毒親育ちで余り物だった俺が、高校で出会った強面彼氏の唯一になった話 (浮気相手にされて〜スピンオフ)

Q矢(Q.➽)

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1 余剰の子供

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 俺の母は女の子が欲しかった。



 最初に物心ついたのは、幾つの頃だったろうか。
 周り中自分より大きな物ばかりに囲まれ、大きな人達に見下ろされ。

『男でその上Ωだなんて』

『すみません…』

『隆一郎も、何故貴女の我儘なんか聞いちゃったのかしらね。4人もαの男子がいれば、もう十分だったでしょうに』

『……』


 幼かった俺が祖母と母のそんな会話をよく覚えているのは、目の前で似たような会話が日常的に繰り返されていたからだ。
 幼児だから理解出来ないと侮っての事だったんだろうが、同じような場面ばかりを見せられて、刷り込まれて、しかもこっちは成長していくのだから、その意味を理解するのにそう年月は掛からない。
 小学校に上がる前には、俺は自分の立ち位置を完全に理解していた。

 α家系に生まれた余計者。
 αの兄弟の末に生まれたみそっかす。

 最初は庇っていてくれた母も、度重なる祖母の嫌味に精神を病み、俺の世話を放置するようになり、父はそんな母を見て、母が責められる元凶になったらしい俺を憎むようになった。

 5人目が欲しいと望んだのは母だった。男子ばかりが続いた後の女の子を望んで。父は母の体を慮って止めたと聞いた。けれど、それでも母は望んだ。
 妊娠中の性別判定で男なのを知り、母はガッカリして落ち込んだ。堕胎も考えた程だったらしい。けれど、せっかく授かったのだし、今更男が1人増えるのも変わらないと思い直したようだ。

 ただ、生まれた俺には母の落胆がそのまま名付けられた。余。余剰。もう大して必要ではないもの。
 それでも、愛する伴侶との間に生まれた俺を、母なりには愛そうとしてくれていたんじゃないだろうか。小さな俺が女の子の服を着せられて髪を結われた写真が何枚も残ってるから、性差の現れる前の幼い内だけでも紛い物であっても娘のいる気分を楽しもうと思ったのかもしれない。女の子の格好をさせられた俺は、兄達にもそれなりには、可愛がられて構われていた記憶がある。

 風向きが変わったのは、3歳の頃だ。
検診の際に受けたバース検査で、俺にはΩとの判定が出たのだ。
 年々受けられる年齢が早くなるバース検査だが、小学校入学前の検査は義務ではない。母が俺にそれを受けさせたのは、何の気無しの事だったんだろうと思う。
 αの父にΩの母。その間に生まれた子供は、90%以上の確率でαの筈なのだから、母も周りも俺がαである事を疑わなかった。

 けれど、あの日。
 たった1枚の検査結果が記された紙切れが、俺を取り巻く全てを変えた。

 検査結果を前に顔を覆って泣く母、顔を真っ赤にして怒鳴る祖母、最初こそ母を庇っていたが、祖母のあまりの剣幕にとうとう黙り込んでしまった父と祖父。

 幼心にもそれは衝撃的な場面だったようで、3歳だったにも関わらず今でも俺の一番鮮明な記憶の1つだ。

『あまり、なんて、よくつけたものだわ』

 祖母は馬鹿にしたように皮肉を言い放った。

 祖父と祖母はα同士の夫婦で番ではない。だが、一粒種で最愛の息子である父を溺愛していた祖母は、父を誑かして番になった卑しいΩだと、母の事を憎んでいた。次々子供を授かる母を、Ωの獣腹、と嘲笑した。 
 そんな末に産まれたΩの俺の事を、母と共に蔑んだのは当然だったのかもしれない。

 それでも、母は。
 最初は俺を、庇おうとしたのだと、思う。性別は違えど同じΩに生まれた俺を。完全に望まれない子供になってしまった俺をこの世に生み出してしまった責任を、感じたのだろうか。
けれどそれも、祖母によって母の精神が壊されていくにつれ、難しくなった。
 俺は祖母に母を虐げる理由を与えてしまったとして、父だけでなく兄達にも冷たい目で見られるようになった。
 家族に見放された俺には、それでも外聞があるからと小学生の内までは世話係が雇われた。
 経済的に不自由が無かった事だけは救いだ。それさえ与えられない家庭だって、世の中には多くあるのくらい、俺だって知っている。
 世話係になったのは初老の女性で、彼女は俺を献身的に面倒を見て育ててくれた。俺は彼女を、母とも祖母とも思い、慕った。
 
 しかし。俺が小学校を卒業した日、彼女は俺の世話係の任を解かれた。

『もう自分の事くらい自分で出来るだろう』

 それが、12歳になった俺に、数年振りに父が掛けた言葉だった。


 中学に上がった俺は、針のむしろである家への滞在時間を減らすべく、街を徘徊したり新しく出来たやんちゃな友人達とつるんでゲーセンに行ったり、友人の家に泊まったりしていた。
 どうせ俺が不在でも、いちいち俺の部屋のドアをノックして所在を確かめるような家族は居ない。
 顔を合わせても、胡乱な目で見てくるのはまだ良いとして、居ないもののように視線も合わせない人間も居るのだ。

 もう、血をわけた肉親だなんて思えなかった。

 そんな状態で過ごしていても、2年に上がった辺りからは、父や祖父母と顔を合わせる度に、一定以上の成績は修めるようにとうるさく言われるようになった。
 ある程度の高校には進学してくれなければ外聞が悪いらしい。

 外聞。また外聞だ。
 自分の子供で、血の通った人間である俺より、他人の目にどう映るかの方が大切らしい。

 俺は胸の内で嘲笑して、それでも純粋に経済的環境を与えられている事に対する返礼として、また自分の将来の為に、言われた通りにある程度の成績をキープした。どれだけ素行が悪くても、進学に問題が無い程度には。

 そしてその事が、先の見えていた薄暗い俺の人生を180度変える出会いに繋がっていくなんて、真っ赤な髪をした頃の俺には想像すら出来なかったんだ。








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