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18 知らぬが仏だったと沢口は思った
しおりを挟む「マジなのか。」
「すまん、マジだ。」
伊坂の答えに、という事は目の前のこれは全て事実という事なのか…と、沢口亮は言葉を失ってしまった。
とある金曜日の夜。
久々に時永の家に集まって飲もうと連絡が来て、浮かれ気分でいつメン飲み会に顔を出した沢口は、神妙な面持ちの時永・伊坂・國近・九重に囲まれて思いも寄らぬ事を告げられた。
「俺達、付き合ってるんだ。」
口火を切ったのは伊坂だった。しかも、横の時永と顔を見合わせて照れ笑いをしている。
そんな伊坂・時永カップルからの先制のジャブを食らって、お、おう…とよろけた沢口だったが、体勢を立て直す間も与えられないままにいきなり國近にストレートをかまされた。
「俺と徹も、結婚を前提に付き合ってるんだ。」
「そ、そうなんだ?」
何時もフラットな國近が珍しく上機嫌な雰囲気を露わにしていると思ったらこれだ。カミングアウトがカジュアル過ぎるどころか一気に同性婚の構え。
実は既に國近の九重に対する気持ちには気づいていた敏い沢口だったが、流石に突然の結婚宣言には驚いた。何時の間に。
それにしてもあの九重がよく同性の國近を受け入れたな、と九重の様子を見ると、何時も豪快に笑っている男が、今日は借りてきた猫のように大人しく國近の隣に鎮座していた。
「…コノ?」
沢口が声を掛けると九重はぴっ、と肩を揺らして、
「…あ、久しぶり…。」
と答えた。一瞬目が合ったが、直ぐに逸らされてしまってちょっと傷つく沢口。全く九重らしくないその様子に戸惑ってしまう。
腑に落ちない気持ちでそのまま九重を見ていると、何を思ったか國近が九重の腰を抱いて微笑んだ。一気に真っ赤になる九重。
俺は何を見せられているんだ、と虚ろな目になる沢口。
「来週から一緒に住む予定だ。」
「えっ?」
何、そのあからさまな独占欲?という気持ちと、お前先々週末に離婚したって連絡寄越した癖に来週にはもう?展開早過ぎないか?という気持ちが胸中でせめぎ合う沢口。
自分の知らない間に諸々の事態が進み過ぎじゃないのか、と取り残された感に見舞われる。
ズッ友仲良し五人組の内の四人が次々と離婚騒ぎになっていたのは本人達からだって個別にも聞いてたが、まさかその四人それぞれがカップル成立してたのは聞いてない。
しかし、自分を信じてそれぞれ打ち明けてくれたに違いないと思い直して、沢口は祝いの言葉を口にした。
「そっか、おめでとう。伊坂と國近の想いが叶ったのは俺も素直に嬉しい。」
その言葉に少し驚く伊坂。
「知っていたのか。」
「そりゃま、見てれば。」
沢口は学生時代から、五人の中で最も社交的で交友関係が広く、観察眼にも優れていた。國近が九重を好きな事も、伊坂が切ない瞳で時永を見つめていた事も高校の頃から知っている。
けれど彼らが気持ちを告げないのは、友人関係を壊したくないからなんだろうと思い、黙っていた。
それに社会人になり数年も経つと、彼らもボチボチと結婚していったから、気持ちを封印したのか、ケリが着いたのだろうと思っていたのに。
まさか、離婚ラッシュに続いてこんな衝撃ニュースが待っているとは思いもしなかった。
「引いたか?」
おずおずと聞いてくる時永に、沢口は眉を寄せる。
「驚きはしたけど引いちゃいねえわ。」
そう答えると、時永はホッとしたような表情になった。
実際、沢口は他人のセクシュアリティに引いたり、それを否定する考えは持っていない。差別心も無いし、沢口自身は今の所、異性が好きで妻がいるが、そういった性志向だって紙一重で変わる事があるのも知っている。事実、過去には沢口にも言い寄る同性は居た。他にも同性愛者や両性愛者の友人知人は何人も居るが、特に意識する事も無く付き合っている。交友関係が広いのは、そういった沢口のキャパの広さを物語っているのかもしれない。
「俺はお前らが幸せにやってくれたら別に誰とくっつこうが何も言わねえよ。」
ただまあ、急で驚きはした、と笑うと、場は一気に和んだ。
「じゃ、まあ…。
お前らの末永い幸せを願って乾杯するか!」
沢口が持ってきたシャンパンを袋から出すと、時永が立ち上がり、グラスを持ってきた。まさか祝杯をあげる事になるとは思わなかったが、来がけに買ってきた自分に内心グッジョブと思う沢口。
その後、テーブルの上には酒だけではなく、皆が買って持ち寄ったり時永や伊坂が作った料理が何品も並んだ。何時もの調子に戻り、和気あいあいと飲んでいた最中、沢口はまた九重に気を留めた。
「コノ、どうした?このキムチ好きじゃん。」
九重は大好物の激辛キムチだけではなく、他の物にも食が進まないようだった。
やはり体調でも悪いのか、と不思議に思って聞いた沢口に、九重の代わりというように國近が答えた。
「徹は最近、辛いものには気をつけてるんだ。」
「え、そうなのか?」
驚いて九重を見る沢口に、國近は美しく微笑んで言った。
「排便時に粘膜がつらいんだって。」
それを聞いた瞬間、九重と時永の顔が赤くなり、伊坂はそんな時永を愛しげに見つめて、國近は九重の尻を労わるように撫でた。
そして、人一倍敏い沢口に、その意味がわからない筈がなかった。
そっかぁ…。ツラいのはその時だけじゃないんだもんな。他にも使わなきゃいけない事があるんだもんな。
そして沢口は、天を仰ぎながら言った。
「友達のそういうの…
知りたくないから。」
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