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21 千道、あざとさを発揮する
しおりを挟む千道は帰国しても少しの間とても多忙のようだった。
しかし嵐くんの園の送り迎えは相変わらずするようになって、時々由人さんが来る時もあるが、そんな時は前もってLIMEにスタンプが来た。
夕方は会えるからという文付きで。
無事でいるのさえわかれば俺は毎日会えなくても構わないんだぞ、と言ってみたけれど、俺は会いたいですと涙目で返されて、心が跳ねてしまった。
可愛い。
俺って歳下の男に弱いんだろうか。
夕方の莉乃のお迎えで会える時は、千道も小一時間程予定を空けてくるので、車で送ってもらうついでに隣街のスーパー迄買い物に連れて行ってもらう事もある。
α様を夕方の特売品の列に並ばせるのは気が引けるが、正直個数ゲットと荷物持ち助かる。
千道も、最初の内は訳が分からなかったようだが最近は慣れてきて、楽しんでいる様子だ。
運転手をしてくれているダンディな千道の叔父さんとも親しくなって、買い物の間、莉乃と嵐くんを見ていて貰えるから助かる。
そんな色気もへったくれもない買い物デートだけど、帰りの車内でずっと手を繋いでいられるのは嬉しい。
莉乃がそれを見て、なかよし!と言った時には若干ドキドキしたけれど、どうやら前に俺にツンケンされていたのを見て可哀想に思っていたらしく、よかったねと千道に肩ポンしていた。
幼女に哀れまれて気の毒にな、と思って千道を見たら、すごく嬉しそうに頷いて、ありがとう!と言っていたので…本人が良いなら、良いか…。
そうこうしてる内に、千道の帰国から1ヶ月以上は経過し、その間に帰国して転院していたお兄さんが起き上がってリハビリも順調だと聞かされた。
実は一般的には一生車椅子生活になったかもしれない大怪我だったと言うから、流石と言うか…αの体の強靭さと回復力は凄まじい。
何れはまた国外に出る事になるんだろうが、現段階では一先ず心身共に回復に努める為の帰国。
家族一緒にいられるのが嬉しいのか、文字通り怪我の功名かなあ、と浮かれていると聞いて、やっぱり千道の血筋だなと思う。
そんな日々の、ある朝の事だった。
「今週末からの連休に、別荘に行こうと思ってるんですけど…。」
「へえ、良いね。流石千道んち。」
「近くに動物園とかもあるんです。だから義兄と嵐が行くのに便乗しようかと。
向こうに常駐の管理人はいますが、今回は一応シッターさんも連れて行きます。」
「動物園かあ。凄いな、そんなのが近くにあるなんて。
さす千。」
すげーな。何処だろ。
那須とか?
「いやあの…行きませんか?一緒に。
莉乃ちゃんも一緒だと、嵐も喜ぶし。」
「……え、でも別荘って、泊まり…。」
「…はい、泊まり…。」
泊まりと聞くと急にあらぬ想像をしてしまうのは何故だろうな。千道もやけにもじもじしてるし。
俺達2人だけって話じゃなくて、子供連れで、他に人もいるのに。欲求不満なのか俺は。
しかし流石に家族の中にいきなり俺達親子が混ざるのも図々しいだろうと思い、今回は遠慮しようかと口を開きかけた時、千道が僅かに早く言った。
目が潤んで眉を八の字に下げるという技迄使って俺の前でお願いポーズをしてくる。
誘ってる方がお願いって、何だよ。可愛い。
「…お、温泉も引いてますっ!!」
「お、温泉…だと…?!」
「近くに良い源泉があってっ!!」
「よろしく!!」
俺は温泉と千道のあざとさに負けた。
「何泊します?!」
「何泊…。」
「ご都合に合わせますよ。
嵐たちは連休いっぱいいるかもしれません。
通信環境は完備しているので義兄も何かあればあちらで対処すると言ってましたし、咲太さんのお仕事が急遽入っても、大丈夫じゃないかとは思いますけど…。
でも、咲太さんのご都合に合わせて俺は帰ると言ってあるので。」
「そんな…悪い。」
「悪くないです。
数日で帰るならそれでも良いし、期間いっぱいいたいならそれでも良いですし。
…実はその直ぐ近くに俺の専用コテージもあるので…そこも連れていきたいんですよね。」
「…専用コテージ?」
「何時か、大事な人が出来た時の為にって思って、俺の趣味で作った小さい家です。」
それを聞いて、頬が熱っぽくなる。
大事な人。
そっか。俺と千道は付き合ってるんだもんな。
俺が子持ちだから、デートとか行けないし千道も忙しかったから…なかなか2人になれる機会が無かったけど、付き合ってる。なら千道にとって俺は大事な人間だし、俺にだって。
変異Ωでトラウマのせいで性に淡白になってた俺と違って、千道は俺より若くて、しかも、αなんだから…。
我慢、させてるんだよな、きっと。
赤面してしまう。
けど、男との経験なんて、襲われた時の事しか無いし、いくらΩの体になってるからってちゃんと千道を受け入れられるものかと不安でもある。
…でも、好きだ。
既に今の俺には、こんなに信じられる可愛い奴、離したくないという欲が出てきている。
日頃のお日さまみたいな王子様は、その瞳に性欲を宿した時、どんな表情で どんな手つきで俺に触れて来るんだろうか。
それを想像して、あらぬ部分が濡れたのを感じて羞恥に尻と太腿をモゾつかせる。
気づかれて、ないよな。
「……咲太さん、そんなにいい匂い、させないで…。
朝っぱらから誘惑されると困っちゃいます。
車で送りますね、危ないから。」
「…すまない。」
バッチリ気づかれていた。
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