憎くて恋しい君にだけは、絶対会いたくなかったのに。

Q矢(Q.➽)

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記憶 (玲side)




  心臓を撃ち抜かれた気がした。



ーー俺に構ってないでさっさと他に恋人でも作るか、結婚して子供でも作りゃ良いじゃんーー

 自我の確立しつつある子供が、鬱陶しくかまう身内に嫌気がさして、何気無く口にした言葉。それだけなのかもしれない。深読みする方がおかしいのかも。

 でもその言葉は俺の胸をダイレクトに射抜いた。





「兄さんが亡くなったと報せが来たの…」

 赤く泣き腫らした目をして握りしめた封筒を差し出す娘は、俺の代わりに兵士となり戦地へ行ってしまった恋人の妹だった。
 震える手で手紙を受け取り、開く。

ーーーー…戦死…?
一面の砲撃を受けて?

 炊事兵に回されたから少しはマシな場所にいられるんじゃないかと思っていたのに。

(そんな筈は無い、そんな筈は…あいつが死ぬなんて。だって約束したんだぞ…)

 目の前が暗くなり、周囲の音が遠のく。自分の心臓の鼓動だけがやけに大きく響いた。

(あいつが、しんだ?

  …なら俺の心臓は、何故未だ動いているんだ?)


 
 恋人は幼馴染みの、同じ歳の青年だった。
 少し怖がりで 控えめな、でも笑うと白いマーガレットかノースポールがそっと花開いたような、そんな可憐さを持っていた。
 前に出ない性格故に、周りの人間は彼の魅力に気づかない。知っているのは幼い頃からずっと一緒に過ごしてきた、俺だけ。

 密かな優越感。
 顔も体も心も清らかで美しい、俺だけの恋人。

 けれど、何故だか 恋人の両親は彼の妹である娘に夢中だったから、彼を独り占めするのは容易かった。
 彼の妹は悪い子では無いけれど、本来彼に与えられるべき物や事が彼女にばかり流れるところを見ていれば、申し訳ないが好意は持てない。彼女の存在により恋人は、不利益を被る事もままあったし、理不尽で不当な扱いを受ける事も少なくなかったからだ。
 だから俺にとって彼女は、恋人の妹ではあるが、それ以上の興味も無く、特に親しくもならず、近付きたくもない存在。
そんな程度のもの。

 折悪しく見つかった病に苦しんでいた時に、村に戦の招集が来た。戦える男を規定数供出しなければならない。
 本来なら年齢や体格諸々を満たした俺が真っ先に駆り出されるところだ。
 だが病を治療中だった俺は、外された。他に誰かが行かねばならない。規定を満たすような頑丈な若い男は少ない。


 ある日、村の集会所に男連中が集まり緊急集会が開かれた。恋人はそれに参加し、その帰りに俺の家に寄ってくれた。その場で恋人は手を挙げてきたと言う。
 俺は驚いた。
 確かに男手ではある。幼い頃から体が弱く、体格に恵まれているとは言えないが、若い。
 そして、今現在患っている訳ではない五体満足の男には違いない。

  だけど…だからって!!

「お前じゃ無理だ。お前をやるくらいなら俺が行く、もう少し日数があれば、きっと体調を整えて…」
「無理だよ。間に合わない。
遅れたら、村全体が処罰を受ける。 俺が行く」

 普段、素直で大人しい癖に 1度決めたら決して変えない、頑固者の恋人がそう言い切ってしまった。
 俺は泣いた。自分が不甲斐なくて。
 だが恋人は、そんな俺の背中を優しく擦ってくれながらこう言った。

「大丈夫、俺 こう見えて結構しぶといから。
絶対帰ってくるよ」
「…どうして、どうしてお前が…」

 涙を流す俺に、恋人は微笑む。

「戻ってくるよ。
君のところに、戻ってくる。必ず。
そしたら、一緒に村を出て、2人だけで暮らそうよ」

 しかしそれを見た俺の胸はますます感情の波が荒れ狂い、言葉を発する事が苦しくなった。

 もしも。
 もしも、お前を失うような事があれば、


 俺はどうやって生きていけば良い…?




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