナサイ! でもタダで手伝っちゃダメなんだろ?」
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ため息を吐いている俺を、レイは何故かじっと見つめていた。
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