人生2度目に愛した人は奪われた番の息子でした

Q矢(Q.➽)

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27 村上 和志は真実を知る

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村上は南井を抱え、霊園入口付近の管理棟迄歩いて、そこからタクシーを呼んだ。

万が一にも、片付けて帰っていく陽司と再びかち合ったりしないような場所に座って待ちながら、村上は南井の血の気の引いた顔を見つめた。

父の陽司を見て、陽ちゃんと呼び、気を失ってしまった南井。

日頃落ち着いている南井が、一瞬で冷静さを失う程のストレスを感じる相手…。

ピンと来た。
と言っても最初は勘に過ぎなかったが、父の様子も尋常ではなかったから、それは直ぐに確信に変わった。
勘繰りかもしれない。それでも普通の関係でない事も明らかだ。けれど南井がこうなってしまった以上、あの場で出来る事はなかった。

もし、村上の勘が当たっているとしたら。

これは危機だ。
自分と南井の関係性を揺るがす危機。村上が南井を永遠に失うかもしれない、危機だ。
頭の何処かで警鐘が鳴っている。乗り込んだタクシーの中で村上は、南井を抱きしめている自分の腕が震えているのを知った。
父の陽司が南井を捨てたアルファだという自分の推測が当たってしまとしたなら、南井は自分から離れて行ってしまうのではないか…。

村上は、何よりもそれだけが怖い。




南井が目を覚ましたのは、夜だった。

見慣れた天井、壁、閉じられたカーテン…。照度を落としたベッドサイドランプ。
ベッドの上に起き上がっても、ぼんやりと頭が重い。自分の状況を把握するのに少し時間がかかった。

墓で、陽司に会った瞬間がフラッシュバックした。その直後からの記憶が無い事からして、和志に連れ帰れってもらったんだろうと状況を整理して、南井は息を吐いた。



…これから、どうしたら良いのだろう。


やっと戻ってきた、人を好きになるという感情。
自分にはそれは許されないものなのだろうか。
固い絆で結ばれている筈の、番に放り捨てられるような人間には。

陽司に対する南井の反応から、村上は何かに気づいた筈だ。
自分の父と、南井がただならぬ関係であると。
そしておそらくもう、そこから答えを得ているかもしれない。
きっと傷つけてしまっただろう。

涙が出た。


「?!義希さん?」

寝室のドアが開いて、一瞬息を飲むような間があり、村上の声がした。

「大丈夫?気分は?」

足早にベッドに歩み寄り、南井の顔を覗き込んだ村上の表情こそ、具合いが悪そうで南井は少し笑ってしまった。
それに安心したように、強張っていた表情を緩める村上。

「びっくりさせたな。ごめん、ありがとう。」

平均よりは細身でも、意識の無い成人男性はそれなりに重かっただろう。村上に上背と南井の倍程の腕の太さと筋力がありそうだとはいえ、連れ帰ってくるのは難儀したのではあるまいか。迷惑をかけてしまったな、と南井は小さく頭を下げた。
だが村上はそれに首を振る。

「謝らないで下さい。
貴方は何も悪くない。」

布団の上に置いた南井の両手に村上はそっと手を重ね、そして、意を決したように唇を開いた。


「…父は貴方の、番だった人でしたか?」

感づかれている事を覚悟していたとはいえ、村上にダイレクトにそう聞かれて、南井は直ぐには返事を出来なかった。

目を上げると、黒い瞳が真っ直ぐに南井を見つめている。
村上は敏い。
やはりあの遣り取りだけで、全てを悟ったのだろう。
表情を見る限り、誤魔化す事はできそうもないと南井も悟った。
静かに頷くと、村上はやっぱり、というように眉を寄せて目を伏せた。

あの時村上は、父と南井の様子を見ていて、何となく頭の中でモヤッとしていた色々な事が明瞭になった気がした。点と点が繋がったような感覚があったのだ。

両親の年齢、幼い頃の母の言葉と死、父と祖父母達との関係、父と自分との関係。
 
高校生の頃に運命を理由に番を解消された南井の境遇、今の年齢。

両親と南井は同じ年齢だ。
南井が村上に、親子程の年齢差だとたまに言っていたけれど、それを聞く度、何となく両親の年齢を口にするのが憚られた。

ひとつひとつは、取り留めのない事だ。そんな問題を抱える家や人だって少なくはない。気にしなければそんな程度に片付けられるような事ばかり。
たまに、少しの違和感に引っかかっても、それだけだった。

それでも南井が目を覚まして村上の言葉に頷く迄は、自分の行き過ぎた当て推量であれば良いのにと願った。

けれど、南井は肯定した。

南井の人生の前半を壊した元・番は、村上の父である村上 陽司なのだと。

目の前が真っ暗になる感覚に陥る。


「父さんが、運命の番を見つけて、貴方を捨てたα…。」

そして、母親が、南井から番を奪ったΩ。
その2人の間に産まれた、自分。
村上だって吐きそうだ。

自分の両親が、そんな人間達だった事に。
自分の両親が、かつて南井に大きな傷を与えた愚かな人間達だった事に。


母は、子供だった村上の問いに、『運命だったから』だと言った。
幼かった村上は、両親はドラマチックな出会いと恋をして結ばれた、運命の番なのだと思っていた。

けれど実際の父と母は、運命をかさにきて、略奪し合った者同士。
誰かの不幸には目を瞑って身勝手に、生きた卑怯者達だった。

大切だった筈の母の面影が、黒く塗り潰されていく。













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