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24 村上 和志は膝枕を堪能する
しおりを挟む「義希さん、明日、母の墓参りに一緒に来てくれませんか。」
南井の膝枕を堪能している最中の村上からそんな事を言われたのは、指輪を購入しに行ってから二週間ばかり経った日の事だった。
毎週末に南井のマンションに泊まりに来るようになった村上。未だ大学生の村上と番になった後の生活をどうするのか、2人で相談しながら過ごしている。
南井の住んでいるマンションは単身者向けの賃貸なので、番契約が成立し、番婚をしたら引っ越さなければならない。新たに家賃を払うなら、いっそ買うか…という気になっている南井と、南井にだけ負担をかけたくはない村上。
南井としては、どうせ村上も数年の内に社会人になるし働き出すのだから、それ迄は自分が全面的に支えたって構わないと考えている。こう言っては何だが、実際、親子ほど年齢差もあるし、南井は年齢の割りに稼いでいる。
それに、自分のようなアラフォーと一緒になる若い村上のメリットなんて、経済面くらいしかないのでは、とも思う。卑屈になっている訳ではなく、現実問題としてそう思う。
だからそれを村上に伝えたのだが、当の村上には納得いかない顔をされてしまった。若くてもαの村上には、やっと口説き落とした南井におんぶにだっこ状態になるのは耐えられないらしい。
村上は、身分としては学生ではあるけれど、祖父母や父親は健在で経済的に困窮している訳ではないし、金銭的は負担は出来ると考えている。だが南井は、番になるならば2人でやっていくのが理想だと主張する。
そんなこんなで、早目に決めていかねばならない事が途中で暗礁に乗り上げていた。南井も村上も、何方も意外と頑固だったのだ。
それで、話し合いの最中に一休みしようと村上が南井に膝枕を要求し、ごろりと寝転がってから、ふと思い出したように先の発言である。
村上の母は幼い頃に事故で亡くなっている為、彼は定期的に墓参に行くらしい。
隣街の、見晴らしの良い高台の墓地に眠っているという母に南井との事を報告に行きたいと、村上は言った。
「お祖父様お祖母様の方に先に伝えなくて良いのか?お父様もご健在なんだろう?」
南井の言葉に、村上は微妙な顔をした。
「祖父母には電話でチラッと報せた時には喜んでくれたので大丈夫だと思います。
取り敢えず連れて来なさいとは言われましたけど…。」
「そりゃそうだろうな…。
…え、俺の歳はちゃんと言った?」
「言いましたよ?」
大丈夫なのか。未だ若い孫の相手が南井のような年齢の男で。
「祖父母は何時も言うんです。とにかく、独り身で地に足がついてて誠実な人なら、どんな人でも良いって。」
「…お祖父さん達、なんかあったの?
何でそんなにハードル低いの?」
祖父母のあまりの物分りの良さに、逆に不安を誘われる南井は、思わず村上に聞いてしまった。
だが村上は首を傾げて、
「低いですか?
でも、これぞと思うくらい素敵な人が、独り身で地に足がついて誠実って、逆にハードル高くないですか?」
と、黒い瞳をキラキラさせて南井を見上げながら言う。
確かに、と南井は納得して、村上の髪を撫でる。
それを言うなら南井は何十年単位で独り身を貫いて来たし(それもどうなんだと思うが…)、過去が過去だった故に、自分は誠実でいたいとは思っている、が…。
「それに、」
と、村上が言い淀んだ。
声の調子があからさまに平坦になった。
「父の方は…あまり、交流が無くて。
親子として暮らした期間もそんなに無いんですよね。僕に興味が無かったんだろうなって、最近は思います。」
幼い頃は、あまり会えなくても自慢の父だったのだけれど、と、村上は回想する。高校3年間を同居で暮らしても、ついぞ親子らしい交わりは一度も持てなかった。だから村上は、父との関係を諦めた。
「…でも、報せない訳にもいかないんじゃないのか?」
南井の言葉に、村上は頷く。
「まあ、その内報せる事は報せます。でも、きっとあまり関心は無いだろうと思いますけど…。」
特に寂しさも感じさせず、淡々と父親の事を語る村上に、南井は 一体どんな人物なんだろうかと訝しんだ。
しかし、人には人の家庭の事情というものがあるものだ。
「だから、明日は母のお墓に行きましょう。
景色の良い場所だし、近くにもカフェがありますから気分転換になりますよ。」
「そうか、楽しみだな。」
「義希さんのご両親にも、ご挨拶に行かないといけないですよね。」
村上に言われて、南井は実家の両親の顔を思い浮かべた。2人は喜ぶだろう。
心を閉ざして、一生独り身で生きていくんだろうと諦めていた息子が、奇跡的に番になりたい相手がいると報せたら。
「そうだな…。今度、実家に付き合ってくれ。
ウチは事後報告でも構わない。どうせこの歳の子供の身の振り方に反対はしないさ。」
そう言うと村上は、南井の膝の上でニコッと笑った。
そして翌日、村上と共に出かけた南井は、思いがけない形で"運命"というものの不可思議さを目の当たりにする事となった。
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