悪趣味な罰ゲームが風物詩だったあの頃の話

Q矢(Q.➽)

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8 幼馴染み、責任を感じる

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「この子、周君に会えるの、すごく楽しみにしてたのよ。
これからまたよろしくね。」

小さくて少し丸っこい健一郎の母親にそう言われて、周はこくっと頷いた。

「それにしても、まあ…おっきくなったわね…。ご主人も大きいものねぇ。」

「そうね、主人の家系は皆 結構高身長だし…。」

母親同士がそうして話し込んでいる間に、周は健一郎と連絡先交換をした。


長かった父親の赴任期間もあと1年で終了する為、健一郎は最初から日本の大学へ進学しようと考えた。それでA大の帰国子女枠で受験したらしい。他に2校受けた大学も受かりはしたが、本命だったA大に合格したので、父親より一足先に母親と共に帰国する事にした。
父親と高校生になる弟妹は、来年帰国予定だそうだ。

「めーくんZ大なんだよね?すごいなぁ。
俺ももう少し頑張って受けたら良かったかな。」
 
「A大、良いじゃないか、周り賑やかだろう。」

「でもめーくんいないじゃん。」


そんな可愛い事を言う健一郎に、不覚にもドキッとする。
そして打ち消す。

違う、健一郎は単に長く留守にしていて日本に他に友人がいないから自分にこんな事を言うだけだ。社交辞令というやつ。
きっと、少し心細くて。
でも健一郎の性格なら直ぐに周囲に馴染むだろうし、何ならもう友人くらい何人も出来ているだろう。

「でも、俺じゃZ大はちょっとキツかったもんな。あはは。」

「そんな事…。…でも俺も、健ちゃんいてくれたら…楽しかったのにな…。」

健一郎の言葉が社交辞令かどうかはともかく、周の方はかなり本気だ。
もし、健一郎が同じ大学にいてくれたら…。学部が違っても、一緒に大学に通ったり、連絡し合って一緒に昼食を食べたりできただろうに。
そうしたら、大学生活はきっと楽しくなったんだろうなと本気で思う。

周にはそんな風に付き合える友人は今迄いなかったし…。
いや、厳密に言えば、高校の一時期はそんな事もあったが、あれはもう周の中では黒歴史だ。
十中八九陽キャの遊びに長々付き合わされたのを、自分だけが本気にしていただけ。
性悪な男に騙されてその気にさせられかけていただけ。
周は橙空との事に、そう折り合いをつけていた。

けれど、健一郎は違う。
健一郎はあの橙空のようなタイプの人間ではない。
幼い頃そのままに真っ直ぐ育ったような素朴さと、優しさが全身から滲み出ているのだ。

10年以上離れていたのに、健一郎が人を謀るような事を考える人間ではないとわかる。

やはり友人には健一郎のような人が良いと、周は強く思った。健一郎なら、きっと自分を裏切ったりしない。


それから少しの時間、周は健一郎が暮らしていた国や、そこでの暮らしぶりを聞き、大学に入学してからの現状をお互いに話した。
健一郎の通っているA大は、やたら派手な学生も多くて、普通を地でいく自分は浮いてる気がする、と健一郎は笑った。
それに対して周は、健ちゃんは可愛くてカッコ良いから浮いたりしないだろう、と真顔で言って、健一郎を困惑させた。冗談か世辞だと流すのが妥当な筈だが、あまりに周の表情が本気だったので、健一郎は空気を読んで ありがとう、と返す事しか出来なかった。
まさか周に"可愛い"と言われる日が来るとは、と 健一郎は不思議な気分だった。
幼稚園の頃は、他の子達より体が小さく顔は天使のように可愛いのに表情の乏しい周を、健一郎はよく気にかけ、庇ったな、と思い出しながら。

「でもさ、学校違っても家は近いし遊びには行けるよな。」

気を取り直した健一郎は、そう言って笑った。

「そうだな。でも俺はあまり…遊びというものを知らない。」

「…そっか。友達とか彼女と遊んだりとかってあんましないの?」

「そうだな。友達…は、健ちゃんしかいないし、健ちゃんずっといなかったし、彼女はいた事ない。」 


彼女はいた事ない…。
その顔で?というのは今は置いておく。それもビックリだが、健一郎にとってそれ以上にショックだったのは、自分以外に友人がいなかったというショッキングな事実を、周があまりにもあっさり口にした事だった。
何故だか物凄く責任を感じてしまうのは何故だろう…。


「うん…じゃあ今度、手始めに映画にでもいかない?」

「映画か…うん、行く。」



敏い健一郎は、三須家を訪れ、周と会ってからこの短時間での会話で、周の大体の状況を把握した。
幼稚園の頃と比べようもない程に眩い美丈夫に仕上がっていた大事な幼馴染みは、どうやらとんでもなく対人関係が苦手なようだ。これは世にいうコミュ障というやつかもしれない。
幼い頃も他の園児達となかなか意思の疎通が図れず、友人関係の構築がままならなかったのでよく健一郎が仲介した事もあったが、まさかあの調子でここ迄成長してしまったのだろうか。おそらくそうなのだろう。
国内最難関大学に合格しているし、一部の隙もないような男になっているのに、そうかと思えばあまりに無知な面もある。心配だ。
これはあまりに希少種だ。
手厚く保護しなければならない生き物だと思われる。

家の事情で幼い内に離れなければならなかったのは仕方なかった事とはいえ、その後周に連絡を取ろうとしなかった事を健一郎はとても後悔した。


「これからはちょくちょく一緒に出かけよう。」

「楽しみだ。」


どれだけ育ってしまっていても、周の笑顔はあの頃のままの純粋さで、健一郎の庇護欲を刺激してきたのだった。



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