27 / 33
27
しおりを挟む「ねえ!あの…バンチャ?出してよ鈴木!!」
「……」
…ゴトリ…。
奏の前に量産品の湯呑みが置かれる。
あれ以来すっかり気軽に遊びに来るようになってしまった奏…。
一応の気遣いなのか、梁瀬と鈴木2人が揃っている日に来るようにしているようだが、2人揃っているからこそ、御遠慮願いたい、と2人は思った。
何故か奏も質素な庶民飯がお気に召したのか、ちゃっかり晩御飯を食べる。
食べたら食べたで眠くなるらしく帰りたがるので、表に抱えて出ると、スッと待機している奏専用車が迎えに来るので便利ではある。
だけどどうせそこにいるのなら、玄関先迄迎えに来て欲しいなと梁瀬と鈴木は思った。
今晩も奏は番茶(低級)と、鈴木特製焼きうどんをペロリと平らげた。
「木本、焼きうどん好きなの?」
あまりの食いつきっぷりに梁瀬が聞くと、
「ばあやが前に作ってくれたから…。」
と返ってきた。
ばあやさんがね。へえ。
おばあちゃんじゃなくて、ばあやさんがいる家か。
なるほどね。
鈴木の目は細くなった。
鈴木家にいたのは血縁関係のあるおばあちゃんだけだったぞ。
「でもなんか味は少し違うね。もっと味薄かった気がする。」
「ばあやさんか…ばあやさんとかの年代なら、和風で醤油味とかだったんじゃない?」
「言われてみれば焼きうどんって和風で醤油味で作る人が多いですよね。
でも僕、真治さんのソース味好きですよ。」
「あ、そうかも。ソースだからかも。僕だってソース味も好きだよ。」
「ウチは母さんが焼きそばも焼きうどんもソースだったからさあ…。」
どうでもいいような会話をしながら食事を終える。
そろそろウトウトし出すかなと思ってたら、奏が急に口を開いた。
「おお兄、たぶんちぃ兄に会ってると思うんだよね。」
真面目な顔で言う。
梁瀬が聞く。
「何でそう思ったの?」
「匂いが…。」
「匂い?」
奏が言うには、こうだ。
最近遊び歩く事を辞めて家にいた奏は、昨日スマホの電源を落とし、ダラダラと部屋で過ごしていた。
父親は部屋にいたようだが、長兄と義姉は朝から出かけていたようだった。
一緒に出かけていたのかと思ったら、昼過ぎになって義姉だけが買い物から帰って来たのが部屋の窓から見えた。
夕方、1階に降りて行くと義姉と会い、今日は出かけていなかったのか、と少し慌てた様子で言われた。
なら久しぶりに食事を一緒に、と話していた時に長兄が帰宅した。
玄関から入ってきた長兄も、奏を見て少し戸惑っていたようだったという。今日はいたのか、と。
俺がいちゃ悪いのかと拗ねて笑われたのだが、その時長兄から、長兄以外の、憶えのある匂いがした。
奏が思わず長兄を見つめると、慌てたように微笑んで部屋に入って行った。
1時間もして食事の席に現れた長兄からは、既にその匂いは消えていた…。
「ほんの数秒だったけど、俺が間違える筈ないよ。」
奏は確信した表情ではっきりと言い切った。
「あれは、ちぃ兄の匂い。」
「…木本が言うなら、そうなんだろうね。」
梁瀬は答えながら考えた。
やはり国外に出したというのは方便だったのだ。
次兄は国内にいるに違いない。
それも、思っているよりは、そう遠くはない場所に…。
「俺、ここ何年かは 家にずっといるって事無かったし、居ても部屋に誰かと篭もりっきりだったから気にした事無かったけど、前にもそんな事あったんだ。
その時は一瞬だったから気の所為だと思ってたけど、昨日ははっきりわかった。」
「そっか…。」
梁瀬としては、次兄が国内に居た場合、長兄は次兄に何らかのコンタクトを取っているのではないかと考えていたのでさほど驚きは無い。
少し種明かしをすると、昨日、長兄が奏が在宅していたと知らなかった様子なのは、奏がスマホの電源を落としていたからだ。
チョーカーに組み込まれたGPSからの位置情報は、父親が奏に付けている側近の部下のみが把握している。
父親と長兄は、必ずしも連携が取れている訳ではなかった。
長兄である総は、父親を尊敬し追従しているようでいながらも、利一を家から出したあの時から 父親と少し距離を取っている。
だがそんな事は知らない奏は、父親と長兄を1括りに見ていた。
奏の立場と、あまり思考の得意ではない事を思えば仕方の無い事だ。
けれど、梁瀬は違った。
奏から聞く話の端々から、何処と無く父親と長兄に思惑の分離を感じる。最初に持っていた印象とは変わってきている。
(…接触してみるべきかもしれないな…。)
勿論、相手は木本家長兄、
木本 総である。
よく言うではないか。
将を射んと欲すれば先ず馬を射よ。
…と。
31
あなたにおすすめの小説
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
塩対応の同室αが実は俺の番を狙っていた
雪兎
BL
あらすじ
全寮制の名門学園に入学したΩの俺は、入寮初日から最悪の同室相手に当たった。
相手は学年でも有名な優等生α。
成績優秀、運動もできる、顔もいい。なのに——
めちゃくちゃ塩対応。
挨拶しても「……ああ」。
話しかけても「別に」。
距離も近づけないし、なぜか妙に警戒されている気がする。
(俺、そんなに嫌われてる……?)
同室なのに会話は最低限。
むしろ避けられている気さえある。
けれどある日、発情期トラブルで倒れた俺を助けてくれたのは、
その塩対応αだった。
しかも普段とは違い、必死な顔で言われる。
「……他のαに近づくな」
「お前は俺の……」
そこで言葉を飲み込む彼。
それ以来、少しずつ態度が変わり始める。
距離は相変わらず近くない。
口数も少ない。
だけど――
他のαが近づくと、さりげなく間に入る。
発情期が近いと察すると、さりげなく世話を焼く。
そして時々、独占欲を隠しきれない視線。
実は彼はずっと前から知っていた。
俺が、
自分の運命の番かもしれないΩだということを。
だからこそ距離を取っていた。
触れたら、もう止まれなくなるから。
だけど同室生活の中で、
少しずつ、確実に距離は変わっていく。
塩対応の裏に隠されていたのは――
重すぎるほどの独占欲だった。
【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話
降魔 鬼灯
BL
ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。
両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。
しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。
コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。
欠陥αは運命を追う
豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」
従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。
けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。
※自己解釈・自己設定有り
※R指定はほぼ無し
※アルファ(攻め)視点
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる