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3 初めてのお水面接
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蛍がスマホを使って募集の検索をする時、それがバイトであろうと正社員であろうと、まずは学歴不問、次いで"オメガ可"のワードを入れる。だが今回は、新たに"水商売"のワードを入れてみた。すると、いくつかヒットした中に、目を引く条件のものがあった。
「ええと、18~25歳の容姿端麗な男性、Ω可、ソフトドリンクを飲みながらお客さんとお話するだけで最低時給5千円から。無理なノルマありません、おさわりありません、客層は選ばれし紳士のみ......なるほど?」
読み上げながらふんふんと頷く蛍。20歳だから年齢はバッチリ。容姿端麗、これもバッチリ。意外に思われるかもしれないが、実は蛍の容姿に対する自己肯定感はかなり高かった。
幼い頃から「可愛い」「カッコいい」とべた褒めされて生きてきた。亡き父がかなりイケメンであり、母も儚げ美人である為、その間に生まれた自分が不細工な訳が無いという圧倒的信念がある。ゆえに、己が容姿端麗という条件をクリアしている事を疑いもしていないのだ。
( ソフトドリンクってお茶とかジュースだよな。それ飲みながら話すだけでそんなにお金稼げるもんなの?高い酒とか飲まなくて良いのかな…)
成人してからも、まだ一度も酒を出す店には行った事がない蛍には、それらの店のシステムなどまったくわからない。この条件は怪しいのだろうか。いや、女性キャストだけの募集の店でもそれくらいの時給を謳っている店はいくつもあるし、これは普通なのかもしれない。しかし、容姿端麗な"男性"のみ募集というのが少し気になる。
(ホストクラブとか?)
しかし、募集要項の何処にもそれらしき表記は無い。そもそも、『おさわりありません』とは何なのか?客層も『男性客』と明記されてるし…。
「まあ、こういう店もあるのかな?令和だし」
令和だし。
最も気にしなければならない部分を雑にスルーする蛍。こういう、顔に似合わない大雑…思い切りの良さは亡き父親譲りである。そのまま条件面や店の紹介文に目を通していき、チャットで面接予約を取った。
そして、2日後。
蛍はとある繁華街の中の、ある場所に居た。
電車を降りて地図アプリの案内を見ながら店に辿り着き、入り口を掃き掃除していた男性スタッフに無人の客席に案内されてから、かれこれ5分は経っている。
金を基調とした壁は鏡張り。その壁に沿うように並んだクラブソファやクッションは高級感のある赤。姿が映り込みそうな四角い黒テーブル。天井には大きなシャンデリア。此処は所謂、夜のお店である。
そんな夜のお店の店内の隅っこのソファに、緊張でカチコチになって座っている蛍はまるで置物の人形のようだ。
ここは『nobilis』という店である。あの面接予約をした怪しげな店だ。あの後チャットで質問したところによれば、『nobilis』はキャバクラとホストクラブと高級クラブを足して3で割ったような店だとの事。そのどれにも行った事のない蛍の想像力には限界があり、とにかく大人のお店なんだよな?というイメージに少し尻込みした。しかし、新たな就職先がいつ決まるかもわからない中、怖いなどと言ってはいられない。とにかく、次の再就職先が決まるまでの繋ぎを見つけなければならなかった。
初めて入る夜の店に緊張しきりの蛍は落ち着かず、けれど好奇心いっぱいの視線で店内を見回していた。どこもかしこも金が掛かっていそうに見えて目がチカチカする。
(すっごい。なってやろう系の漫画とかアニメに出てくる貴族の屋敷内みたい)
豪華な内装にボーッと見蕩れていると、急に近くで誰かの声がした。
「お待たせして申し訳ないね。初めまして、店長の林です」
声の主は、この店の店長を名乗る中年男性だった。蛍は男性に向かって、ピシッと音のしそうな90°の礼をしながら挨拶をする。
「いえ、大丈夫です!白川 蛍(しらかわ けい)、20歳です!本日はよろしくお願いします!」
「おー、元気だねぇ、よろしくね」
林店長は、ニコニコしながら蛍に座るよう手でゼスチャーをして、自分も座った。彼は少しふくよかで、パッと見その辺のサラリーマンっぽい容姿をしていて優しげな雰囲気のお父さんという印象だ。水商売に従事する人々に何となく派手で怖そうというイメージを持っていた蛍は、良い意味で少し肩透かしを食らったような気持ちになった。
「白川 蛍君ね。…蛍君はオメガって事だっけ…」
「そうです!」
「そっかそっか~。えーと、パートナーはまだ?」
「はいっ、母と2人暮らしです!」
左手に携えていた黒いクリップボードに挟んだ用紙にボールペンでさらさら何かを書いていく林店長。チャットでは名前と年齢、居住地区くらいしか聞かれなかったから、聞き取った情報を記入しているんだろうか、と思いながらそれを眺める蛍。
林店長は人当たりの良い口調で、更にいくつかの質問をした後、
「で、いつから出られる?」
と、蛍に聞いた。
「ええと、18~25歳の容姿端麗な男性、Ω可、ソフトドリンクを飲みながらお客さんとお話するだけで最低時給5千円から。無理なノルマありません、おさわりありません、客層は選ばれし紳士のみ......なるほど?」
読み上げながらふんふんと頷く蛍。20歳だから年齢はバッチリ。容姿端麗、これもバッチリ。意外に思われるかもしれないが、実は蛍の容姿に対する自己肯定感はかなり高かった。
幼い頃から「可愛い」「カッコいい」とべた褒めされて生きてきた。亡き父がかなりイケメンであり、母も儚げ美人である為、その間に生まれた自分が不細工な訳が無いという圧倒的信念がある。ゆえに、己が容姿端麗という条件をクリアしている事を疑いもしていないのだ。
( ソフトドリンクってお茶とかジュースだよな。それ飲みながら話すだけでそんなにお金稼げるもんなの?高い酒とか飲まなくて良いのかな…)
成人してからも、まだ一度も酒を出す店には行った事がない蛍には、それらの店のシステムなどまったくわからない。この条件は怪しいのだろうか。いや、女性キャストだけの募集の店でもそれくらいの時給を謳っている店はいくつもあるし、これは普通なのかもしれない。しかし、容姿端麗な"男性"のみ募集というのが少し気になる。
(ホストクラブとか?)
しかし、募集要項の何処にもそれらしき表記は無い。そもそも、『おさわりありません』とは何なのか?客層も『男性客』と明記されてるし…。
「まあ、こういう店もあるのかな?令和だし」
令和だし。
最も気にしなければならない部分を雑にスルーする蛍。こういう、顔に似合わない大雑…思い切りの良さは亡き父親譲りである。そのまま条件面や店の紹介文に目を通していき、チャットで面接予約を取った。
そして、2日後。
蛍はとある繁華街の中の、ある場所に居た。
電車を降りて地図アプリの案内を見ながら店に辿り着き、入り口を掃き掃除していた男性スタッフに無人の客席に案内されてから、かれこれ5分は経っている。
金を基調とした壁は鏡張り。その壁に沿うように並んだクラブソファやクッションは高級感のある赤。姿が映り込みそうな四角い黒テーブル。天井には大きなシャンデリア。此処は所謂、夜のお店である。
そんな夜のお店の店内の隅っこのソファに、緊張でカチコチになって座っている蛍はまるで置物の人形のようだ。
ここは『nobilis』という店である。あの面接予約をした怪しげな店だ。あの後チャットで質問したところによれば、『nobilis』はキャバクラとホストクラブと高級クラブを足して3で割ったような店だとの事。そのどれにも行った事のない蛍の想像力には限界があり、とにかく大人のお店なんだよな?というイメージに少し尻込みした。しかし、新たな就職先がいつ決まるかもわからない中、怖いなどと言ってはいられない。とにかく、次の再就職先が決まるまでの繋ぎを見つけなければならなかった。
初めて入る夜の店に緊張しきりの蛍は落ち着かず、けれど好奇心いっぱいの視線で店内を見回していた。どこもかしこも金が掛かっていそうに見えて目がチカチカする。
(すっごい。なってやろう系の漫画とかアニメに出てくる貴族の屋敷内みたい)
豪華な内装にボーッと見蕩れていると、急に近くで誰かの声がした。
「お待たせして申し訳ないね。初めまして、店長の林です」
声の主は、この店の店長を名乗る中年男性だった。蛍は男性に向かって、ピシッと音のしそうな90°の礼をしながら挨拶をする。
「いえ、大丈夫です!白川 蛍(しらかわ けい)、20歳です!本日はよろしくお願いします!」
「おー、元気だねぇ、よろしくね」
林店長は、ニコニコしながら蛍に座るよう手でゼスチャーをして、自分も座った。彼は少しふくよかで、パッと見その辺のサラリーマンっぽい容姿をしていて優しげな雰囲気のお父さんという印象だ。水商売に従事する人々に何となく派手で怖そうというイメージを持っていた蛍は、良い意味で少し肩透かしを食らったような気持ちになった。
「白川 蛍君ね。…蛍君はオメガって事だっけ…」
「そうです!」
「そっかそっか~。えーと、パートナーはまだ?」
「はいっ、母と2人暮らしです!」
左手に携えていた黒いクリップボードに挟んだ用紙にボールペンでさらさら何かを書いていく林店長。チャットでは名前と年齢、居住地区くらいしか聞かれなかったから、聞き取った情報を記入しているんだろうか、と思いながらそれを眺める蛍。
林店長は人当たりの良い口調で、更にいくつかの質問をした後、
「で、いつから出られる?」
と、蛍に聞いた。
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