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19 制服という割り切り (充視点)
しおりを挟む翌朝。
早いとは聞いていたが、陽が昇るには未だ間があるような未明に起こされて、俺はベッドを降りた。
寝惚け眼の俺に、レイス様は着物のように折り畳まれた白い布を渡して来る。
「顔を洗って、此方に着替えてからいらっしゃい。」
「あ、はい…。えーと、昨晩レイス様が行かれた方に?」
「そうです。…道標を灯しておきましょう。」
「?はい。お願いします?」
俺がよくわからないまま頷くと、レイス様は微笑んで、それから未だベッドで寝ている湯木を見て、眉を顰めて舌打ちをした。
…え?舌打ち?今舌打ちした?レイス様が?
俺がレイス様を凝視してしまっていると、それに気づいたレイス様はこっちを向いて、それはそれは柔和に微笑んだ。
「どうしました?おや、髪がそんなに跳ねて。
未だ半刻はありますから急いで湯浴みをしてしまいなさい。」
「…はい。」
…気の所為か。
そうだよな。レイス様みたいな綺麗な人がそんな品の無い事をする訳がないよなな。
俺はぺこりと頭を下げて、部屋の端にあるドアを開けた。そこには洗面台があって、奥にはシャワーもある。湯船は無いから、まあ、シャワールームでよかろ。日常生活に必要な備品もそれなりに揃っていて、そんなに以前居た現代と変わらない生活が出来てるのがありがたい。
歯を磨いてから、頭を触ってみる。
何時もつく辺りに確かに寝癖を確認。
恥ずかしい…これレア様に見られたのか。恥ずかしい。
よし、急いでシャワーしてしまおう。
棚にはタオルは無くて、大きな厚手の柔らかい布が何枚も畳まれて置いてある。タオルというより手拭いに近いだろうか。
俺はガウンのような寝巻きと下着を脱いで、シャワーに向かった。
湯は直ぐに出て、全身を温かく濡らしていく。
シャンプーは無いけど、全身洗えるという石鹸のようなものがある。これで髪も?と、躊躇している暇はない。泡立てて髪を洗い、ついでに肌にも泡を滑らせる。湯で流すと、意外にも髪は引っかかりも縺れもせず、肌もサッパリで快適な洗い心地。どういう洗浄成分なのかわからないが、これは前の世界の物より優秀なのでは…?只のレモン石鹸に見えて恐れていたのが申し訳なくなってきた。
しかもシャワーを上がって全身拭いて、乾いてきた髪もサラサラなのでこれはもう絶対に物凄い方のレモン石鹸だ、と認識を改めた。因みに形状はレモン石鹸でも、香りはフローラルだった。
レイス様が持ってきてくれたのは、レイス様が着ているのと似たような感じの白い衣と金色の腰紐だった。
…イケメン湯木ならともかく、純日本人顔の俺にこんなの絶対似合わないんだが、着ろと言われたからには着ねばなるまい。
制服だと思って割り切る俺。
着た後にシャワールームを出て、鏡の前で腰紐をもたもた結ぶのに悪戦苦闘していたら、何時の間にか起きてきた湯木が後ろに立っているのが鏡越しに見えた。
ニヤニヤしとる…。
「なにそのエッロい服。巻いてやろっか?その紐。」
「…エロくはない。」
人生で着てきたどんな服よりも、露出箇所は無いぞ。
足の指先すら隠れてるじゃないか。
なのに湯木は俺の手から腰紐をするりと抜き取る。それから器用な手付きで俺の腰に巻き付け、きゅっと絞った。
「ほらな。腰の細いのも、尻迄のラインも出る。」
「…誰も男の尻なんかそんな目で見ない。」
「俺は見るけどな。それに…。」
湯木は言いかけて、途中でやめた。何だよ。
湯木は腰紐を巻いて結んではくれたけど、ついでのように腰を両腕で引き寄せられて、尻を撫でられた。
キスをしてこようとするのを左手で湯木の顔を押さえる事で阻止すると、手のひらをベロリと舐められて生温い感触にぞくりとする。
「今からお祈りなんでそういう不埒な事はやめて下さーい。」
漂ってきた淫靡な気配を打ち消す為に、茶化すようにそう言った俺の声は、上ずっていたかもしれない。
顔を背けた俺の横顔を見られている視線を感じる。
「…はいはい、悪かった。」
案外素直に解放されて、安心する俺。
これ以上時間を食う訳にはいかないのだ。鏡に向き直って、ささっと髪の乱れを手櫛で直して、衣のヨレを直して、と…。
「頑張ってこいよ。」
いきなり頬にキスされて、ボッと顔が茹だる。
くそう、油断してた…。
頬を押さえて真っ赤になった俺を見て、湯木はニヤッと笑った。
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