男嫌いのシングルマザーの俺VS絶対俺を番にしたい男

Q矢(Q.➽)

文字の大きさ
8 / 30

8 気づかれていた事を知る

しおりを挟む



「やっぱり先輩、Ωだったんですね。」

真田は見た事もないような笑みを作って、俺に言った。
その言葉を聞いた瞬間、俺は自分の周囲が真っ暗になったのを感じた。

何故、何故、お前が。
何故、真田がそれを。


「先輩、何時頃からかいい匂いさせてたもんね。ホント、毎日毎日、こっちの気が狂いそうになるくらい。」

身動きが取れなかった。
知られていたのか。
じゃあ、会社の他の人達にも…?
足元がグラつく。

「大丈夫ですよ。
多分ね、俺以外、気づいてませんから。」

俺の考えている事を察したように真田は言った。



「絶対、連絡下さいね。」

真田は俺のスマホに自分の連絡先を半ば強引に登録させて、また笑った。

「お連れの人、αですね。何だか見た事あるなあ。」

真田は少し離れた場所にいる千道に目をやり、そう言った。

「でも、深い関係じゃない。」

「さな…さな、だ…。」

何故わかるんだ、お前には何が見えてるんだ。

「匂いが全然付いてないもんなあ…。」

「真田、お前…さっきから、何を…。」
 
舌が縺れるのを何とか動かして、やっとまともな語彙を発した。
ある可能性が脳内に導き出されつつある。でも否定したいから、決定的な言葉にするのを避けた自分の往生際の悪さにうんざりする。

けれど、それは至極あっさりと真田によって肯定された。


「わかるに決まってるでしょう。
俺も、αなんですから。」

「お前…βだって…、」

未練がましく食い下がる俺に真田は言った。

「便宜上ですよ。
でも新入社員がほんの数年で本社勤務になる時点で、皆察するでしょうけどね。」

「…」

それは、俺も引っかかっていた。本社役員の親族なのかとか。
でも、真田は確かに優秀だった。
教えた事は直ぐ覚えたし、吸収が速かった。

それが全て、αの特性故であったというのなら、今なら納得出来る。

……つまり、俺は…自分にとって、最も危険な相手と、最も近しく接していたという事なのか。


全身が総毛立ち、体が小刻みに震えた。

異変を感じたのか、千道が立ち上がった気配がした。


「おっ、と。
あのα、近しくはないけど先輩に好意を持ってるみたいですね。

…無駄なのに。」

頭頂から脂汗が流れ出すのを感じる。
額に、頬に、顎に、首筋に、背中に。

真田は俺の顎に滴り出した汗を右手の人差し指の腹に取り、それをぺろりと舐めた。

「やっぱり先輩が一番美味い。」

もう俺は卒倒しそうだった。


「先輩、連絡、絶対下さいね。
あの余計なコブは絶対寄せ付けないように。」

千道が動いた気配と同時に、真田はにこやかに手を振りながら去っていった。

俺を囲っていた重圧感はほんの数秒だった筈だが、俺は酷く消耗していた。


「大丈夫ですか?
座りましょう、咲太さん。」

俺の様子が余程おかしかったのか、駆け寄ってきた千道は慌てたようにそう言った。
多分、肩を貸したり支えてくれたいんだろうが、俺に気を使って、触れないんだろう。
でも俺はそれどころではなかった。


「すいません、少し…掴まって良いですか?」

「!!は、はい!!」

千道の上腕二頭筋すご、と頭の何処かで思いながら、俺は子供達の待つベンチ迄歩いた。

「だいじょうぶ?パパ、どっかいたい?」

暫く座っていると、莉乃が心配そうに覗き込んできた。
この子は本当に賢いな。
俺が戻って直ぐに騒いだりせず、少し落ち着くのを見計らって声を掛けてきた。

「大丈夫。もう収まってきたよ。」

これは本当だ。

千道が近くの自販機で買って来てくれた水を少しずつ飲んで、座っていたら先程の重苦しい何かは徐々に霧散した。

アレは、何だったんだ。

横で嵐くんを膝に乗せて、俺を気遣わしげに見ている千道が、

「車に戻りますか?猫ランは、また来たら良いでしょうし…。」

と言い出し、俺は慌てた。
子供達がこれだけ楽しみにしているのに俺のせいで途中離脱だなんて!

「いや、そんな。大丈夫です!」

そう答えた俺に、千道は膝の上の嵐くんを無言で指差して、苦笑いした。
嵐くんは寝てしまっていた。

「3歳児ですからね。
幾つかアトラクションこなして、ご飯食べたら眠いんですよ。多分、莉乃ちゃんも。」

「…あ…。」

確かにそうだな。
お昼寝だって、そろそろしてる頃だろうし。

「だから、ね。1日で無理するより、何度も来る方が、また次回の楽しみもあるでしょ。」

千道はそう言って、首を傾げた。少しドキッとする。
…この人って、たまにこういう仕草を自然にするんだよな…。
邪気の無い表情とか、そういうのがしっくりくるのは育ちのせいなのか、本人の資質なのか。

そういうのを見ると、憎めないなと思ってしまう。

そして、こういう人に、男だからと言うだけで変に構えてしまっていた俺の方が、偏見に満ちているんだと思い知らされる。


「そう、ですね。
そんなに遠い訳でもないですもんね。」
 
俺がそう言いながら莉乃の様子を見ると、莉乃は逆に嬉しそうだった。

「またくるの?
ならもうきょうはねてもいい?」

「…そだな。今日はもう帰ろっか。」

帰りの車内で俺と千道は、3歳児を連れてフルは無理、と結論を出し、次回からも午前か午後どちらかだけの予定を組む事で落ち着いた。
遠方から来る他所のファミリーなら、滞在日数の予定などもあり 無理してでも遊ぶんだろうが、俺や千道は幸いにもそう遠くない場所に住んでいる。

「また来月あたり、予定組みましょう。」

「そうですね。」


それから俺と莉乃は、行きで迎えに来てもらったのと同じ、マンション前で降ろしてもらい、今日のお礼を言って別れた。
千道はずっと俺を心配してくれていたので、何だか申し訳無い。
薄々わかってはいたんだけど、彼はなんだかすごく優しい人だ。
毛嫌いして、申し訳なかったな…。俺はこれ迄の自分の態度を反省した。

部屋に戻って、抱えていた莉乃をソファに降ろして寝かせて、その傍に腰を下ろした。
一気に疲労が来る。
数時間しか動いてないのに体力不足だろうか。デスクワークだから体が鈍るんだよな、と反省する。そして思い出した。

…さっき、千道の腕、凄かったな…。

そして考えた。

俺、今日 自分から千道に触れたのに、平気だった。
千道に触れられた時も、平気だった。

千道には、拒否反応が出なくなっている…?

そう考えて、その後、再会した真田の事を考えて、ズンっと全身が重くなるのを感じた。

真田は、αだった。
俺が未だ自覚していなかった時期に、既に俺のバース性を認識していた。
それが、何を指すのか。

スマホを鞄から出して、眺めた。
真田の連絡先を入れられてしまった。
しなければ、いけないんだろうか、連絡…。

あんなにウマがあった相手だったのに、今日は何だか全く知らない相手のように感じた。
あの頃とは別人のように、恐ろしいと思った。

いや、もしかして、あの頃からあんな奴だったのか?




俺は何だかとても大事な事を、見落としている気がする。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

処理中です...