ホテル清掃員の俺がオーナーの御曹司に見初められちゃって自分を略奪してくれって頼まれちゃった話聞く?

Q矢(Q.➽)

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「ちょっとお前!そこのお前だよ、木偶の坊!」


今日は平日。陽一郎さんも少し立て込んでて逢えない日。
俺は定時で帰宅すべく歩いている。
スマホを見ると時間は17時半近い。
ドラッグストア寄ってシャンプーと洗剤買っとかなきゃなあ…。

そんな時突然、後ろから声をかけられたのだ。

最初は自分とは思わなかったのでスルーしてしまった。
だって、人生でそんな失礼な呼び止められ方、した事無かったからさ…。悪気は無い。


何度も声がして、振り向いてみたら、成人男性…だと思しき、やたら派手なピンクの髪の、華奢な男だった。

学生?かなあ…。
よくわかんないな。

細身で、それだけじゃなくて、体の線が何かこう、曲線っぽくて…色白で顔の作りは凄く可愛いけど…如何せん、髪色のインパクトが強過ぎてそこに目がいかない。
もしかしてこういうのがΩって人種なのかな。

正直、αよりΩの方が見る機会少ないからさ…じっくり見た事無いんだよね。


振り返った俺に、そのピンクさんはやっと振り向いた!ってぜぇはぁしていたけど、直ぐに眉を吊り上げて言った。


「お前、梁瀬と別れろよ!」

「…は?」

梁瀬…マイスゥイート陽一郎さんの事だよな。

え、じゃあ、もしかして、コレが。


「…えーと、違ったらごめんなさい。
もしかして、陽一郎のクセ強婚約者さん?」

「クセ強って何だよ!!」


正解だったようだ。良かった。





「…陽一郎は知ってるんですか?俺のとこに来たの。」

「はっ、わざわざ言う必要ある?俺は婚約者だよ?」

「あー、話は聞いてます。勝手に決められた解消予定の婚約者がいるんだーって。」

「何それ!!?」


一昨日陽一郎さんが言ってたのはこの事かあ、と思う。
でも陽一郎さんの言ってたニュアンスでは、お互い興味無いって…。
話、微妙に違わない?


俺のとこまでわざわざ牽制に来るなんて、もしかしてこのピンクの彼は婚約解消したくないんだろうか?


…陽一郎さん、未だ仕事だよなあ…。

スマホを取り出す。


「あ、陽一郎さん?」

「ちょっと!!!?」


俺が掛けるフリをしただけでピンク君は逃げて行ってしまった…。

悪戯心出してみただけなのに…何このオチ。

俺は悪態を吐きながら遠ざかっていくピンク君を呆然と見送ったのだった。


……何だったんだ…。




その夜。

『あはっ、はははははっ』

電話の向こうでは陽一郎さんが至極愉しげに大笑いしている。

『あ、彼奴…バッカだなあ…あははははっ』

「笑い事じゃないよ陽一郎さん…。俺、何事かと思ったんだからね。周りに居ないタイプだしさ。」

似合わなくはないけど、流石に陽一郎さんと同い年でピンク頭はどうかと思うんだよね。
趣味なのかもしれないけどさ。

頭の中であのピンク君と陽一郎さんを並べてみる。


………う~ん、俺以上に相容れないなって逆に安心するな。

「ピンク君は、陽一郎さんと婚約解消したくないんじゃない?」

『ぴ、ピンク君!!!ぶはっ』


…ダメだ、陽一郎さんのツボが壊れてしまった。


暫くして、一頻り笑って気が済んだのか、腹筋が疲れたのか、陽一郎さんはやっとまともに話せるようになった。


『それは無いと思うんですけどね。
単純に、自分に振り向かない僕が許せないだけじゃないかな。ブブッ』


気は済んだけど、余韻が抜けないみたいだな。


「そうなのかなあ。
それにしては、陽一郎さんに知られたと思った途端逃げたり…。
俺に別れろって言いに来たのを知られたくないのは何故なんだろう。」


陽一郎さんに悪く思われたくない?


『彼奴の考えてる事なんて理解不能ですけど…別に僕に嫌われてるのはこの前の電話で身に沁みたと思うんですけどね?』


今更だと思うなあ、と陽一郎さんも不思議そうだ。


……条件反射、かなあ?


『ともあれ、執拗い奴なので…一度で済むとも思えないんですよね。』

陽一郎さんは申し訳無さそうに、

『ごめんなさい、嫌な思いさせて。』

と謝ってくれる。

いや、全然。それは本当に全然。そう感じる暇も無い程に、ピンク君は風に吹かれた綿埃のように一瞬で過ぎて行ってしまったので。


『取り敢えず、気をつけていて下さい。僕も、ちょっと彼の動向に注意します。』

「うん、わかった。
体、無理しないでね。」

『はい。…明後日、ちょっと顔見に寄りますね。』


陽一郎さんは名残り惜しげに言う。

「陽一郎さんがこっから出勤で大丈夫なら泊まってくれて大丈夫だよ。」

可哀想になってそう言うと、俄に声が明るくなった。


『そうします!!』



もういっそ一緒に住むべきな気がしてきてる。









一方その頃…。



「くそっ、くそっ!あの平凡βめっ!!」


奏はベッドの枕を殴り付けていた。

自分を蔑ろにする梁瀬が許せなくて、頭に来て梁瀬を誘惑しているβ(鈴木)と別れさせる為に、調書にあった鈴木の勤務先迄仕事終わりを狙って凸ったのに。
まさかその場で梁瀬に電話されてしまうなんて!!

「くそっ、腹立つ!!あの平凡め!!」

全然自分に目を奪われなかったのにもムカつく。

…実は鈴木は、別の意味(ピンク髪)では目を奪われてはいた訳だが…。

というか、あの場で知られなくとも、鈴木と梁瀬の2人がカップルな以上は遅かれ早かれ知られる訳だが、奏はそういう、誰にでも予測がつくような事には頭が回らない。

別れさせる事に失敗した事だけはわかるので悔しがってはいるのだが。

暫く枕や布団に当たり散らして気が済むと、奏は今日、間近で見た鈴木の事を反芻した。

何処にでもいそうなつまらない男だった。顔だって普通で、特に秀でた所も無くて、体だって……。

体は、良かった…かな。
冬服だから体のラインはわかりにくかったけど、太い首の筋が浮き出た感じがオスって感じで、意外に手足が長くてバランスが良かった。
掴んだ腕が硬くてがっしりしてて…。
目なんか、優しそうで…


と、考えて、ハッと我に返った。

違う、彼奴は間男だぞ。
俺は何を考えてるんだ!
おのれ、鈴木!!!






だがその夜、久々に1人寝をした奏が自慰に使ったのは、鈴木だった。







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