3 / 30
3 ピカピカαご登場
しおりを挟む「咲太さん、おはようございます!」
「……オハヨウゴザイマス。」
千道…今日も朝から目がチカチカする男だ。
俺は会釈をして挨拶を返しつつ、その男を迂回しながら、娘の莉乃の手を引いて園内に入った。
何でコイツは毎朝毎朝此処に立ってんだ。邪魔だな…。
銅像でも目指してんのか。
朝日を浴びてピカピカ輝いてるからそれも良いかもな。
でもその際にはもう少し端に寄せてくれると助かります、と 千道の日に透ける茶色い髪を見ながら思った。
俺は莉乃を保育士さんに預けて、振り向いて手を振る莉乃に手を振り返して踵を返す。
早く家へ帰って仕事だ仕事。
そう思いながら歩く俺の後ろをニコニコしながらついてくる千道。
これも土日以外毎日の事である。暇なのかな。さっさと仕事行け。
「咲太さん、今日も輝いてますね。それにいい匂い~。」
「…抑制剤飲んでますが。」
「俺にはわかるんです。
ほら、運命なので。」
「……ソウデスカア、ヘエー」
「ははっ、咲太さん相変わらずクールですね~」
「……。」
何故コイツは俺の事を名前で呼ぶのだろうか。
不快なのでやめてくれと抗議しても全然意に介されぬまま今に至る。
別に死ぬ訳でもないから名前くらいはもう諦めてやるが、これ以上の譲歩は1ミリもしたくない。
正直、シカトしたい。
したいが、コイツは莉乃の大好きな嵐くんの叔父であり、忙しい兄夫婦の為に毎日のように嵐くんを送り迎えしている感心なヤツなのだ。それを知ってからというもの、無碍に出来なくて最低限の相手はしている。
但し、千道が嵐くんを園近く迄送ってくるのは運転手付きのベントレーなのでちょっとイラッとしているとこもある。
……なんで嵐くん、この園通ってんのかな?マジで。
「咲太さん、今度の土曜って、」
「すみません、ちょっと急ぎますのでこれで。」
余計な話を長々したくないので途中で遮って歩行速度を上げる。
健康の為にと出来るだけ歩くようにしているが、家から園迄は、ほんの徒歩15分程度。早歩きならもう少し早い。
自転車の時ならもっと早い。
莉乃を連れて歩けば、20分以上はかかるけれど。
俺が歩く速度を上げれば、千道は苦笑いしながらも無理には追っては来ない。それも何時もの事だ。
ついてこられて家が知られるのは怖いから、それには正直ホッとしている。
でも背中に視線を感じるから、きっと今も千道は俺の事を見送っているんだろう。
俺が振り返る事はないけれど。
3年以上前、妊娠が発覚し、様々な事を真由に相談した後、腑抜けていた俺に代わりいち早く動いてくれた彼女の尽力により、俺はΩの支援団体に紹介された この街のマンションに引っ越してきた。
子供が産まれてしまってからでは身動きが取りにくくなると言われ、少し無理をしたけれど、結果的にこれが正解だった。
セキュリティがしっかりしていて 管理人常駐の物件だが、国から補助が出ているので家賃負担は5割程。
マンション周辺も死角が少なく、夜でも街灯が明るい。
リモートなので今の所、夜出歩く事は少ないが、不安要素は出来るだけ少なくしたかった俺にはありがたい住環境だ。
Ωとして登録を行い、仕事復帰出来る迄の間は、受けられる公的支援は全て受けながら莉乃を育てた。
Ωが絶滅危惧種に近い存在で、且つその特性により社会的弱者であり、今ではα以上に国家に庇護されていた事を、俺は自分がこの立場に置かれる迄知らなかった。
夜中の数時間おきのミルク作りにノイローゼ気味になった事もあるが、本当に限界になりかけたら助けてくれる友人(真由)達がいた事が、心の支えになった。
愛せないかもしれないと思っていた我が子に、愛情がわいたと自覚出来た時、本当に嬉しかった。
仕事復帰して、莉乃を預ける事になった保育園に送り迎えをしだしてから間もなく、同じように嵐くんを迎えに来ていた千道と出会った。
すらりと高い身長。
長い手足にはしっかりした筋肉がついているのがスーツ越しにもわかる。整い過ぎた彫りの深い顔立ちも相まって、外国人のモデルみたいだなあ、というのが率直な感想。
挨拶されて、随分若くて綺麗なイケメンパパだと思って少しの間見てしまったのが悪かったのかもしれない。
次の瞬間には両手を取られて握られ、顔をじっと見られて、
「番を前提にお付き合いして下さい。」
と言われた。
ゾゾゾゾゾゾゾッ
握られた手から始まり全身に鳥肌が立ち、ヒイッ、という悲鳴と共に気を失って、再び気がついたのは数分後。
目を開けると、女性の保育士の先生数人が俺を囲んで呼び掛けてくれていた。
1人はスマホを持ち、救急車を呼ぼうとしていたようだったが、俺が直ぐに目を覚ました事で一旦保留。
莉乃は突然俺が倒れた事に驚いたのか、泣きじゃくっていたし、それにつられた他の子供達数人も泣いてるし、カオス。
元凶である千道はと目だけを動かして探すと、少し離れた所で、叱られた犬のようにしょんぼりと済まなそうに此方を見ていて、俺が目を開けた事でホッとしたような表情になった。
だからその時に言ったのだ。
「この通り、俺は男性を受け付けないんです。
申し訳ありませんが。」
そう言うと、その時千道は確かに頷いたのだ。
だから納得してくれたものだと安心していた。
ところがそれからも千道は、俺と会う度に挨拶をしてきて、何かと会話をしたがった。
保育士の先生方に厳重注意されていた癖に懲りないヤツだ。
何時も当たり障りない話題だったからそれなりに付き合っていたら、趣味や好きなものを聞かれたり、最近は休日の予定を探られたりして、とても困惑している。
色良い返事ひとつした事すら無いのに、何故なんだ。
諦めたんじゃなかったのか。
只、倒れた日から一度も触れてこようとはしないので、学習能力はあるようだ。
…まあ、考えてみれば、出会ったばかりの人間に前触れも無く触れた事自体が非常識な事で、これが普通だと思わなくもないが。
そんな訳で、一定の距離を保ってはくれはするが、毎日飽きず会話という接触を図ってくる千道に 俺はストレスを感じている。
そして、Ωというには美しくも可愛らしくも無い普通の男の俺に交際を申し込む千道の事を、薄気味悪くも思っている。
歳上、コブ付き、平凡、極めつけは男性嫌悪。
千道はそんな俺の何を見て、尚も固執するんだろうか。
俺に乱暴したヤツみたいに、嫌がる男を組み敷きたい性癖でもあるんだろうか。
αの考える事はわからない。
56
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ファントムペイン
粒豆
BL
事故で手足を失ってから、恋人・夜鷹は人が変わってしまった。
理不尽に怒鳴り、暴言を吐くようになった。
主人公の燕は、そんな夜鷹と共に暮らし、世話を焼く。
手足を失い、攻撃的になった夜鷹の世話をするのは決して楽ではなかった……
手足を失った恋人との生活。鬱系BL。
※四肢欠損などの特殊な表現を含みます。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
春を拒む【完結】
璃々丸
BL
日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。
「ケイト君を解放してあげてください!」
大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。
ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。
環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』
そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。
オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。
不定期更新になります。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる