男嫌いのシングルマザーの俺VS絶対俺を番にしたい男

Q矢(Q.➽)

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19 短い眠りは突如破られる

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ここ暫く眠りが浅い。

そう思いながら俺は寝返りをうった。
このまま睡眠不足が続けば、体が参ってしまうのがわかるから、本当に寝たい。
なのに、騒ぐ胸がそれを許さない。本当に困るのだ、これでは。
しっかりしなければ。
俺は莉乃と、莉乃との生活を守らなければいけないんだから。






振動が伝わってきた。

やっとうつうつと眠りに落ちかけた時の事だ。

こんな時間にスマホを鳴らす知人も友人も俺にはいない。
夕方の事があるから、もしやと一瞬で脳が覚醒した。

枕元に置いていたスマホの画面が光っている。

表示されていたのは千道の名だった。


「はい、」


俺の声は震えていなかっただろうか。



『夜分に申し訳ありません、起こしてしまいましたよね。

千道です。』


やや疲れを感じるが、その声は間違い無く千道本人のもので、俺は全身から緊張が一気に抜けた。



「…何か、あったのかと…。」

やっとそれだけを絞り出して、答えを待つ。
千道は申し訳無さそうに謝罪を繰り返してから、彼の現状を話し出した。


『兄が、事故に遭いまして…。』

「えっ、事故?!」

ギョッとした。
確か嵐くんの両親、千道の兄夫婦は海外に住んでいた筈だ。

『玉突き事故に巻き込まれたんです。命に別状は無いんですが、怪我で手術にはなったので未だ入院中で。』

「た、大変じゃないか…。」

『最初の報を聞いた時には連絡をくれた義兄にも正確な手術の状況がわからなかったらしくて。
なので、とにかく急いで嵐を連れてシンガポールへ発った次第で…。あ、今は2人共そこにいるんですけど…。』

「そうだったんだ。お兄さん、大事に至らなくて良かった…。」

ホッとした。
そうか、どの程度の規模の事故だったのかはわからないが とにかく嵐くんのお父さんは無事らしい。

『ありがとうございます。
兄の事は良かったんですが、兄の担っていた事を義兄と俺で処理しなければならなくなってて、ようやく目処が立った所なんです。』

「そう…。大変だったな。体、大丈夫か?」

『少しキツかったですけど、俺より嵐に寂しい思いをさせてしまって。
幼いながらに周囲の状況が普通ではないとわかってるみたいで、我儘も言わずにいてくれるんですけど…。』

「えらいな、嵐くん。強い子だ。」

『それがまた、不憫で。
一緒に来た叔父が付いてくれてはいるんですが…。』

そう言って千道は言葉を詰まらせた。
少しの間、沈黙が流れた。



「君が元気で、良かった。」

口から出たのはそんな普通の言葉で、もう少し気の利いた言葉が無かったのかと歯噛みした。
俺って、本当こういう時、てんで駄目なんだ。


『…元気じゃないです。』

ややあって、そんな返事を返してくる千道。

そうか。そうだよな、元気って事も無いか。
お兄さんは多忙な人だと聞くし、千道自身の仕事に加えてそれを半分でも担うのは、かなりの負担だろう。

『電話くらいしようと思っていたのに、毎日疲れてしまって、起きてる時はとにかく余裕が無くて、横になると直ぐに意識が落ちてしまって。

ご心配おかけして、申し訳ありません。』

「そんな…うん、まあ…突然だったからそりゃ心配はしたけど。」

だけど、そんな状況を聞いてしまったら、恨み言なんか言えない。
大体、別に…そんなに、密に連絡取り合うような仲でも無いんだし。
それなのに俺だけこんなにヤキモキしてテンパって、恥ずかしい…。そう思って、気を取り直そうとしたら、またそこで俺を突き崩すような事を言う。




『会いたいです。』

ダイレクトな言葉にドキリとする。
切実さを滲ませた声に、心が跳ねた。
なのに俺の返事を待たず、千道は続ける。


『何時も短い夢を見るんです。本当に短い。
保育園のお迎えに来る咲太さんと話してる夢です。
ほんの数分で、あまりにも直ぐに終わっちゃうから 寂しい。』

「…うん。」

『もっとたくさん、話したいって思いながら、夢から覚めた後に後悔するんです。』

そんな事を言いながら あはは、と電話の向こうで小さく笑う千道に、俺は胸を掻き毟りたくなる程切なくなり、そして後悔した。

俺が大人げなかったばっかりに、辛い時でさえ思い出させるのがそんな素っ気ない記憶だなんて。
涙が滲んでくる。

涙が下瞼から零れ落ちる前に。



「…たくさん、話をしよう。」

『…え、』

「君が帰ってきたら、たくさん話をしよう。たくさん、一緒にいよう。

この先何があっても、夢に見られる事が増えるように。
夢見ている時間が足りなくなるくらい。」

俺は一息にそう告げた。

電話の向こうの千道が、息を飲んだのが聴こえた。



『…一生、一緒にいてくれませんか。』

数十秒の間の後、聴こえてきた千道の声は涙混じりだと思われる震え声で、俺は、全く極端な奴だなあ、と笑ってしまった。



それが、俺と千道が やっと始まった夜だった。





















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