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33 最終回 (鈴木語り)
しおりを挟むホテルでの話し合いの夜を境に、色々な事が急激に変わった。
1ヶ月の内に婚約は白紙になって、その2ヶ月後には俺と陽一郎さんは籍を入れた。
結婚式はセレブらしからぬ超地味婚。教会で2人だけでさっさと挙げちゃって、梁瀬家には事後報告。俺の実家にも事後報告だったんだけどさ。
俺が女の子としか付き合った事無いの知ってた家族は、最初 冗談かと思ってたみたいで、マジだと知った時には親父は頭抱えた後、陽一郎さんに よろしくお願いします…って悲壮な声で言ってた。
梁瀬のお義父さんも、頭抱えてたな…。
でも陽一郎さんが、事前に知れて変に妨害されても面倒だから、ってそういう事になった訳で…。
一応反対はしたんだよ、でも陽一郎さんの言い分もわかるしなあ、って事で、梁瀬家には悪いんだけどそういう事に。
αと結婚するβは多いけど、男性αと男性βの取り合わせは、流石にまだまだ珍しい。
日本有数のホテルチェーンの御曹司である陽一郎さんの結婚は直ぐにマスコミに知れて、俺と陽一郎さんのツーショットが拡散された。
更に木本家のピ…奏君との婚約が解消されてたのも勿論知られて、すわ略奪婚か!?って取り上げられたりして、たまたま一時的に実家に戻ってた奏君が記者に凸られて 婚約解消の理由を聞かれてたんだけど、
「…性嗜好の不一致?」
って答えたもんだから、一瞬マイクを向けてた記者達の脳裏に、多分陽一郎さんとツーショットで写ってた俺の姿が浮かんだんだろうな。
「……なるほど……。性嗜好なら、仕方ないですよね…。」
って、微妙な納得の空気が生まれてたのが画面越しに伝わってきたのが印象的だった…。
まあね。奏君と、俺じゃ……180度真逆だもんね。
後から奏君に電話で聞いたら、利一さんがそう答えな、って知恵つけてたらしくて、ちょっと笑った。
それからマスコミの対応が一変して俺と陽一郎さんを祝福ムードになった。
更には俺が清掃業に従事してて、仕事中に陽一郎さんに見初められたって事から、男性版シンデレラとか書かれた時は、なるほどな?って思ったり。
マスコミって色々上手いこと考えるよね。
結局、梁瀬のお義父さんは渋々俺達を認めてくれたから、俺は梁瀬家の嫁?って位置づけになる訳で、なら陽一郎さんの立場的に俺が何時迄も仕事してると不味いかと思ったんで仕事をどうするか悩んだ。
陽一郎さんは、働いてる俺が好きだから無理に辞める必要は無いって考えらしいけど、俺みたいなのが現場にいると他の従業員やスタッフが気にするし、ホテルや会社にも迷惑がかかるかもしれないので、やっぱり辞める事にした。
その代わり、今は陽一郎さんの
専属運転手兼秘書として仕事してる。
この仕事に付くにあたっては、お義父さんの専属運転手さんに少しの間見習いで付いて仕事を教わった。
で、その時期になってやっとマンションを引き払って梁瀬家に入った。
陽一郎さんが俺のマンションに半同棲になってたから、いい加減一緒に戻って来いって言われたんだよ。
多分お義父さんは諦めモードなんだろうけど、酒にも誘ってくれるし、それなりに可愛がってもらってると思う。
こないだ陽一郎さんが寝ちゃった後に晩酌付き合った時には、(下戸なので烏龍茶)
「もう、息子がもう1人いたと思う事にした…。」
って遠い目をして呟いてたよ。
複雑な気持ちなんだろうけど、お義父さんなりに陽一郎さんが大切だから気持ちに折り合いつける事にしたんだろうなと思ったよ。
木本家とは、特に揉めた訳でも無かったし、寧ろ奏君や総さんと、他人に言えない部分での友好が深まったので、お義父さんも木本の親父さんも何も言えない感じになったようだ。
奏君は利一さんと番になって、総さんの尽力で親父さんも暗黙の了解、って扱いになったらしい。
事が事だけに、流石に大っぴらには出来ないけれど、2人の間を認められただけでも、凄い事じゃないだろうか。
だって、まあ…実の兄弟だからね。
でもまあ、あれだけ長く引き離しても妨害しても、本人同士がそうなってしまったなら、もう仕方ないと思ったんだろうな。
梁瀬のお義父さんも木本の親父さんも、複雑だろうなと思うよ。
奏君達は、流石に子供を作るのは躊躇うって話をしてたけど、そうだよなあ。
近親だと、そういう所も考えなきゃなんないんだよな。
ピルを飲むようにするなんて言ってたけど、その辺は番の間の問題だろうし…難しいだろうなあと思う。
でも、色々あるけど奏君、すごく幸せそうだよ。髪の色もピンクじゃなくなって、茶色になってて、地毛に近い色にしたって言ってた。
利一さんは未だ暫く元の病院で奏君と一緒に療養するらしい。
食欲が戻ってきて、少しづつ体重が増えて来てるって、奏君も嬉しそうだった。
回復した後に木本家に戻るのか、別の場所に居を構えるのかはわからないけど、2人で暮らすなら何処だって幸せなんだろうと思う。
それに、2人には総さんっていう、何より強い味方がいるから そんなに心配してない。
全部が全部、上手い事片付くかと言えば、そうもいかない事もあるけど、人生案外何とかなるもんだなと思った。
今でも不思議だ。
あの日、仕事中のトイレで陽一郎さんに会った時は、確かに綺麗な人だなと思ったけど、まさかこんな事になるとは思わなかった。
俺みたいな普通の男が男に一目惚れされて、友達になってくれなんて言われて、グイグイ迫られて奪ってくれなんて言われて、絆されて恋に落ちて大恋愛して、今、その人との未来を歩き出してる。
俺はβ。
この通り平凡な普通の男で、子供なんか産めない。
それでもαの陽一郎さんと一緒になった。
αとΩみたいな番契約は結べないけど、気持ちの上では負けてないと思うし、なんなら俺は陽一郎さんの項を噛みたい。βだけど。笑
何があっても、一生添い遂げるつもりだからさ。
何て言ったら良いのかな。
共に白髪の生えるまで、
死が二人を分かつとも、だよ。
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