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8 (俯瞰・微R18、近親相姦描写あり)
しおりを挟む一織と八束が高城家入りしてから三日目、一織が臥せった。
原因は食事である。
と言っても、味が悪いとか食中毒とかそんな事では無い。食材の質や味に言及するならば、寧ろ良過ぎた。
初日の夜。
膳が何度も運ばれて来るという、ごく普通の庶民である麻生家ではあまり馴染みの無い形式で出された為、一織、八束の二人は困惑した。
非効率だし、そんなに出されても食べられないから食材の無駄だし、出来れば一膳に纏めて一度の出入りに留めて欲しいと思った。しかし歓迎の意味を込めてのその日だけの事だろうからと高を括って頑張って平らげたら、それが毎食だったのでとうとう一織が三日目で音を上げた。食事の度に胃痛を訴えるようになり、寝込んでしまった。
元々食が細く、けれど食事を残しては申し訳ないと無理に食べていた一織には、食事の時間が負担になっていたのだ。何人もに入れ替わり立ち代り給仕されるのも落ち着かない。
使用人達の手前、食べるのを手伝うような行儀の悪い真似をできる筈も無く、無理しているのではとハラハラしていた八束は、自分がもっと早く申し出るべきだったと激しく後悔した。
『出来たてを熱い内に、というお気遣いはありがたいのですが、食事の度に毎度毎度こんな風に料理屋や旅館みたいな事をしていただくのは、そういった経験が殆ど無い僕達みたいな人間からすると落ち着かないし気疲れするんです。普通に一膳で纏めてくだされば十分です。一織に関しては、量も減らしていただきたく…。』
と、申し訳無さそうに述べる八束に、篠宮は人の良い料理長の張り切っていた顔を思い浮かべた。
あの難しい若様の婚約者になってくれるかもしれない二人に、滞在中には美味しい食事を振る舞って、高城家の好感度上げに一役買うつもりでいた気のいい料理長…。
料理の数も量も減らしてくれと言えば、少し落ち込まれるかなと篠宮は内心苦笑した。
だが同時に、麻生兄弟に対しての気遣いが足りなかったと自省しなければならなかった。彼らの世話に関しては一任されていたのに、倒れられ、言われる迄気づけなかった。顔色や僅かな表情で相手の気持ちを察して動く事を生業にしている筈なのにと、自分の未熟さを恥じた。
彼ら麻生兄弟は一般の庶民で、母の水澄は就労には制度の力を利用してはいるが、金銭的支援は拒否して自立していた。
高校中退で学歴的には中卒になる彼の給料が高かったとは思えない。
だから麻生家は清貧だったのだ。贅沢に良い食事を与えておけば喜ぶだろうと頭の隅で考えていた事は否めない。
相手は支度金すら拒否した一家だと聞いていたのに、配慮が足りなかった。
食事の度に何人もの使用人が出入りするのも、慣れなくてストレスに感じていたのだろう。
『いえ、配慮が至らず申し訳ございませんでした。早速改善致します。
これからもご不便に思われます事は、御遠慮なさらず仰っていただけますよう。』
篠宮はそう言って頭を下げたが、逆に八束が恐縮してしまった。
『こちらが早目にお伝え出来なかったので…。
これからは気をつけますね。』
兄の一織もこの八束も、気を遣う質らしい。
確かに青秋の言うように、他のΩ達とは全く違うと篠宮は思った。
何と言うか…この兄弟は、品が良い。
経済的には恵まれた環境ではなかったようだが、躾が良いのか。それとも、他人の顔色を窺い、周囲との折衝を避ける為の処世術が早い内から身についたのか。
何方にせよ、使用人の立場から言わせてもらえるものなら、どうせ迎えるなら我儘放題に振る舞いそうなこまっしゃくれたΩ達よりも、人品卑しからぬとわかるこの兄弟の方がずっと良い。
本来の高城家の主、高城 一青はここ数年病気療養でずっと葉山の別邸に引っ込んでいて、実質屋敷の主は青秋である。一青の病状からしても、遠くない将来に青秋が高城の全権を引き継ぐ事になるだろうと皆考えている為、番を伴侶をとせっつく親戚達がいるのは仕方の無い事だった。しかし、当の青秋が男性にしか興奮出来ず、従兄弟の橙に固執している有り様だったので、近習達はずっと気を揉んできたのだ。
橙と添い遂げるのは絶対に無理なのだから、そろそろここいらで落ち着いて欲しいとは側仕え達皆の願いだった。
(何ならいっそ、ご兄弟共に嫁ぎなされば良いのに…。)
やたら仲の良い麻生兄弟はどうやら離れたくはないようだし、片方が番になって屋敷に入って離れ離れになるよりも、二人一緒に青秋の伴侶になればという気がする。兄弟を一緒に、と考えると倫理的にはNGかもしれないが、最初から本人達が納得していれば問題にはならないだろう。昔はよくあった事らしいし、現在でも上流社会の一部では暗黙の了解で存在する事だ。
流石にそれがΩ二人ともなれば嫉妬羨望からの批判は買いそうだが、かといって高城家の主にそれを面と向かって言える人間は少ないだろう。
兄の一織は物静かで文句無く美しいし、弟の八束は聡明で如才無い。
青秋があの兄弟を得られれば高城の未来も明るいものを、と篠宮は思った。
「兄さん、未だ気持ち悪い?」
八束は布団に横になっている兄の頬を撫でながら、心配そうに聞く。
その手の体温に薄く目を開いた一織は、八束の姿を認めると幽かに笑って、八束は胸が痛くなった。でも数時間前よりはずっと顔色が良くなっていて安心する。
(無理をさせてしまった…。)
一織には、限界迄溜め込んで我慢する癖がある。それを忘れていた自分の落ち度だと、八束は自分を責めた。
一織には苦しい思いも悲しい思いもして欲しくない。自分よりも体力面で弱い一織を、八束は幼い頃から守ってきた。今夏だって、代わってやれるものなら代わってやりたいのに、歯痒い。
和風の猫足チェストの上の時計を見て、そろそろ薬を飲ませておかなければと立ち上がろうとした時、一織に弱い力で袖を引かれた。
「やっくん、行かないで。」
「…薬の時間だから水を持ってこようと思っただけだよ。」
「後で良いから、傍にいて。」
頼りなく掠れた声で甘えられると弱い。
八束は布団の横に座り直して、自分の袖を握っていた一織の指に触れた。布団の中にあった筈の一織の手は、微熱があった筈なのに何故かひんやりと冷えている。
それに背筋が寒くなった。
精神的にも脆い所のある一織は、以前、摂食障害を患った事がある。その時八束は、一織が自分を置いて死んでしまうのではと怖かった。だから必死に支えた。
その時に感じた薄ら寒さを思い出し、八束は両手でぎゅっと一織の手を握った。
「いお。何時も言ってる。絶対、我慢しないで。
我慢なんかしないで、僕に言って。そうしたら、いおが苦しむ事が減るんだよ?」
一織は小さく頷く。
確かに何時も言われてはいるのだが、そうすると一織を守る為に八束は矢面に立って無理をする。兄なのに八束に負担をかけたくなくて我慢してしまう。その結果は大概ろくな事にはならないのだが、我慢癖は治らなかった。
けれど、我慢する方が八束の心労と負担を増やす事になっているのだから、本気で改善しなければと何時も思ってはいるのだが。
「ごめんね。気をつけようと思ってるんだけど…。」
しゅん、としょげる一織の表情に、八束は胸がきゅうっと締め付けられた。
「うん、次は気をつけて。絶対、無理はしないって約束して。」
優しい声色でそう言うと、一織は自分の手を握る八束の手に、頬を擦り付けながら頷いた。
「うん。」
猫のようなその様子に、何故、自分の兄がこんなに可愛いのか八束は何時も不思議に思う。可愛くて愛しくて放っておけない。
「約束する。」
一織は八束の手の甲に唇を押し付けながらそう言って、八束は兄の吐息と唇の感触に悶えた。こんなあざとい仕草がここ迄似合う兄は小悪魔だと思う。これ以上触れられていたら、具合いの悪い一織に対してあらぬ劣情を催してしまいそうだ。
「うん、頼むね。…じゃあ、先に薬飲もうか。」
八束はそう言ってそっと手を引き抜いて、直ぐ近くの座卓に寄って、上に置かれていた水差しからグラスに水を注いだ。それから横にあった薬を一錠出して、それらを小さなトレイに載せて一織の元に戻り、枕元に置いた。
起き上がった一織の背中を片手で支えて、その手の平の上に薬を載せてやった。
薬を流し込む為の水のグラスを手渡そうとすると、縋るような瞳で見つめられる。
「…手に力が入らなくて、持つのこわい。」
「…じゃあ、持っててあげるから。」
一織はそれにも首を振った。口移しで飲ませろと言っている訳だ。
甘えたくて仕方ない時の一織は全力で誘惑してくるから始末が悪い。それに抗えず、結局その気にさせられて兄の言うなりに甘やかしてしまう自分も悪いけど、と思いながら八束はグラスの水を口に含んだ。
口移しで水を流し込むだけで終わる筈も無く。
密着した唇の中、口内では舌が絡み合っていた。
上顎を舐め回してやると、低かった一織の体が、熱を帯びていくのがわかる。
「…っ、ふ…、」
唇を離した時、一織の頬は紅潮し、耳迄真っ赤になっていた。力の籠らない腕が八束の首に回される。
「…兄さん、具合いが…。」
「大丈夫、やっくんを補給したら元気になれるから、お願い。…抱いてよ。」
熱を持って潤んだ瞳、甘い吐息に絖る舌、優しく頬を撫で淫靡に誘う指。
美しく淫らなそれらが、血をわけた自分だけに向けられる優越感。烈しい独占欲。
互いの全てに欲情する自分達兄弟は狂っている、と八束は思う。
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