おれとかれぴとかれぴのセフレ

Q矢(Q.➽)

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 自分が一目惚れしたおれと大翔が単なる友人ではなく、お付き合いしたてほやほやの恋人同士だと知ったみさかは、激しく動揺したらしい。
 人と獣人が共生するようになり、約千年。多様性なんてものは当たり前の世の中になって、もう歴史の教科書にある数百年前みたいに同性愛がどうのなんて時代じゃない。同性カップルも同性夫婦も、人間と獣人のカップルや夫婦も、世界はあらゆる組み合わせのカップルで溢れてる。
 だから、みさかが動揺したのはそこじゃなかった。みさかが心配したのは、おれと大翔の体格差だった。
 その当時みさかと、バイトに入ってまだ日も浅かった大翔は、店で顔を合わせれば挨拶をする程度の関係でしかなかったらしい。だけど、おれが大翔の恋人だと知ってからは、みさかは積極的に大翔に近づいた。最初は大翔も、急に友好的に態度が変わったみさかに少し警戒していたものの、接客態度や任されたディスプレイを何度も褒められるようになったのがよっぽど嬉しかったのか、爆速で心を許したもよう。そういやその辺りの頃に『最近バイト先でよく褒められるようになってさあ。僕って仕事の飲み込みが早いみたい』って嬉しそうに言ってたのを思い出した。単に仕事に慣れてきたのかと思ってたけど、そういう裏があったんだなぁ。
 大翔は、基本的に人懐っこくて、すぐに他人を信じてしまう。そこが良いところではあるんだけど、今こうして聞いてるとそれも良き悪しきだと思っちゃうなー。おれも気をつけないと。

 とまあ、そんなこんなでどうにか大翔と打ち解ける事に成功したみさかは、大翔がバイトに入っている日を狙って店に立ち寄るようになった。そんで、最近婚約者ができた友人が食事に付き合ってくれなくなったのを理由に、大翔を誘うようになったんだと。勿論、おれが大翔を迎えに来ていない日を狙って。実はおれもアイスクリーム屋で週3のバイトを始めてたから、大翔のバイト先に迎えに行ける頻度はせいぜい週1くらいになっていた。どうせ大翔には大学で顔を合わせるし、毎週末には決まってデートしてたから、それで十分だと思ってた。
 そんな訳で、バイト後におれと会う予定も無く、日頃から食欲が爆発してる大翔は、『ご馳走する』の一言で毎回疑いもせず着いて来たらしい。
 そうして食事のたびに、大学は楽しいかとか、業務に関する悩みなんかを聞き出してる内に、とうとう恋人であるおれの話が出てきたんだそうだ。
 曰く、

『恋人が可愛過ぎてなかなか手が出せない』

と。そんで、その恋人が店によく顔を出してたおれである事も、その時はっきりと本人の口から聞いたんだと。

「弥勒くんが可愛いのは完全同意として、手が出せないと聞いた時は心底安心したよ。これなら当分、2人の仲は進展せずに済みそうだってね。
 本当に、灰田が警戒心の薄いバカで良かったよ」

「…」

 手で胸を撫で下ろすゼスチュアをしながらそう言ったみさかに、微妙な沈黙で答えるおれ。大翔を警戒心の薄いバカってのは、おれもめちゃくちゃそう思うけど…見てよ、大翔のヤツを。ショックで耳も肩も尻尾もペタンとしょげてる。
 そりゃそうか。自分に目をかけてくれて、ついさっきまでは体の関係まで持ってた超かっこいいエリート社員が、実は心の中では自分をバカだと見下してたんだから。しかも自分の恋人を好きで、その恋人との関係を牽制する為にセフレ関係を持ちかけてたなんて知っちゃったら…大翔じゃなくても情報過多でキャパオーバーになるわ。
 それにさっきから聞いてると、みさかって大翔に容赦ない毒舌だし。身体も大きいけど、何よりおおらかな性格で、あまり他人の悪意に触れる事無くすくすく育ってきたのが顔に出てる大翔みたいなヤツにとっては、今のみさかの態度はあまりにキツいと思われ。よく見たら目が充血してるし…。

「でもそう日を置かない内に別の悩みを打ち明けられるようになった。今度は可愛い過ぎて我慢の限界が来そうだってね。驚いたよ。手が出せないから我慢の限界になるまでのスパンがあんまりにも短か過ぎて」

 吐き捨てるように言いながら、じろりと大翔に視線を向けるみさか。みさかとおれはソファに座ってて、大翔は立ってるんだから少し見上げてる筈なのに、見下してるように見えるのはなぁぜなぁぜ?
 そんで、そんな視線で刺された大翔は、バツが悪そうに俯いた。

「俺は焦ったよ。この駄犬、こんな体格差で弥勒くんに不逞を働くつもりかと。このままじゃ2人を引き離す前に、小さな弥勒くんがズタズタに傷つけられて心までぺしゃんこに潰されてしまう…。そこで俺は、当初考えていた作戦を速やかに実行に移した。彼の有り余るリビドーを、俺が手っ取り早く解消してやる事にしたんだ。いずれ別れてもらうまで、弥勒くんには無事でいてもらわなきゃならないからね」

「…(また小さいって言った)」

「しっかし、セフレにと持ちかけて3回目でホテルに着いて来た時は安心したよ。よほど溜まってたのか、最初からがっつかれて参っちゃったけど…。でも、弥勒くんを守る防波堤として役立てると思えば、尻くらい惜しくはないしね」

「はぁ…」

 さっきの大翔の発言に次ぎ、再びドン引きするおれ。なのに当のみさかは妙に得意げ。これ、マジでおれの為だって信じてるんだろうなあ。すっごいズレてるけど。
 それにしても、初対面なのにコイツ、おれに小さいって言い過ぎじゃね? 
 もう言葉が無くて、肩を抱かれたままみさかの顔をまじまじと見つめてしまう。すると何を思ったのか、みさかが顔を近づけて来たかと思った途端、チュッとキスされた。

 なぜに?
  
 唇は2、3秒で離れたけど、おれは一瞬何が起きたかわからず呆然。丸い目を更に丸くしてみさかを見ると、彼はまたあの優しい笑みを浮かべながらおれに言った。

「あ、安心していいよ。俺と灰田、本当に割り切り関係でキスはNGだったから」

「あ、え、そうなんだ…」

 大翔を見ると、こっちを見つめたまま滝のような涙を流してたので、見なかった事にする。まあ、動機から何からをこれだけ赤裸々に語ってくれたみさかが、今更嘘や誤魔化しを言うとは思えないから素直に信じるとするか。
 
 ……いや、違う。今、問題はそこじゃない。

「なんでおれに断りもなくキスするんだよ」

「え?…可愛かったから?」

「…」

「灰田とは別れるんだから、問題ないだろ?」

 
 どうしよう。全く話しが通じないぞ。






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