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俺のタイプ

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  留学生。
  便利な響きだ。

  実際はカップルぶち壊し過ぎて素行がバレそうになって急いで母国から逃げただけなんだがな。
  皇族に関わってしまったのは流石に不味かった。いや、俺は意図してなかったんだけど、αと見れば伏し目がちの楚々とした健気Ωを装って庇護欲を誘うのが癖になってたもんで、思いがけず皇太子とぶつかった時にもそれが発動しちゃったんだよな。
  それで、皇太子を一目惚れさせてしまった。

「私は奥ゆかしい者が好きなんだ!!」

と、出会って2週間後には俺を抱きしめながら幼い頃からの許嫁の令嬢に婚約破棄を言い渡しちゃってたから、俺ってマジで魔性だなって思ったわ。
  でも、スリルを求めてしまう性だから、最終的には楽しんでしまっていたんだけど。
  自分の性格が相当捻れてる自覚はあるし、何時迄もこんな事してちゃ駄目だよな~とは思うんだけど、やめられないんだよな。俺に婚約者を奪われたとダメ押しされた時のあの絶望の表情は、男女問わず背筋をゾクゾクさせてくれるからさ。

  だけど…。

  婚約者にあらぬ罪を着せられて狼狽する奴らは多かったが、あんなに毅然と強い眼差しでしっかり言った奴は初めて見たな。
  噂に聞いてた通りの我儘おぼっちゃまってだけじゃ、ないのかも知れない。

  俺は昨夜のエリオを思い出して、ふむ と腕を組んだ。

  はっきり言うと、俺はガッチリ美丈夫とかイケメンより、スラッとしたのがタイプなのだ。
これは、子供の頃からそう。だが悲しいかな、俺自身がΩなもんで、寄って来るのは男臭くて暑苦しいαばっかり。
  成長と共にその傾向は顕著になり、俺は朧月の君なんて名をつけられてチヤホヤされ出して、好みのタイプのかわい子ちゃん達には近づくどころか敵視される始末…。

  そりゃま、そうだよな。

  αが次々、俺に現を抜かしていく。俺が受け入れなくても、俺の為に恋人や婚約者と別れるバカが後を立たない。次は自分の相手を奪られるんじゃないか、と そう危惧して怯えるのは当然だ。
  匂いなんか感知しないβの男だって、俺の顔にぼおっとなるんだから。

  いやまあそれを良い事に悪ノリして遊んでた事を、最近は少し後悔はしてたんだよな。俺のせいで将来設計変わった人達、結構いるからさ、罪悪感はあるよ。
  でも、俺だけが悪い訳じゃ、ないじゃん?




「昨夜は、粗相を致しまして申し訳ございませんでした」

  学園の中庭のベンチで一人、ぼんやりとしていたエリオを見かけて近づいた。斜め後ろから近づくと、膝の上には本。
  初秋で木々は少し色づいて景観はいい感じだろうけど、もう肌寒いだろうに。

  物好きだな、と思いながら、驚かせないように声をかけた。
  だが、返事が無い。本に没頭しているのだろうか?と思いながら前に回り込んでみた。

  エリオの瞼は閉じられていた。

  艶のある黒髪が額と頬に流れ落ち、長い睫毛が伏せられ、頬の上に影を作る。あんなに強く美しい光を放つ強情そうな瞳が隠されているだけで、こんなにも稚いなんて。

  スッとした上品な鼻梁、程よく小さなピンクの唇は薄く開かれて。化粧っ気なんかないのにきめ細かい素肌。
  すんなり細い首も、未だ頼りない骨っぽい肩も、本の上に落とされた細く長い指と健康的な艶を持つ 形の良い爪迄も。

  全てが芸術品のように美しくて、俺の胸はドクンと大きく音を立てる。

  昨夜の胸の高鳴りが、気の所為では無かった事を俺は知った。
  婚約者である王太子にもとうとう心変わりされ、婚約破棄寸前と噂される、悪名高き公子。その彼は、実際こうして眺めてみれば、全てが俺の好みど真ん中の綺麗な男だった。

  でも、王太子の婚約者って事は、エリオは多分、俺と同じΩだよな…と思いながらエリオの首筋に鼻を寄せてみた。

  …?

  わからない。どっちだ。

  エリオの項からは、仄かな香料以外、何の匂いもしなかった。厳密には、エリオ自身の僅かな体臭はあったが、バース性を感じさせる類のものではなかった。

  まさか、βなのか?

  確かにβは人類の8割以上を占める性だが、高位貴族の子弟ではあまり聞かない。

(どういう事なんだ…?)

  取り敢えず、エリオが冷えてしまいそうなので、鞄に入れていた小さなブランケットを彼の肩に掛ける。

  エリオは未だ目を覚まさない。俺はその横にそっと腰掛けて、俯いて寝ている彼の横顔を見つめた。


  エリオが目を覚まして俺に気づいて小さな悲鳴を上げるまで、あと5分。




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