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人は早々、変わらない。(凛side)
しおりを挟む篠井と再び付き合い始めた当初、人は変わるんだなあと俺は思っていた。
最初の1ヶ月、篠井には全く女の影は無かったからだ。
学生時代、あれだけ派手に女を誑していた奴が…少しは大人になったのか、と俺は篠井の成長に感心していた。
かく言う俺も、篠井は一応名前こそは初彼だったものの、実際にアレコレしたのは大学2年の頃に付き合った2番目の彼氏相手で、そいつの浮気で振った後に付き合ったのも男だったし、社会人になってからは2人の彼女と付き合った。
人並みにやる事はやってるので今更純情ぶるつもりもないから2ヶ月目にはセックスした。
篠井は上手かった。
何なら、大学時代の元彼達より、こないだ迄付き合っていた元カノ達より、フェラだって上手かった。
俺は最初の一晩で後ろを篠井の形に慣らされたし、背中一面を鬱血痕だらけにされて、本当に篠井は俺好きなんだな、と再確認出来たから少し嬉しかった。
そりゃ俺だって、イケメンが嫌いな訳では無いから篠井みたいな芸能人レベルのイケメンに好かれて嬉しくない筈が無い。
ムカつくのは平気で浮気出来るその所業だったんだから。
でも今考えたら、背中いっぱいのキスマって普通にひく。
独占欲、所有欲、執着心。
それらのあらわれがあの真っ赤になった背中だったのだと思うと、ゾクッとする。
それだけ執着していたにも関わらず、再び篠井の浮気が始まったのは、初めてセックスした直後からだった。
浮気に気づいた当初は、学生時代に逃した俺を意地でも抱きたかっただけかあ、と思った。
抱けた直後に始まったって事は、もう気が済んだって事に違いない。なら、今なら別れられるだろうと踏んで、奴が部屋に来た夜、別れ話をした。
泣いて土下座された。
「凛くんが初めてじゃなかったのがショックだっただけなんだ。別れたくなんてないよ、ごめんなさい。」
「は?お前の経験人数に比べりゃ可愛いもんだと思うんだけど。
つか、お前、何?
俺のせいにする訳?
俺はその時の自分の恋人とヤってただけで、お前みたいに浮気して経験した訳じゃないんですけど?」
俺が誰かと付き合っちゃ駄目なんかよ。
セックスしてちゃいけませんか?
別れた男に操を立てなきゃいけない謂れとかねえよな?
「お前は何様なんだよ。」
俺は静かに篠井に言った。
篠井はずっと泣いていた。
いや俺が悪いみたいだから泣くな。
「ごめん凛くん、そんなつもりじゃないんだ。俺、虫が良いよね、ごめん。
俺が全部悪いし、別れたくない。凛くんが誰と付き合ってても、何も言える立場じゃないのわかってるから…。」
「当たり前だわ。
自分が下半身に負けてやった浮気を俺や誰かのせいにすんじゃねえわ。胸糞悪ぃ。」
篠井は大きな体を縮こまらせて、ごめんごめんと謝りながら、
「それでも信じて欲しいんだけど、セックス迄はしてないんだ。」
とか抜かすので、反省が微塵も感じられないと思った俺は、篠井を部屋から叩き出し、暫く顔を見せるなと言い捨てて、その後1週間連絡を断った。
1週間後、会社から帰るとげっそり窶れた篠井が部屋の前に泣きながら座り込んでいて、俺は天を仰ぎながら諦め、篠井を部屋に入れたのだった。
篠井は事ある毎に俺に好きだと言って、何かと尽くしてくれた。
食事を作れば美味いし、掃除や洗濯だってしてくれる。
俺を抱く時だって、丁寧に壊れ物を扱うみたいに慣らしながら抱く。
器用なんだろう。
そうして篠井の愛撫に慣れた頃、また浮気が発覚した。
それも、俺んちの近所のコンビニのバイトの娘。
「お前は病気か何かか?」
俺はコンビニ裏のその現場で篠井を蹴り倒しながら見下ろした。
これは不味いと思ったのか、バイトの娘はそそくさと店内のバックヤードに入っていき、後には俺と篠井が残された。
「別れる。お前の私物は今度ゴミ袋に入れて表に出しとくから勝手に持って帰れ。」
俺がそう言って帰ろうとしたら、足に縋りつかれた。
俺も別に柄が小さい訳じゃないが、篠井は上背もあるし本気で纏わりつかれると重くて足が進められない。
「ごめんなさい、ごめんなさい、魔が差しただけなんだ、別れたくない!」
店裏からこんなでかい声がしたからか、人がちらほら見に来て、このままではギャラリーが出来てしまう。
うんざりしながら部屋迄移動し、篠井の横っ面を叩いて、次は無いと許した。
あの娘はバイト中で、少し外に出ていただけだろうから長い時間一緒にいた訳でもないだろう。
本当にはずみなんだと言う篠井の言葉を信じてやる事にした。
しかし喉元過ぎれば熱さを忘れるを地で行きたいのか何かに挑戦中なのか、篠井はその後3回、似たような事を繰り返した。
そして、今日だ。
カラオケルームの中でアイメイクの濃いギャルとキスをしている篠井を見た時、今迄の仏心は無駄だった事を悟った。
(此奴は一生、変わらねえ。)
人の性癖ってのは死ぬ迄変わらないと聞いた事がある。
それが本当かどうかはわからないが、少なくとも此奴は変わらない気がする。
て事は、此奴と付き合ってる限り、俺はこのイライラとストレスから解放される事はねえって事だよな。
「もう うんざりだ。」
そう言った俺が責められる謂れは無い筈だ。
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