偽装で良いって言われても

Q矢(Q.➽)

文字の大きさ
10 / 22

10 (俯瞰)

しおりを挟む


「お二人は、恋仲なのでしょうか?」

身構える間も与えず、青秋はそう口にした。


八束は無表情になって青秋を見据え、一織は真っ青になる。こんな時にも反応は正反対なのだなと、青秋は内心感心した。本当に面白い兄弟だ。

「…何故ですか?」

八束が動揺したのは一瞬だった。直ぐに表情を消して現状を把握する為に青秋に対峙する体勢を整えた。
だが、青秋は目を伏せて八束の視線を受け流し、戦意は無いと示した。

「不躾に申し訳ありません。咎めだてする気はないのです。そんな資格も私には無い。」

「では、何故。」

腑に落ちない、と八束は眉を寄せた。

「どうしてそう思われたんですか?」

八束と一織は肯定はしていない。だがおそらく青秋は知っていて、確信を持っている。
だから口にしたのだろう。
動揺で思考停止している一織はともかく、八束は何故漏れたのかと頭の中で目まぐるしく考えていた。

確かに、堪え性の無い一織のお強請りで、この屋敷に来てからも、既に何度も性的関係は持っている。何なら八束はそれを想定して、監視カメラや盗聴の類があれば撤去するように言ったのだ。万が一それを発見したら、二週間経過を待たずその場で切り上げて帰ると言って。
勝手な偏見のようで悪いかとは思ったが、上流階級というものに縁が無く、得体が知れないと思っている八束達は、黙っていたらそれくらいされるかもしれない、なんて事を半分本気で考えていた。
実際には庭の何ヶ所かと廊下に複数箇所、防犯目的のカメラがあっただけで、プライベートな空間には最初から設置しておりませんと篠宮にも言われてしまったのだが。

セックスしたのは部屋の中だけだった。当然、二人だけしかいなかった。
なのに何故、どうやって青秋は知ったのだろうか。


「先日、一織さんが体調を崩されました折、私はお見舞いに伺ったのですが、」

「え?お見舞い?」

「我が屋敷の内部で起きた事。主としては責任がありますから。」

「…あれはちゃんと言えなかった俺が悪いのに…。」

一織がそう言うと、青秋は首を振って答えた。

「お顔色やご様子を見て察する事が出来なかったのは此方の落ち度です。それ以前に、屋敷内で起きたあらゆる事は私の不行き届きなのです。」

セレブもセレブで気苦労はあるらしい、と一織と八束は思った。しかし、待てよ…と思う。

「…部屋に来たって事ですか?」

青秋が部屋に来た記憶は無い。まさか…。

「はい。篠宮と共に。
お取り込み中だとわかり、引き返しましたが。」

「…。」

お取り込み中…。それを指すのはこの場合一つしかない。
二人が固まっていると、青秋は頬を指で掻きながら、少し言いにくそうに言った。

「失礼ながら、扉はきちんと閉められた方が。
勿論、お返事もないのに勝手に開けるような不調法者は家にはおりませんが…。
隙間から艶めいたお声がずっと…。」

「!!!?」

開けて見た訳ではない、けれど八束達の不注意で扉はきちんと閉まっておらず、隙間から最中の声が漏れていた…そういう事だ。
そう言えば、と八束は思い出した。
一織の為に食事や薬を持って来てもらって、それを扉の所で受け取り、部屋の中に運んだ。扉がきちんと閉まらなかったのは音でわかったが、寝る前に閉めにいこうと思っていたのだ。青秋の言う通り、この屋敷には許可無く勝手に扉を開ける使用人は居ないから、誰か来たらノックでわかると思っていた。
きちんと閉じきらないというだけのそこから、そんなにも声が漏れるなんて思わなかった。
普段ならその辺にもきちんとしている八束がそんなミスをしたのは、やはり一織の不調の影響だと言わざるを得ない。
一織と八束は愛し合っていて、それ故に互いがウィークポイントなのだ。


青秋に聞かれたと知った一織は真っ赤になり、八束は押し黙った。やはり不用意な事をするものではなかったと反省した。
二人にとってはまるで現実味の無い、高級旅館か何かのような屋敷だったから、他人の家だという感覚が薄かった。

自分のミスだ、と八束は唇を噛み締めた。
Ωの双子で、当然血をわけた兄弟で番のような事をしている。決して他人に知られてはいけない事だと、わかっていたのに。

「もう一度言いますが、咎めだてするつもりで申し上げたのではありません。」

悲壮な空気を読んだのか、青秋は苦笑して二人に言った。

「私も他人の事は言えないんです。…ずっと従弟に懸想してますからね。」

「いとこ?」

青秋の口から出た、意外な言葉に一織はぽかんとしてオウム返しに聞いた。

「尤も近い従弟です。
…‪男性で、‪α‬です。彼は私の気持ちは知らない、ずっと。」

そう答えた青秋の表情は、切なげで苦しげで、一織だけではなく警戒していた八束迄もがつい、気になってしまう。

「私は子供の頃からずっと従弟を愛しているんです。
けれどこれは、伝えても報われてもいけないものだ。
家の為に。」

熱心に婚約を申し込んで来た割りには、ずっと掴み所の無い男だと思っていた青秋の、初めての吐露は思いがけないもので、一織も八束も何と言って良いのか言葉に詰まる。


「私はお二人が羨ましい。」

そう呟くように言った青秋の声は寂しげだった。

家の為に、と青秋は言った。
ならば彼はこの縁組に、実は消極的だという事なんだろうか?

「では、一織と婚約したいと言っていたのは…フェイクだったという事ですか?最初から婚約する気は無かった、と?
だから僕が一緒でも構わなかった?」

どうにもよくわからない。
家を背負っているから、自分の心を捨てて、跡継ぎになる子供を作る為に結婚…という事なんだろうが、何故、一織だったのか。何故、八束迄同じ候補にして招き入れたのか。
別に、単なる付き添いという形でも良かった筈だ。なのに高城家は八束迄も一織と同じように迎えた。何故だったのか。

「フェイクではなく、一織さんなら、と思いました。
今ではお二人なら、に変わりましたが。」

「それは、どういう…?」

戸惑う一織と八束に、青秋は先程とは違う笑みを浮かべて言った。


「最初は一織さんのΩらしくない部分が好ましかった。けれど今は、愛し合うお二人だからこそ、という気持ちです。」

ますますわからない。
二人が首を傾げていると、青秋の笑みはより一層深くなった。


「私には、私を愛さないΩが必要なんです。」


やはり青秋の言葉は不可解だ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。

かとらり。
BL
 セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。  オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。  それは……重度の被虐趣味だ。  虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。  だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?  そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。  ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…

処理中です...